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【米澤穂信】『満願』についての解説と感想

本記事では米澤穂信さんの小説『満願』を紹介します。

満願

満願

著者:米澤穂信

出版社:新潮社

ページ数:422ページ

読了日:2023年4月29日

 

米澤穂信さんの『満願』。

第27回山本周五郎賞受賞作。

「ミステリが読みたい!2015年版」、「このミステリーがすごい!2015年版」、

週刊文春2014ミステリーベスト10」の

国内部門でそれぞれ1位に選ばれ三冠を達成した。

六篇からなる短編集。

「夜警」、「万灯」、「満願」の三編はテレビドラマ化されている。

 

・夜警

あらすじ

ある夜、新人の川藤巡査が駆け付けた現場で死亡する事件が起きた。

同じ交番の柳岡は振り返る、川藤は警官に向かなかったと。

川藤はスナックの喧嘩程度で拳銃に手が伸び、

ミスを小細工で誤魔化そうとする男だったと。

そして川藤が殉職した日は朝からおかしなことが続いていたと。

 

登場人物

・柳岡:緑1交番の交番長。巡査部長。

・梶井:柳岡の二年後輩。

・川藤浩志:警察学校を出て緑1交番に配属された。

・田原美代子:バーのホステス。「二番」の符牒で呼ばれている。

・田原勝:美代子の夫。傷害で二回検挙されている。

 

ネタバレありの感想

警察官が主人公の話。

米澤さんの作品で警官が主人公の話は珍しいんじゃないかな。

この時点で他の米澤さんの話とはかなりテイストが違う。

最初読み進めた時はどういう話のか分からなかったけれど、読んでみて驚いた。

発砲してしまった川藤がそれを隠すために、

田原勝を利用するんだけど最後はまさかの死亡してしまうという展開。

私はちょっと川藤の考え分かるな。

 

・死人宿

あらすじ

二年前に失踪した佐和子が見つかった。

主人公は佐和子がいる山奥にある温泉宿に向かい、二年ぶりの再会を果たす。

職場のことで悩む佐和子を助けてやれず、講釈を垂れたことを後悔していた。

温泉宿は不幸な事故が起こる事が有名だと教えられ、

それでも泊まるかと聞かれ泊まることになった主人公。

夕食までの時間を過ごしている間佐和子から助けてほしいと言われる。

遺書の落とし物が見つかったので、その持ち主を探してほしいとのことだった。

 

登場人物

・私:主人公。証券会社の社員。

・佐和子:私立大学の事務員だった。

 

ネタバレありの感想

三人の中から遺書の持ち主を探す話。

謎解きというのかミステリー要素の話があって面白いんだけど、

遺書の持ち主を探して、主人公と佐和子が一緒に帰ってハッピーエンドかと思いきや

実はもう一人自殺志願者がいて既に死んでいたと展開。

読後感は最悪だし、佐和子のキャラも何とも言えない怖さがある。

 

・柘榴

あらすじ

美人の皆川さおりは大学のゼミで知り合った佐原成海と婚約する。

母親は結婚に賛成だったが、父親は反対だった。

さおりが妊娠することで父親は諦めて、さおりと成海は結婚した。

さおりと成海には二人の娘が生まれ、長女は夕子、次女は月子と名付けられる。

結果として父の判断は正しく成海は決まった職に就かず、

胡散臭い連中と付き合っていた。

夕子が受験を控えた年さおりは離婚を決意し、成海も離婚には同意するが。

 

登場人物

・皆川さおり:美人で四十歳に近づいても美貌は衰えていない。

・佐原成海:さおりの夫。

・夕子:さおりと成海の長女。

・月子:さおりと成海の次女。

 

ネタバレありの感想

作中にも出てくる神話だったりすればまた違うんだろうけれど、

現代の話になるとかなりグロテスクというか嫌悪感が先に来る。

 

私としては致命的な欠点があって佐原成海の魅力が全く分からないこと。

学生時代ならわかるけどそうじゃなきゃ魅力感じないんじゃないかな。

夕子と月子にしても家庭事情とか考えたら成海に魅力を感じるものなんだろうか。

身近で母親が働いていて父親は働いていないのを知ってるはずだから、

これ結構致命的な気がするんだよな。

そもそも私は親を性的な目で見たことないからわからないけど。

 

さおりも救われないけど、月子も救われない。

もっとも月子も月子で夕子の提案を受け入れてるんだけど。

かなり読後感が悪くなっている。

 

・万灯

あらすじ

井桁商事の伊丹はバングラデシュ天然ガス資源の開発に取り組んでいた。

ヒトとモノと情報を集める集積拠点としてボイシャク村に目をつけるが、

マタボールという村の長老の一人のアラム・アベットは

資源は明日のバングラデシュ人のもので他国に譲る気は無いとのことだった。

一方で他のマタボール達は村への恩恵を考え、アラムを排除しようとして、

伊丹とOGO社の森下にアラム殺害の話を持ち掛ける。

 

登場人物

・伊丹:井桁商事勤務。バングラデシュの開発室長。

・森下:OGOインドの新規開発課。

・高野:伊丹の部下。伊丹の四期下。左腕を失い日本に帰国する。

・斎藤:高野の代わりに送られてきた伊丹の部下。

・アラム・アベット:マタボール。

 

ネタバレありの感想

犯罪が思いも寄らなかった存在=コレラによって裁かれるという話。

前半部分は多少長いけれど、主人公である伊丹に感情移入させるためなのかと思う。

伊丹がバングラデシュで苦戦するからこそ、アラム殺害の動機付けが生まれるわけで。

ただ伊丹はなんとなくアラム殺害に同意したのはわかるけれど、

森下はよく分からなかったな。

 

・関守

あらすじ

フリーライターの俺はムック本の都市伝説の仕事を引き受け、

先輩から伊豆半島南部の桂谷峠のことを聞く。

ここでは四年で四件の事故が発生し、五人が死んでいる。

俺は実際に桂谷峠に向かい、ドライブインでばあさんから話を聞くが。

 

登場人物

・俺:主人公。フリーライター

・ばあさん:ドライブインの店主。

 

ネタバレありの感想

ホラー、オカルト、ミステリーがバランスよく合わさった話で非常に面白かった。

最初はそこまでじゃないけれど、途中からは完全に物語に引き込まれてた。

事故死した人を直近から遡っていくんだけどこれがうまくて、

大塚の件で色がついた飲み物からだんだん背筋が寒くなってる。

ラストでばあさんが主人公を先輩と間違えてるのも含めて秀逸。

 

・満願

あらすじ

藤井は学生の時に鵜川家に下宿をしていて、在学中に司法試験に合格した。

その四年後に鵜川妙子が夫の重治の借金返済を迫る矢場英治を

殺害する事件が発生した。

藤井は妙子の弁護をし第一審では懲役八年の実刑判決が下された。

第二審に向けて準備中に重治の死を聞いた日に妙子は控訴を取り下げる。

なぜ妙子は控訴を取り下げたのか。

 

登場人物

・藤井:弁護士。

・鵜川妙子:藤井の下宿先の夫人。

・鵜川重治:妙子の夫。畳屋を営んでいた。

・矢場英治:貸金業の回田商事の経営者。

 

ネタバレありの感想

表題作でこれは非常に面白かった。

掛け軸は検察のもとにあるから差し押さえを免れる。

掛け軸に血を飛ばすことが目的だったというオチ。

 

総評

かなりバラエティに富んだ一冊になっていると思います。

もっとも基本的には読後感が悪い話が多くはなっていて、

米澤さんの青春ミステリーとは違った苦さになっている。

私は「夜警」、「関守」、「満願」の三篇がお気に入りです。

特に「関守」はホラーテイストになっていて

米澤さんの中でも珍しいんじゃないかな。

ミステリーランキングの三冠を達成してることからも分かるように

おすすめの一冊です。