本記事では横山秀夫さんの小説『動機』を紹介します。
動機
著者:横山秀夫
出版社:文藝春秋
ページ数:312ページ
読了日:2023年3月23日
『このミステリーがすごい!2001年版』国内編2位の作品。
表題作の「動機」は第53回日本推理作家協会賞短編部門受賞作。
四篇収録の短編集。
・動機
あらすじ
J県警本部警務課企画調査官の貝瀬正幸。
師走のある日、父親が入院してる病院に面会に訪れる。
面会の最中に携帯電話に着信があり、
問題が発生したので至急当庁してほしいと告げられる。
U署で一括保管していた三十人分の警察手帳が盗まる事件が発生。
警察手帳の紛失事故防止を狙った導入した新制度で、起案したのが貝瀬。
貝瀬はこの事件の真相を探ろうとするが。
登場人物
・貝瀬正幸:四十四歳。J県警本部警務課企画調査官。
警察手帳の一括保管制度の起案者。
・貝瀬愛子:正幸の妻。
・八木あかね:貝瀬の父親の担当看護師。
・井岡:本部警務課。貝瀬の直属の部下。
・小菅:警務課長。
・鴨池:警務部長。
・青山:本部長。
・益川剛:四十五歳。U署刑事一課盗犯係長。当直責任者。警部補。
・戸塚浩一郎:U署刑事一課盗犯係。
・山崎朝代:U署警務課。一般職。
・大和田徹:五十九歳。U署警務課主任。『軍曹』『曹長』とあだ名される堅物。
U署一階フロアの保管責任者。
・神谷潤一:U署警務課。巡査。
ネタバレありの感想
警察の管理部門の調査官の主人公と警察署内部で起こる事件。
短編だけど、かなり色んな要素が詰め込まれている話。
貝瀬と警察官だった父親、刑事部と警務部の確執、退官間近の『揺らぎ』、
さらに誰が手帳を盗んだかという話が詰め込まれている。
貝瀬と愛子の会話が伏線になってたり、
大和田が犯人で手帳が無事見つかったと思いきや
見つかった手帳が二十八冊で真相は別のところにあったりと完成度は高い。
ラストはかなり読後感は良い話。
・逆転の夏
あらすじ
十三年前の女子高生殺人事件で長い間刑務所に服役してた山本洋司。
出所した今は「ノザキ典礼搬送」に勤める。
ある夏の夜自宅に見知らぬ男から電話がかかってくる、用件は殺人依頼。
電話をかけてきた男「カサイショウジ」から
山本の銀行口座にはお金も振り込まれはじめる。
当初は「カサイ」の話を聞いているだけだったが、完全犯罪の話を聞かされて。
登場人物
・山本洋司:『ノザキ典礼搬送』の社員。殺人の前科があり十年余り服役していた。
・野崎:『ノザキ典礼搬送』の社長。
・佐々木好子:『ノザキ典礼搬送』の社員。
・及川:保護司。シベリアの収容所で山本の父親と一緒だった。
・カサイショウジ:山本に電話をかけてきた男性。
・酒井静江:山本の元妻。山本の間に息子がいる。
ネタバレありの感想
この本で一番面白かったし、短編ものではかなりの上位に入りそうな作品。
主人公は女子高生殺しの前科があり出所後の男性。
女子高生殺しの前科こそあるけれど、
山本に感情移入できるようになっているし、謎解き要素もしっかりある。
横山さんの文体も相まってかなり没入感がある。
前科者ということもあるけれど、山本が孤立して堕ちていくのは必見。
救いのあるラストになっている。
最後に山本が助かったけれど、助からなくても話としては結構面白いかなと思った。
もっともその場合は読後感は最悪になるだろうけれど。
・ネタ元
あらすじ
「県民新聞」の女性記者、水島真知子。
真知子が三か月前に書いた一本の記事が原因で
鷹見市を舞台に新聞拡張戦争が起きてしまう。
全国紙や有力地元紙に防戦一方の「県民新聞」。
鷹見市で起きた主婦殺害事件が経営陣の目に失地回復の好機と映り。
登場人物
・水島真知子:二十九歳。県民新聞の記者。
・東田:三十二歳。県民新聞の警察担当キャップ。
・矢崎:県民新聞の記者。真智子の後輩。
・加納ひろみ:真智子の後輩。一年生記者。
・進藤:県民新聞のデスク。
・草壁:三十五歳前後。東洋新聞。
・佐伯美佐江:地裁刑事部庶務係。
ネタバレありの感想
新聞記者が主人公の話。
これもかなりの要素が詰め込まれている話、
男性社会における女性の葛藤であったり、新聞拡張戦争の話だったり。
元新聞記者の横山さんならではの話なのかな。
書かれたのが2000年なので、
今とはまた新聞経営とか記者の現場も変わってるのかなと思うけれど、
話としては十分面白い。
引き抜かれたのはおまえかよってオチなのに不思議と悪くない読後感になっている。
・密室の人
あらすじ
D地裁の裁判長・安斎利正。
安斎は殺人事件の審理中に法廷で居眠りをした挙句、
寝言で奥さんの名前を呼んでしまう。
そのことをD日報の三河という記者が記事に書こうとするが。
登場人物
・安斎利正:四十九歳。D地裁の裁判官。
・安斎美和:利正の妻。
・安斎康江:故人。利正の前妻。
・小牧奈津子:弁護士。
・楠木:D地裁所長。
・設楽:総務課長。
・明石:書記官。
・三河:三十半ば。D日報の司法記者。
ネタバレありの感想
裁判長が主人公の話。
事件らしい事件が起きるわけではないけれど、それでも読ませるものはある。
本の最後ということもあるけれど、
ラストは明確に書いて欲しかった。
そして、できれば賭けに勝って欲しかった。
総評
警察官、前科を持つ男、新聞記者、裁判官と多種多様な人物が主人公になっている。
一方で共通してるのは濃い人間ドラマが描かれていること。
「動機」は受賞してるだけあってかなり完成度が高い作品。
警察でも管理部門の人間が主人公なので、
通常の警察小説とは違うがミステリー要素も十分で楽しめる。
私のおすすめは「逆転の夏」。
女子高生殺しの前科がある男が電話で殺人を頼まれるという話。
これはとにかくおすすめ。
wikipediaによるとD県警シリーズになっているけれど、
「動機」に二渡の名前が一か所(厳密にいうと二か所)と
「密室の人」にD地裁やD日報の名前が出てくるぐらいじゃないかな。