本記事では横山秀夫さんの小説『陰の季節』を紹介します。
D県警シリーズの一作目にあたる作品です。
陰の季節
著者:横山秀夫
出版社:文藝春秋
ページ数:247ページ
読了日:2023年3月21日
横山秀夫さんの『陰の季節』。
警察の管理部門の人間を主人公に据えた話になっている。
四篇収録の短編集。
D県警シリーズの第一作目。
第5回松本清張賞受賞作。
・影の季節
あらすじ
D県警の警務課調査官二渡真治。
二渡の人事担当歴は長く、
組織運営の総合企画を担う警務課調査官を任ぜられてからも、
人事の素案作りに関わり続けている。
内示を五日後に控え、定期人事異動の名簿作成作業が大詰めを迎えていた。
その時、大黒警務部長から厄介なことを聞かされる。
天下り先のポストの退任を拒否すると。
二渡は尾坂部の真意を探ることになるが。
登場人物
・二渡真司:D県警警務課調査官。警視。四十二歳。
・白田:警務課長。
・大黒:警務部長。
・上原:警務課係長。
・前島泰雄:W署の刑事課長。二渡の同期。
・佐々木勝利:二渡の同期。
・工藤:防犯部長。
・尾坂部道夫:『産業廃棄物不法投棄監視協会』の専務理事。元D県警刑事部長。
・尾坂部恵:尾坂部道夫の娘。三十歳。都内の旅行代理店に勤務。
・宮城:『産業廃棄物不法投棄監視協会』の事務局長。
・青木源一郎:『産業廃棄物不法投棄監視協会』の運転手。
ネタバレありの感想
警察小説ではあるけれど、
警務課調査官というあまり見慣れない役職なので
最初はちょっと面食らった部分がある。
ただ読み進めていけば評価高いのにも納得の話。
警察にはある種の掟があるのに
なぜ尾坂部が天下りポストを退任しないのかが謎としてあるけれど、
謎解きというよりかは話のとっかかりとして人間ドラマを描いている感じかな。
ラストはかなり苦いかな。
・地の声
あらすじ
新堂隆義は順当にいけばこの春、小さな所轄の署長を任されるはずだったが、
入院、手術、療養の結果、警務部監察課監察官の辞令をベッドで受け取った。
D県警監察課宛てに、
Q警察署の生活安全課長が『パブ夢夢』のママとできているという、
タレコミの封書が届く。
新堂はこの密告文書について調べることになるが。
登場人物
・新堂隆義:D県警警務部監察課監察官。五十歳。
・曾根和男:Q警察署生活安全課長。
・柳一樹:Q署刑事課。巡査部長。三十二歳。
・佐賀敏夫:Q署生活安全課少年係。巡査部長。
・三井忠:Q署生活安全係。巡査長。三十四歳。
・竹上:監察課課長。
・勝又:上席監察官。
・水谷:科学捜査研究所次長。
・森島光男:鑑識課課長。
・新堂加奈子:新堂隆義の妻。
・新堂明子:新堂隆義の一人娘。
・二渡真治:警務課調査官。
ネタバレありの感想
密告文書に関わる話からある程度想像できるだろうけど、これまた苦い話。
新堂と曾根の置かれた環境が余計に重苦しさを感じさせる、
ラストは曾根は自業自得だし、
新堂は同情すべきところはあるけれど、
よくよく考えれば一番きついのは柳じゃないのかと。
新堂から自作自演を疑われるわけだからな。
・黒い線
あらすじ
D県警警務課の婦警担当係長の七尾友子。
機動鑑識班の平野瑞穂巡査が無届け欠勤していると電話連絡を受ける。
瑞穂はひったくり犯の似顔絵を描いて、
その似顔絵をもとに犯人が逮捕されていたのだが。
その翌日になぜ瑞穂は無届け欠勤をしたのか、友子は瑞穂を探すことになる。
登場人物
・七尾友子:D県警警務課婦警担当係長。警部。
・平野瑞穂:機動鑑識班。巡査。二十二歳。
・林純子:交通企画課。瑞穂と寮で同室。
・赤間肇:警務部長。・森島光男:鑑識課長。
・湯浅:機動鑑識班長。
・舟木源一:広報官。二渡の同期。
・初田トシ江:寮母。
・七尾八千雄:七尾友子の子供。中学三年生。
・二渡真治:警務課調査官。
ネタバレありの感想
単行本書下ろしなので98年に書かれた話。
警察という男社会に置ける女性警察官の話。
今の警察がどうなっているのかは分からないけれど、
今でも似たような部分はあるんじゃないかなと思う。
社会派的な要素を除いても話としてもよくまとまっている。
基本これも苦い話だけど、瑞穂の休職が認められたのだけは救いかな。
・鞄
あらすじ
警務部秘書課の課長補佐である柘植正樹は『議会対策』がその職務である。
柘植は三崎県議から鵜飼県議が県警に向けて、
『爆弾質問』をするとの情報を教えられる。
鵜飼は四年前の県議選で陣営が現金買収事件を起こし、
運動員十五名の逮捕者を出していた。
柘植は鵜飼の『爆弾』の中身を確かめようとするが。
登場人物
・柘植正樹:D県警警務部秘書課課長補佐。警部。三十六歳。
・鵜飼一郎:五期連続当選の大物県議。五十六歳。
・坂庭昭一:秘書課長。
・柘植美鈴:柘植正樹の妻。
・柘植守夫:柘植正樹の息子。八歳。
ネタバレありの感想
鞄に関してはなんとなく罠なんだろうなってのは分かったけれど、
黒幕というか坂庭が柘植を嵌めたってのは予想外すぎて、
坂庭が主人公の物語ってのは完全に予想外だった。
だから鵜飼は臆病な性格とか瀬島に言わせてたのかと。
完全にやられたけれど、子供に対して友達を一人でも作れってラストは悪くない。
総評
警察小説ではあるんだけど、
殺人事件が起こって犯人を捜してというよくある形ではない。
四篇とも警務部の人間が主人公になっていて、
警察内部の人間関係がこれでもかというほど濃く書かれている。
さらに謎もあって、先の展開が気になるようになっているし、
一捻りがあって短編なのにかなり濃密な話になっている。
単行本は1998年発売なので20年以上前の小説だけど、今でも十分楽しめる話だと思う。