【東野圭吾】『透明な螺旋』についての解説と感想

本記事では東野圭吾さんの小説『透明な螺旋』を紹介します。
ガリレオシリーズの十作目である。

透明な螺旋

透明な螺旋

著者:東野圭吾

出版社:文藝春秋

ページ数:304ページ

読了日:2024年4月10日

満足度:★★☆☆☆

 

東野圭吾さんの『透明な螺旋』。

ガリレオシリーズの第十弾。

 

あらすじ

南房総沖で漂流している遺体を海上保安庁のヘリコプターが発見した。

背中に射創と見られる傷があることから、

何者かによって銃殺された遺体だと判断された。

全国の警察に照会が行われた結果、同居女性から

行方不明者届けが出されていた男性がこの遺体の有力候補として浮上した。

警察が同居人の島内園香に連絡を取ろうとしたところ、

連絡が取れなくなっており、行方も分からなくなっていた。

警察が捜査を進めたところ、

島内園香は絵本作家の松永奈江と共に行動を共にしていることが判明した。

松永奈江の関係者として湯川学の名前が浮上する。

 

登場人物

・湯川学:帝都大学物理学教授。

・草薙俊平:警視庁捜査一課の刑事。係長。警部。

・内海薫:警視庁捜査一課の刑事。巡査部長。草薙の部下。

・間宮:警視庁捜査一課の刑事。管理官。草薙たちの上司。

・岸谷:警視庁捜査一課の刑事。主任。警部補。草薙の部下。

・横山:所轄の生活安全課の刑事。巡査長。

 

・島内園香:生花店勤務。

・島内千鶴子:故人。島内園香の母親。生前は学校の給食センターに勤務していた。

・上辻亮太:事件の被害者。島内園香の恋人。フリーで映像関係の仕事をしていた。

・青山:生花店の店長。

・田村:島内園香が住んでいるアパート『いるかハイツ』のオーナー。

・岡谷真紀:島内園香の友達。園香の高校の同級生で美術部で一緒だった。美容師。

・野口:島内園香が通っていた高校の教師。

    社会科の担任で、島内園香が一年生の時のクラス担任。

・松永奈江:アサヒ・ナナという名前で絵本作家をしている。

・松永吾郎:故人。松永奈江の夫。生前は飲食店をいくつか経営していた。

・藤崎:松永奈江を担当している編集者。

・湯川晋一郎:湯川学の父親。医者だった。

・根岸秀美:銀座『VOWM』経営者兼ママ。

・金井:『あさかげ園』の園長。

・関根:『あさかげ園』の職員。

・児島:松永奈江が新座市に住んでいた時に親交が深かった女性。

 

ネタバレなしの感想

ガリレオシリーズ第十弾にして、2024年時点では最新作になる『透明な螺旋』。

ガリレオシリーズ最大の秘密が明かされる。」という謳い文句でもわかるように、

ガリレオシリーズのファンであれば読まないわけにはいかないということで、

読んだけれど、この秘密が私にはあまりにも唐突すぎてかなり困惑してしまった。

詳しいことはネタバレありの感想に書くけれど、

今までの作品の中に伏線になるようなものはなかったんじゃないかなというもの。

(もし伏線があったなら申し訳ない。)

 

今作はガリレオシリーズであっても、特に科学的な要素も無く、

それどころかトリック自体も特にないのでミステリーとしても評価しにくい。

湯川学の家族も登場して、意外な一面は描かれているけれど、

果たしてこれがファンが望むものなのかどうかは私には分からない。

また物語的にも完全に人情的な話になっていて、

ガリレオシリーズのファンが好むのかどうかは分からない。

ファンであれば読んでみたら楽しめるかもしれない。

当然ながら、本作から読むことはお勧めできない。

 

 

ネタバレありの感想

ガリレオシリーズ最大の秘密であるらしい湯川学の母親の話なんだけれど、

そもそも今まで特に伏線は無かったと思うので、

正直ただただ困惑したというのが本音。

これが加賀シリーズであれば一作目から加賀の父親と母親の話は出てきていたので、

それが明かされたというので読者としても楽しめたし、

家族をテーマにしていた作品もあったのである程度納得感はあった。

ところが、ガリレオシリーズで唐突に湯川の家族を出されても、ついていけなかった。

湯川自身は、『容疑者Xの献身』や『禁断の魔術』を

読めば情に厚いのはわかるけれど、

それ以外は良くも悪くもつかみどころがないキャラクターだったから猶更かな。

 

今作の事件の真犯人に辿り着く理由がクラブの名前『ボウム』で、

読者はプロローグを読んでいるので納得するけれど、

これ結構無理やりなこじつけな感じがしてしまった。

『あさかげ園』には内海薫も湯川と一緒に行ってたけれど、

内海はこの件に関しては特に何も言わないしな。

あとは松永奈江が島内園香と一緒に姿を消すのも、両者の関係を考えたら、

作者都合という感じかな。

一方で上辻亮太を徹底的に悪役にしていることや、

根岸秀美は園香と血縁関係がないと疑ったうえで犯行に及んでいるので、

そこまで読後感は悪くないのが救い。

 

エピローグの湯川と実の母親・松永奈江との会話そのものは

決して悪くはないんだけれど、即席な感じがして特に感動もしないのが辛い。

ラストの湯川と草薙俊平の感じからすると、まだシリーズは続きそう。

 

『透明な螺旋』で明らかになった湯川学の過去と同じ境遇の人物が登場するのが

東野さんの『むかし僕が死んだ家』。

公式に繋がりがあるのかどうかは分からないけれど気になった方は是非。