ノースライト
著者:横山秀夫
出版社:新潮社
ページ数:546ページ
読了日:2024年10月26日
満足度:★★★★☆
「2019「週刊文春」ミステリーベスト10」1位。
「このミステリーがすごい!2020年版」2位、
「ミステリが読みたい!2020年版」2位。
西島秀俊さん主演でテレビドラマ化されている。
あらすじ
一級建築士の青瀬稔が、吉野夫妻から
「あなた自身が住みたい家を建てて下さい」という依頼を受けて建てた家が、
建築雑誌に「Y邸」として紹介され、評判を呼んだ。
北からの柔らかな光(ノースライト)を
存分に取り込んだ斬新な設計で青瀬の自信作だった。
だが引き渡しから四か月後、現地を訪ねた人から、人が住んでいる気配がないと
聞かされた青瀬は、建築事務所所長の岡嶋昭彦と共に「Y邸」を訪れる。
「Y邸」の鍵は泥棒に入られたのか傷がいくつもついており、
鍵もかかっていなかった。
青瀬たちが屋内に入ると、あるのは電話機と一脚の簡素な木製の椅子があるだけで、
住んだ形跡はなかった。
あれだけ完成を喜んでいた吉野一家はどこに行ってしまったのか?、
青瀬は吉野一家を捜そうとするが。
登場人物
・青瀬稔:父親は渡りのダムの型枠職人だった。
・村上ゆかり:青瀬稔の元妻。インテリアプランナー。
・村上日向子:青瀬稔と村上ゆかりの娘。中学一年生。
青瀬稔とは大学の同級生。四十五歳。
・岡嶋八栄子:岡嶋昭彦の妻。保険外交員。
・岡嶋一創:小学六年生。
・石巻豊:「岡嶋設計事務所」の建築士。四人の子供がいる。三十八歳。
・津村マユミ:「岡嶋設計事務所」の経理。三歳になる勇馬という息子がいる。
三十二歳。
・西川隆夫:パース屋。青瀬稔が赤坂の事務所にいた頃からの知り合い。
・吉野陶太:「Y邸」の施主。輸入雑貨の卸をしている。四十歳。
・吉野香里江:吉野陶太の妻。
・吉野伊左久:木工職人。
・山下草男:吉野伊左久の知人。仙台の工芸指導所で働いていた。
・池園孝浩:J新聞文化部記者。ブルーノ・タウトを追いかけている。
・笠原:A新聞学芸部記者。
・繁田満:東洋新聞埼玉総局S通信部記者。
・能勢琢巳:「能勢設計事務所」の所長。青瀬稔とは赤坂の事務所で同僚だった。
・藤宮春子:故人。S市出身の画家。「藤宮春子メモワール」の建設構想がある。
・柳谷孝司:藤宮春子の甥。
・ブルーノ・タウト:故人。ドイツの建築家。
ナチス政権による迫害から逃れるために日本に渡ってきた。
ネタバレなしの感想
ストーリーは、建築士の青瀬稔が設計した家から施主一家の姿が消えており、
その施主一家を捜そうとする。
一方で青瀬が働いている建築事務所が勝負をかけて大型コンペに挑もうとする。
二つのストーリーで主人公の青瀬稔が建築士や父親としての
矜持を取り戻していく姿が描かれている。
以前一度読んだことがありその時はそこまで面白いと思った記憶はないけれど、
今回改めて読んでみたら非常に面白かった。
前読んだ時は、建築士が主人公ということで建築の話、特にブルーノ・タウト関係が
私には理解できなくて良い印象が残らなかった。
正直今回もブルーノ・タウト関係は余計かなとは思うけれど、
それ以外の部分は素晴らしかった。
ミステリーランキングでも上位になっていることからも分かるように、
ミステリー小説ではあるけれど、
個人的には人間ドラマにより重きが置かれている印象が強かった。
主人公の青瀬稔はバブル崩壊により仕事も家庭も失った人物で、
当時の青瀬が見失っていたものを省みて設計したのが「Y邸」。
その「Y邸」の施主捜しというのも、
青瀬がどういう人間でどういう思いで設計したかが重要になってくる。
青瀬だけではなく、青瀬の元妻・ゆかりと娘・日向子、
敗残兵の青瀬を拾った設計事務所所長の岡嶋昭彦、
そして「Y邸」の消えた施主・吉野夫妻などそれぞれが抱えているドラマが、
最後の最後に収斂していくのは圧巻。
殺人事件が起きるわけでもないし、派手な話ではないけれど、
心がひきつけられる物語になっている。
人間ドラマを読みたい方であれば楽しめる一冊になっている。
ネタバレありの感想
終盤の展開は怒涛の連続で、
東洋新聞の記者・繁田満に青瀬が言った一言から、
東洋新聞の記事の「事故と自殺の両面で調べている」の使い方。
岡嶋昭彦が残していた「藤宮メモワール」の草案から、
岡嶋昭彦の作品を残すために石巻豊と竹内健吾、津村マユミ、そして西川隆夫が
一致団結して作品を作るところは物語のハイライトに相応しいものになっている。
そして物語冒頭からの謎だった「Y邸」の施主・吉野夫妻の正体が明かされるが、
青瀬稔の父親の事故死に関わっていた吉野伊左久の息子が吉野陶太と北川香里江で、
伊左久の想いを受け継いだ吉野兄妹が青瀬の元妻・ゆかりの協力もあって、
「Y邸」を建ててもらったというもの。
ミステリーとしては派手さはないけれど、序盤からしっかりと伏線は張られていて、
伏線が回収されていくのは見事。
ただミステリーというよりも、やはり親子関係のドラマの方が良かった。
青瀬稔と父親、吉野陶太、北川香里江と吉野伊左久、そして岡嶋昭彦と一創、
子供のことを想う親であり、その親のことを想う子供というのは、
普遍的な価値観であるがゆえにやはり胸に響くものがあったし、
その描き方も素晴らしかった。