本記事では宮部みゆきさんの小説『我らが隣人の犯罪』を紹介します。
我らが隣人の犯罪
著者:宮部みゆき
出版社:文藝春秋
ページ数:253ページ
読了日:2023年3月19日
宮部みゆきさんの『我らが隣人の殺人』。
表題作の「我らが隣人の犯罪」は宮部みゆきさんのデビュー作である。
単行本は1990年出版の短編集である。
・我らが隣人の犯罪
あらすじ
中学一年生の三田村誠は、父親、母親、妹の智子の四人家族。
半年ほど前に「ラ・コーポ大町台」に引っ越してきた。
隣の部屋の橋本美沙子が
室内で飼っているスピッツのミリーの鳴き声に終日悩まされることになった。
時々家に遊びにやってくる毅彦叔父さんとミリーを誘拐しようとするが。
登場人物
・三田村誠:中学一年生。
・三田村智子:誠の妹。小学校五年生。
・毅彦:誠たちの叔父。市立病院の事務局勤務。
・橋本美沙子:誠たちの右隣の家に住んでいる女性。スピッツのミリーを飼っている。
・田所:誠たちの左隣の家に住んでいる夫婦。
ネタバレありの感想
個人的にはこの話が一番好きです。
私のイメージだと宮部みゆきさん=少年が主人公なんだけれど、
これも中学一年生が主人公の話。
念願の家を手に入れたと思ったら騒音問題というアリがちな話。
隣の橋本はとにかく酷いし犬をどうにかしようとする気持ちも分かる。
犬を連れだして、さらに脱税している隠し口座の通帳を取り引き材料に
慰謝料としてお金を手に入れて五万円でこれがオチかと思いきや、
そっから左隣の田所さんの家にも税務署の人間が来るという展開。
デビュー作からしてこの完成度は流石としか言いようがない。
右隣の橋本家と左隣の田所家を間違えるというのは
若干のご都合主義だとは思うけれど、それ以外は良かった。
誠もだけど、智子が可愛いキャラをしている。
・この子誰の子
あらすじ
両親が親戚の結婚式で一人留守番をしているサトシ。
夜の九時過ぎに突然赤ん坊を抱いた女性がやってきて、
女性はサトシの父親と恋人で、赤ん坊はサトシの妹だと言う。
しかし、サトシには父親に隠し子がいないことをわかっていて。
登場人物
・サトシ:十四歳。
・美里恵美:三十歳前後。
・美里葉月:去年の五月五日生まれ。
ネタバレありの感想
これも少年が主人公で、
非配偶者間人工授精(AID)を題材にした話。
割合この手の題材を扱った小説は多いので
今となってはだけど、そこまでは目新しさはないんじゃないかな。
もっとも出版当時だとどうなのかは分からない。
気になって調べたら非配偶者間人工授精(AID)は
国内では1948年に行われているらしいのでかなり古い。
オチを知った上でもう一回最初から読むとなるほど、と思わせる。
・サボテンの花
あらすじ
六年生の卒業研究でサボテンの超能力研究をしようとする一組の子供たち。
一組の担任も他の教師たちも父母たちも反対するなか、
権藤教頭は子供たちの意思を尊重するが。
登場人物
・権藤:教頭先生。
・秋山徹:大学三年生。
・稲川信一:六年一組のリーダー格。
・山本直美:六年一組の生徒。将来の夢は『女史』と呼ばれること。
・宮崎:六年一組の担任。
ネタバレありの感想
主人公は大人だけれど、子どもたちが中心の話。
特に大きな事件が起きるような話ではない。
サボテンには超能力があるんですという話とそれを見守る教頭の話。
最後の教頭へのテキーラのプレゼントという全く予想できなかったオチ。
もう一回読み直すとしっかりと伏線が張られているのが分かる。
あとサボテンのテレパシーの実験がインチキだったのも含めてかなり好きな話。
・祝・殺人
あらすじ
妹の結婚式に出席した刑事の彦根和男。
披露宴のエレクトーン奏者・日野明子から
晴海荘のバラバラ殺人事件のことで話があると言われる。
バラバラ殺人事件の被害者・佐竹和則が結婚披露宴で司会をした時に
明子は佐竹の不審な行動を見たというが。
登場人物
・彦根和男:警視庁城南警察署の刑事。
・日野明子:式場専属のエレクトーン奏者。
・佐竹和則:事件の被害者。二十九歳。電機メーカーの営業マン。
ネタバレありの感想
安楽椅子探偵的な話。
披露宴での祝電の披露は
憲法の『信書の秘密』抵触するのか?しないのか?というのは面白い。
こういう部分はのちの『火車』や『理由』の社会派的要素に通じる部分を感じる。
指紋識別の話はおそらくこの時ぐらいから出だしたのかな、
これをバラバラ殺人事件の動機にしているのが新鮮。
・気分は自殺志願者
あらすじ
小説家の海野周平。
公園のベンチで中田義昭から
絶対にバレることのない自殺の方法を考え出してほしいとお願いされる。
周平は中田になぜ死にたがるのか?自殺に見えると困るのはなぜか?聞くが。
登場人物
・海野周平:推理小説家
・中田義昭:「グリル・イソザキ」のボーイ長。
ネタバレありの感想
これはユーモア小説って感じ。
突発性味覚減退症と言われて普通に受け入れられるのはコロナの影響だろうなと。
小説家が実際の問題を解決するために知恵を使うという話。
読後感はかなり良いのでおそらくラストに持ってきたのかな。
総評
手軽に読めるし、気軽に読めてかなり面白い。
基本的には読後感が良いし、文章も癖がなく読みやすい。
1990年出版なので若干時代を感じさせる部分はあるけれど、
特に支障ないんじゃないかな。
時代性に関しては若い人がどう感じるかは自信がない。
バラエティに富んでいる作品が読みたい方にはおすすめです。