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【東野圭吾】『祈りの幕が下りる時』についての解説と感想

本記事では東野圭吾さんの小説『祈りの幕が下りる時』を紹介します。

加賀恭一郎シリーズの第十作目にあたる作品です。

祈りの幕が下りる時

祈りの幕が下りる時

著者:東野圭吾

出版社:講談社

ページ数:448ページ

読了日:2023年3月17日

 

加賀恭一郎シリーズの十作目。

加賀の母親が登場する作品。

阿部寛さん主演で映画化もされている。

 

あらすじ

葛飾区小菅のアパートから遺体が発見された。

アパートの住人の越川睦夫は姿を消していた。

遺体は捜査の結果、滋賀で行方不明届が出されていた押谷道子と判明。

松宮たちは道子が上京した理由は浅居博美に会うためと突き止める。

松宮は新小岩で発見された焼死体との関連性を疑い、

アパートの部屋の布団や枕から検出されたDNAが新小岩の焼死体と合致した。

松宮が越川の部屋のカレンダーの書き込みのことを加賀に話すと、

加賀は書き込みの内容に興味を持つが。

 

主な登場人物

加賀恭一郎:日本橋署の刑事。警部補。

松宮脩平:警視庁捜査一課の刑事。加賀の従弟。

 

加賀隆正:故人。加賀恭一郎の父親。

金森登紀子:看護師。隆正の担当看護師だった。

金森祐輔:登紀子の弟。出版社の写真部員。

 

田島百合子:故人。加賀恭一郎の母親。

      仙台のスナック『セブン』で働くことに。

宮本康代:仙台で小料理屋とスナック『セブン』を経営していた。

     スナック『セブン』で百合子を雇う。

綿部俊一:スナック『セブン』の客。電力関係の仕事をしていた。

     田島百合子と付き合っていた。

 

押谷道子:被害者。『メロディエア』の彦根支社勤務。

     浅居博美の中学時代の同級生。

押谷文彦:道子の兄。五十歳前後。

押谷昌子:文彦の妻。

 

浅居博美:演出家、脚本家、女優。芸名は角倉博美。

浅居厚子:浅居博美の母親。浅居忠雄とは離婚している。

浅居忠雄:博美の父親。以前は『アサイ洋品店』を経営していた。

     借金を苦にして自殺。

苗村誠三:浅居博美の中学校時代の教師。社会科の先生。

吉野元子:五十歳前後。養護施設『琵琶学園』副園長。

 

諏訪建夫:劇団『バラライカ』の代表。浅居博美の元夫。

岡本恵美子:元女優。女優時代の芸名は月村ルミ。

      劇団『バラライカ』時代に浅居博美と親しくしていた。

 

越川睦夫:押谷道子の遺体が発見されたアパートの契約者。

 

石垣:警視庁捜査一課の係長。

小林:警視庁捜査一課の主任。

坂上:警視庁捜査一課の刑事。松宮の先輩。

富井:管理官。加賀が警視庁捜査一課のいた時の上司。

感想

感想

前作までと同様に人情ものというか物語性がある話。

ただしミステリー要素もしっかりあって、

行方不明の人間を追ったり、日本橋を囲む12の橋の謎についてなどがある。

 

読んでる時はとにかくどういう繋がりがあるのかが予想できなかったし、

当然結末も予想つかなかった。

かなり色々な要素が詰め込まれている作品になっている。

これに物語性があって、かなり過去の話も絡んできて・・・という感じですね。

 

今作の特徴のひとつはやっぱり加賀の母親ですかね。

突如失踪したというのと一人で寂しく亡くなったぐらいで

あまり詳しく語られてこなかった母親。

その母親の失踪の理由であるとか、失踪後の生活も描かれている。

 

 

ネタバレありの感想

今回もかなりの文句になっているので、

文句や愚痴が苦手な方は読まないでください。

 

個人的に気になったのは二点。

一点目は殺人の動機。

横山一俊に関しては理解も納得もできる。

 

苗村誠三に関してはちょっと納得できない。

博美目線では苗村が博美に執着を見せているので

苗村と忠雄がトラブルになった結果か?と思いきや、

忠雄の話では苗村が忠雄に声をかけてきたらホテルの駐車場でという短絡的な理由。

博美なら苗村の当時の状況を知っているからまだわかるけれど、

忠雄はそこまでのことを知らないのならあまりにも短絡的すぎるでしょう。

苗村は結婚していて、学校の先生だったわけだから、

周りの人間が騒ぎ始める可能性が高いわけだからな。

 

押谷道子に関しては正直論外にしか思えない。

忠雄に会った段階の道子に何かそこまで悪意があったとは思えないし、

そんなにすぐ殺そうとする忠雄っておかしいでしょう。

だいたい忠雄は死にたかったのであれば道子や博美の前から姿を消して、

自分で死ねばよかっただけなんじゃないのか。

アパートに連れて行くまでの時間もあるんだから、

そこまで突発的な犯行とは思えないしな。

浅居忠雄という存在は公的(法的)には死んでるわけだから、

基本的にそこまでの騒ぎになるとは思えないからな。

この件に関してはどうも納得できない。

 

二点目は

越川睦夫、横山一俊、綿部俊一の正体が浅居忠雄だったとなれば

確かに驚きはあるけれど、

横山一俊以外どうして偽名を名乗る必要があったのかが全くわからない。

横山一俊に成り代わる理由はわかる。

越川睦夫と綿部俊一は全くわからない。

 

忠雄は横山一俊に成り代わってそのまま原発で働いてるわけだよね。

忠雄と博美の手紙の件からもこれは確実。

じゃあどっから綿部俊一なんてのが出てくるのか?必要になるのか?が

全くわからない。

『ワタベ配管』の綿部と『横山一俊』の名前をひっくり返して『俊一』って

作中で語られるけれど、なぜ偽名が必要なんだ?

横山一俊の住民票が削除されてるから?

でも放射線管理手帳は住民票が必要と説明されてるわけでな、

全く分からない。

綿部俊一と越川睦夫名義では原発で働いてた人はいないと作中にあったしな。

 

これは越川睦夫の件も同じで、

小菅のアパートの契約の時の前の住所も

でたらめである可能性が高いと作中にあるから、

完全なでっち上げだろうと推測するけど、

なぜそんな複数の偽名を使う必要があるのか?

小説的には謎で引っ張れるから都合がいいんだろうけど、まったく分からなかった。

 

で、書いてて思ったんだけれど本物の横山一俊は原発で四年働いていたのなら、

忠雄が横山一俊に成り代わって原発で働くって結構リスク高いですよね。

以前は若狭にいて、今度は福島に行くと本物の横山一俊は語っているけど、

どこの原発に本物の横山一俊を知っている人物がいるか

忠雄には分からないんじゃないかな。

本物の横山を知っている人物がいれば一発でアウトだろうしな。

 

小さな部分では、

忠雄が田島百合子の件で加賀恭一郎に手紙を出したのは素晴らしいとは思うけれど、

なぜその優しさを押谷道子には与えられなかったのか。

 

浅居厚子は自殺未遂をするけれど、

忠雄にやった仕打ち考えたら今更すぎません?

夜遊びと離婚ぐらいならまだわかるけれど、

慰謝料として忠雄名義の口座から全額引き出す、

さらには実印まで使って忠雄名義で大金を借りるって、

どう考えても酷いじゃないですか。

博美に何を言われて自殺をしようとしたのかは不明だけれど、

坂上が言った「良心の欠片が残ってた」とかそういう問題には思えないんですけどね。