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【宮島未奈】『成瀬は信じた道をいく』についての解説と感想

本記事では宮島未奈さんの小説『成瀬は信じた道をいく』を紹介します。

成瀬シリーズの二作目である。

成瀬は信じた道はいく

成瀬は信じた道をいく

著者:宮島未奈

出版社:新潮社

ページ数:208ページ

読了日:2024年3月16日

満足度:★★★☆☆

 

宮島未奈さんの『成瀬は信じた道をいく』。

成瀬シリーズの第二弾で、五篇収録の連作短編集。

 

・ときめきっ子タイム

あらすじ

ときめき小学校四年生の北川みらいは、

十月の「総合学習の時間」であるときめきっ子タイムで、

ときめき地区で活動している人を調べて発表することになった。

みらいは、ときめき夏祭りで出会ったゼゼカラの成瀬あかりのことを調べようとする。

 

登場人物

・成瀬あかり:膳所高校三年生。

・島崎みゆき:大津高校三年生。

・北川みらい:大津市立ときめき小学校四年四組の三班。

・野原結芽:大津市立ときめき小学校四年四組の三班。

・くらっち:大津市立ときめき小学校四年四組の三班。

・たいちゃん:大津市立ときめき小学校四年四組の三班。

 

ネタバレありの感想

成瀬あかりのことを調べようとする小学生・北川みらいの話。

前半読んだ感じだと無難な話かと思いきや、

野原結芽がみらいのいないところで成瀬の話をしているところからは、

ちょっとだけシリアスな感じになっている。

発表終わりのたいちゃんの言葉は、みらいだけでなく読者も救う。

 

・成瀬慶彦の憂鬱

あらすじ

成瀬慶彦は京都大学の入試を控えている娘のあかりが、

ネットで「一人暮らし」の物件を調べていることを卒倒しそうになった。

京大の二次試験の日に慶彦はあかりの付き添うことになったが。

 

登場人物

・成瀬あかり:膳所高校三年生。

・成瀬慶彦:成瀬あかりの父親。

・成瀬美美子:成瀬あかりの母親。成瀬慶彦の妻。

・城山友樹:京大工学部の受験生。

・島崎みゆき:東京の私立大学に合格している。

 

ネタバレありの感想

成瀬あかりの父親・慶彦視点で、あかりの京都大学受験の話が描かれている。

あかりが一人暮らしを考えているか?と受験生のYouTuberの登場などがあるけど、

話としてはあかりの家族の話という感じかな。

 

・やめたいクレーマー

あらすじ

クレーマーの暮間言実は、

フレンドマート大津打出浜店でいつものようにマイボールペンでお客様の声を

記入していると、名札に「成瀬」と書かれている店員から声をかけられる。

 

登場人物

・暮間言実:クレーマーの主婦。三十六歳。

・暮間祐生:暮間言実の夫。

・成瀬あかり:京都大学一回生。

       フレンドマート大津打出浜店でアルバイトをしている。

・北川みらい:ときめき小学校の五年生。

 

ネタバレありの感想

あかりがアルバイトをしているスーパーにクレームをつける主婦・暮間言実の話。

クレームといっても理不尽なものではなく、論理的な話ではあるので、

読んでいて不快感は特にないし、

あかりは言実のクレームを参考になると評価するぐらい。

万引き犯をババア呼ばわりする言実や最後のオチなど、笑いどころもあって良かった。

 

・コンビーフはうまい

あらすじ

祖母、母と三代続けてびわ湖大津観光大使になった篠原かれんは、

パートナーの成瀬あかりと共にびわ湖大津を全国各地にPRしていくことになる。

 

登場人物

・篠原かれん:びわ湖大津観光大使。大学二回生。

       母のゆりえと祖母の景子も大津市観光大使を務めた経験がある。

・成瀬あかり:びわ湖大津観光大使京都大学一回生。

・篠原裕介:篠原かれんの兄。東京の大学で機械工学を勉強している。

・藤野:観光協会勤務。

・米田:観光協会勤務。

 

ネタバレありの感想

あかりと共にびわ湖大津観光大使になった篠原かれんの話。

あかりと接する機会も多く、それによってあかりの影響を受けるのもあって、

前作に通じるものがあって良かった。

他人に及ぼす影響力こそあかりの魅力かな。

 

・探さないでください

あらすじ

晦日、サプライズで成瀬あかりの家を訪ねた島崎みゆきは、

「探さないでください あかり」という書置きを残して成瀬が消えたことを、

告げられる。

成瀬の父と共にあかりは成瀬を探しに行くことに。

 

登場人物

・島崎みゆき:東京の大学生。

       幼なじみの成瀬あかりとゼゼカラというコンビを組んでいる

・成瀬あかり:京都大学一回生。

・成瀬慶彦:成瀬あかりの父親。

・北川みらい:ときめき小学校の五年生。

       成瀬に弟子入りして、ときめき地区のパトロールをしている。

・暮間言実:フレンドマート大津打出浜店の常連客。

・暮間祐生:暮間言実の夫。

・島崎かれん:びわ湖大津観光大使

 

ネタバレありの感想

ゼゼカラの島崎みゆき視点で前四編に登場した人物が登場する最後の締めの話。

舞台も大晦日で久しぶりに島崎視点ということもあり、切なさも感じさせる話。

去年の紅白でけん玉が話題になったのもあって、

イムリーといえばタイムリーなこともあって、結構面白かった。

二〇二五年の大晦日らから二〇二六年の正月が描かれている。

 

総評

成瀬シリーズの二作目で、前作を読んだ後は続きは出ないかなと思っていた。

もっとも売れているみたいだし、映像化もし易そうではあるので、

続編が出ること自体はそこまで驚きはないか。

今作は、成瀬あかりの高校三年から大学一年の正月までを描いている連作短編集。

前作のインパクトに比べると、どうしても落ちてしまうけど、

それでも成瀬と周囲の人々の話で楽しむことができた。

「コンビーフはうまい」と「探さないでください」は、

成瀬の魅力も出てたしストーリーそのものも良かった。

 

 

【まさきとしか】『彼女が最後に見たものは』についての解説と感想

本記事ではまさきとしかさんの小説『彼女が最後に見たものは』を紹介します。
三ツ矢&田所刑事(パスカル)シリーズの二作目である。

彼女が最後に見たものは

彼女が最後に見たものは

著者:まさきとしか

出版社:小学館

ページ数:432ページ

読了日:2024年3月13日

満足度:★★☆☆☆

 

まさきとしかさんの『彼女が最後に見たものは』。

三ツ矢&田所刑事(パスカル)シリーズの第二弾。

 

あらすじ

クリスマスイブの夜、女性の遺体が新宿区の空きビルの一階で発見された。

五十代から六十代と思われる女性の着衣は乱れていて、身元は不明。

その女性の指紋が、一年四ヶ月前に千葉県で刺殺された男性の事件現場で採取された

指紋と一致した。

二つの事件は予想外の接点で繋がるか?

警視庁捜査一課の三ツ矢秀平と戸塚警察署の田所岳斗が再びコンビを組み、

捜査に当たることになり、真実を明かそうとする。

 

登場人物

・三ツ矢秀平:警視庁捜査一課殺人犯捜査第五係。三十九歳。

       中学二年生の時に母親を殺されている。特異な記憶能力を持つ。       

       ニックネームは「パスカル」と「ミッチー」。

・田所岳斗:戸塚警察署の刑事。三ヶ月前に新宿区中井で起きた殺人事件で

      三ツ矢秀平とペアを組んでいた。二十九歳。

 

・松波郁子:事件の被害者。更年期障害に苦しんでいた。五十六歳。

・松波博史:三年前にくも膜下出血で亡くなっている。松波郁子の夫。

 

・東山里沙:ベーカーリーカフェでアルバイトをしている。

・東山義春:故人。一年四ヶ月前の事件の被害者。東山里沙の夫。事件当時五十歳。

      保健福祉センターに勤務する公務員だった。

・東山瑠美奈:高校一年生。東京の祖父母(東山里沙の父母)の家で暮らしている。

 

・本間久哉:音響会社の会社員。東山里沙の恋人と見られる男性。

・柳田:東山里沙の三件隣の住人。

・宮田睦美:松波郁子にショッピングカートとハンカチをあげた女性。

      千葉に住んでいた時に松波郁子が近所だった。

・須藤:松波郁子がかつて住んでいた家の大家であり隣の住人。

・馬場美園:みその内科婦人科クリニックの院長。

・名塚:虹の郷霊園の社員。

 

・千葉:千葉県警の刑事。

・加賀山:戸塚警察署の地域課の刑事。田所岳斗の大先輩。

・飯田:捜査一課の刑事。

・池:戸塚警察署の刑事。田所岳斗の先輩。

 

・井沢勇介:松波博史の右手を轢いたトラック運転手。

      現在はイベント企画会社の営業職。

・木村成美:井沢勇介の元妻。コールセンターのパートをしている。

・木村湊:井沢勇介と木村成美の息子。高校生。

・木村久子:井沢勇介の義母。

・阿部香苗:井沢勇介の同僚。イベントプランナー。 

      離婚歴があり、二人の娘と暮らしている。

 

・高橋恭太:不動産管理会社の社員。

・高橋拓海:高橋恭太の弟。二十歳の大学生。

 

ネタバレなしの感想

前作『あの日、君は何をした』の三か月後の話。

殺されたホームレスの松波郁子、その郁子の指紋が

一年四ヶ月前に男性が刺殺された現場で採取された指紋と一致した。

この二つの事件を捜査するのが、三ツ矢秀平と田所岳斗。

裏表紙に三ツ矢&田所刑事シリーズとあり、

物語序盤は田所の視点で進行していくパートが多いこともあり、

推理小説・ミステリー小説として思って読んだけれど

推理小説・ミステリー小説としては正直前作同様期待外れ。

 

基本的には人間ドラマとして読んだ方が良いとは思う。

ただ夫を殺された東山里沙や生前の松波郁子の心情などは面白い部分もあったけど、

登場人物がかなり多く、それぞれにドラマを抱えているのでどうしても

焦点が定まらず、後半になるにつれて散漫な印象になってしまった。

 

あらすじや設定は面白いものがあるので、映像化されてもおかしくないし、

文章はかなり読みやすいのも良かった。

ただ前作と似たような印象で、一つ一つの要素は面白くなりそうだけれど、

全体として見たら粗の方が目立つ作品なので、私は手放しではお薦めできない。

 

 

ネタバレありの感想

推理小説として評価できないのは、事実があとで登場人物から説明されるだけで、

しっかりと描写されていない点にある。

東山瑠美奈が三つの鍵を持っていたというのも、

それ以前にしっかりと書かれていれば納得するけれど、

そうではないので評価することができない。

特異な記憶能力を持つ三ツ矢秀平の凄さではなく、

私は推理小説としてフェアではないだけという評価にしかならなかった。

なので松波郁子と関わった少年Aが実は女性で東山瑠美奈というのは、

意外性もあって良かったんだけど、小説としての巧さは一切感じなかった。

 

また、P188で「松波郁子はホームレスでありながら、目撃談が出てきていない」と

ある。

真相は高橋恭太が空きビルを管理する不動産管理会社の社員であり、

松波郁子に空き室や空き店舗を教えていたというものなんだけど、

これを伏線として使う場合は高橋恭太をもっと早い段階で登場させておかないと、

伏線としては機能しないんじゃないかな。

少なくとも読んでいて爽快感はなく、唐突すぎる印象にしかならない。

上記の高橋兄弟や木村成美のドラマもあまりにも唐突すぎるので、

後半になるにつれて読んでいてさめてしまった。

 

序盤から登場する松波郁子の亡き夫への思いや

子供を持てなかった心情は悲哀を感じたし、

東山里沙は松波郁子と対照的で興味深く読むことができたけれど、

中盤から後半にかけて登場してくる井沢勇介や高橋兄弟、そして東山瑠美奈、

木村成美と木村湊の話までどんどん増えていくと正直食傷気味。

 

前作同様二つの事件に関連性があるみたいなのは、

ミステリー小説として一見魅力的に映るけれど、

それがうまく昇華されてるとはとてもいえない。

また、複数の登場人物のドラマを描くのも作者が何を伝えたいのか?が

分からず、中途半端な印象を受ける。

特に後半に登場人物がいきなり増えて、それぞれ抱えているドラマを描いているのは、

私には合わなかった。

【東野圭吾】『マスカレード・ホテル』についての解説と感想

本記事では東野圭吾さんの小説『マスカレード・ホテル』を紹介します。
マスカレードシリーズの一作目である。

マスカレード・ホテル

マスカレード・ホテル

著者:東野圭吾

出版社:集英社

ページ数:520ページ

読了日:2024年3月10日

満足度:★★☆☆☆

 

東野圭吾さんの『マスカレード・ホテル』。

マスカレードシリーズの第一弾。

木村拓哉さん主演で映画化されている。

 

あらすじ

都内で三件の殺人事件が起きた。

事件現場に残された不可解な暗号から、連続殺人事件として捜査されることになった。

その残された暗号を解読した結果、

次の犯行場所が都内の一流ホテル・コルテシア東京ということが判明する。

しかし、分かっているのは犯行場所だけで、容疑者もターゲットも不明。

そこで若き刑事・新田浩介がホテルマンに化けて潜入捜査に就くことになり、

その新田の教育係になるのが女性フロントクラークの山岸尚美。

彼らの前に次から次へと怪しげな客たちが訪れる中、

二人は真相に辿り着くことができるのか?

 

登場人物

・新田浩介:警視庁捜査一課の刑事。警部補。フロントクラークとして潜入する。

・山岸尚美:フロントクラーク。新田浩介の指導係。

 

捜査関係者

・本宮:警視庁捜査一課の刑事。新田と同じ係にいる。

・尾崎:警視庁捜査一課の管理官。

・稲垣:警視庁捜査一課の係長。

・関根:警視庁捜査一課の刑事。巡査。ベルデスクとして潜入する。

・真淵:ハウスキーパーとして潜入している女性の捜査員。

・能勢:品川警察署刑事課。

 

ホテル・コルテシア東京のスタッフ

・藤木:総支配人。

・田倉:宿泊部長。山岸尚美や久我の直属の上司。

・片岡:総務課長。

・久我:フロントオフィス・マネージャー。

・杉下:ベルキャプテン。

・町田:入社一年目の新人ベルボーイ。

・川本:若手のフロントクラーク。

・小野:若いフロントクラーク。

・浜島:エグゼクティブ・ハウスキーパー

・仁科理恵:宴会部ブライダル課。尚美と同期入社。

 

事件関係者

・岡部哲晴:第一の事件の被害者。会社員。

・手島正樹:岡部哲晴と同じ職場の先輩。

・本多千鶴:手島正樹の元恋人。

・井上浩代:本多千鶴の友人。

・野口史子:第二の事件の被害者。主婦。

・野口靖彦:野口史子の夫。町工場の経営者。

・畑中和之:第三の事件の被害者。高校教師。

 

ホテル・コルテシアの宿泊客

・古橋:宿泊客。以前宿泊した際に、チェックアウト後にバスローブが紛失していた。

・片桐瑤子:宿泊客。白い手袋をしている視覚障害の老婦人。

・安野絵里子:宿泊客。二十代半ばの長身の女性。

・館林光弘:宿泊客。スイートルームを予約している長身の男性。

・栗原健治:宿泊客。新田を指名してクレームを入れてくる小太りの男。

・渡辺紀之:宿泊客。ホテル・コルテシアで結婚式を行う予定。

・高山佳子:宿泊客。渡辺紀之の結婚相手。ストーカーの被害に遭っている。

・森川寛子:宿泊客。和風美人。

 

・北川敦美:高山佳子の友人。

・松岡高志:モデル。一か月ほど前に自宅で亡くなっている。

      『劇団やっと亀』に所属していた。

・高取清香:松岡高志の同棲相手。設計事務所のデザイナー。

 

ネタバレなしの感想

ストーリーは、連続殺人事件の次の事件現場と推測されたのが

ホテル・コルテシア東京で、このホテルを舞台に物語は描かれている。

テルマンに化けた刑事の新田浩介と、

新田を教育することになったフロントクラークの山岸尚美、

この二人を中心に物語は展開していく。

当初は刑事とホテルマンという、立場や価値観が異なることから

新田と山岸は衝突をすることになる。

 

ホテルを訪れる客も多種多様で、

前回宿泊時にバスローブが紛失してた客で、

今回チェックアウトする直前にハウスキーパーが部屋を調べると

またもバスローブが紛失していたり、

視覚障害者で常に手袋をしている客、

新田に対して執拗なクレームを入れてくる客。

 

ホテル内で起きる出来事を通して新田と山岸は理解し合うようになっていき、

ホテルで経験したことが事件に対する新しい視野を与えて、

事件の真相解明に向かっていくことになる。

 

警察小説とお仕事小説のミックスでもあり、

若手刑事・新田の成長物語的要素もあるけれど、私には正直合わなかった。

ミステリー小説としても、お仕事小説としても、

特に何か秀でているものがあるとは思えない。

正直amazonの評価がここまで高いのが全く理解できなかった。

 

 

ネタバレありの感想

X4=長倉麻貴の山岸尚美への犯行は正直無理があるとしか思えないんだよな。

松岡高志と山岸が同じ方法で殺されたら、

警察が二つの事件を結びつけるのを恐れたとあるけど、

松岡と長倉の関係性を考えたら、

連続殺人事件に見せかける必要があるのは松岡の方だろう。

実際、松岡の方から能勢はあっさりと長倉に辿り着いているわけで。

 

あと新田浩介と能勢の会話で、

X4は野口に自宅のパソコンを使わないように釘を刺さなかったのか?

という疑問に対して、

事件の構造が警察に知られても他に殺害計画を持っている場合は、

メリットがあると言うけど、これに関しては意味不明すぎる。

415ページと416ページの新田と能勢の会話は読んでいて全く理解できなかった。

この二人のやりとりがないと能勢が都内で起きた殺人事件を

調べる動機がないから必要なんだろうけど、かなり苦しいかなと思う。

 

あと個人的には老婆が実は三十五歳の女性なんですと言われても、

無理がありすぎるとかしか思えないんだよな。

しかも、新田含めて警察は客を疑っている状態であることを考えたら。

【伊坂幸太郎】『重力ピエロ』についての解説と感想

本記事では伊坂幸太郎さんの小説『重力ピエロ』を紹介します。

重力ピエロ

重力ピエロ

著者:伊坂幸太郎

出版社:新潮社

ページ数:485ページ

読了日:2024年3月7日

満足度:★★★☆☆

 

伊坂幸太郎さんの『重力ピエロ』。

このミステリーがすごい!2004年版」3位。

2009年に加瀬亮さんと岡田将生さん主演で映画化されている。

 

あらすじ

和泉と春の兄弟と優しい父と美しい母の家族には、過去に辛い出来事があった。

和泉と春が大人になった頃、仙台市内で連続放火事件が発生する。

春は和泉の会社が放火に遭うかもしれないので、気をつけた方がいいと

忠告すると、春の言う通り和泉の会社は放火の被害に遭う。

和泉は春になぜ会社が放火に遭うことが分かったのかと聞くと、

放火事件にはルールがあり、連続放火の現場近くには、

謎のグラフィティアートが必ずあるのだと春は答えた。

和泉と春、そして父は、連続放火事件に興味を持ち謎解きの乗り出す。

グラフィティアートと遺伝子のルールの奇妙なリンク、

謎を解き明かした時に、その先にある圧倒的な真実とは。

 

登場人物

・和泉:ジーン・コーポレーションの社員。

・春:和泉の弟。

           市内で落書きを消す仕事をしている。

   パブロ・ピカソが死んだのと同じ日の一九七三年四月八日生まれ。

・父:和泉と春の父親。春とは血が繋がっていない。癌により入院中。

・母:故人。和泉と春の母親。結婚前はモデルをしていた。

   五年前に病気で亡くなっている。

・郷田順子:日本文化会館管理団体の職員。

・黒澤:副業で探偵をやっている男性。

   『ラッシュライフ』や『フィッシュストーリー』にも登場している。

・葛城将一:自営業と称しているが売春斡旋を行っている男性。四十四歳。

・高木:ジーン・コーポレーションの社員。和泉の同期。

・英雄:ジーン・コーポレーションの社員。和泉の同期。無類の読書家

・仁:ジーン・コーポレーションの社長。

 

ネタバレなしの感想

和泉と春、そして癌を患っている父と亡くなった母の家族の物語。

母が強姦に襲われた結果生まれたのが春で、普通ならかなり重く暗くなるものを、

伊坂さん独特の文体で重さや暗さをあまり感じさせないように描いている。

『本当に深刻なことは、陽気に伝えるべきなんだよ』という作中にある台詞通りの

作風になっている。

物語はこの春の兄の和泉視点で進行していき、

仙台市内で発生している連続放火事件の謎を解き明かすというものになっている。

なので当然ミステリー小説に分類されるんだろうけれど、

正直ミステリー要素としては、そこまで凄いと唸るようなものでないと思う。

和泉と春、父、母の家族の話で、

春を中心とした家族のエピソードが描かれているので、

読み終わった後は、この家族のことを好きになること間違いなしの一冊。

 

もし『ラッシュライフ』を読んでいなくて、

ラッシュライフ』を読む気があるならば、

ラッシュライフ』→『重力ピエロ』の順番で読むことをお薦めする。

 

 

ネタバレありの感想

面白いことは間違いないんだけど、

ミステリー要素や伏線の意外性は全くと言っていいほどなかった。

春が放火犯であるのもそうだし、葛城将一が春の実の父親であるのも、

郷田順子の正体が夏子であるのも、ものすごく分かりやすかった。

またラストの春の行為を和泉が許すというのも想像はしやすかった。

このミステリーとしての意外性の無さや

小説としての仕掛けの無さが気にならないほど文章が美しいのと

和泉や春、父、母が魅力あるので小説としては十分すぎるほど

印象に残るようになっている。

もっとも文庫本で485ページと分量は多いのと、

連続放火事件というのもフックとしては弱いのは若干気になった。

あとDNAからアミノ酸の話は難しすぎたのもあったし、凝りすぎかな。

 

和泉と春、それに父の会話はかなりよくて、

ウィットに富んでいて、三者の関係性も含めて非常に良かった。

また郷田順子と和泉の会話は文学に疎い私には分からない部分も多かったけれど、

それでも楽しめた。

ラッシュライフ』の黒澤の存在感も妙にあって、

和泉と黒澤の会話も良かったけれど、

これは『ラッシュライフ』を読んでいないと分からない部分があるのが難点かな。

 

春が葛城将一を殺したことと、

その春を和泉が許すのというのは、スンナリ受け入れることができた。

むしろ和泉が春を許さなかった場合は、あまりにも救いがない話になってしまうかな。

 

一番気に入ったのは台詞は父の『春は俺の子だよ。俺の次男で、おまえの弟だ。

俺たちは最強の家族だ』かな。

 

小ネタ

ラッシュライフ』に登場した黒澤の台詞で、

172ページで「ラッシュばかりの人生を行く人々を、羨ましがっていたんだ。

俺はそこから弾かれたからな」

178ページでは「空き巣の家に、空き巣が入る話だ。」

430ページでは和泉に「カウンセラーに向いていますよ、きっと」と言われると

「前にも言われたことがある」とあるが、

ラッシュライフ』を読んでいると、元ネタが理解できて楽しめるようになっている。

また346ページから登場する痩身の男性は『オーデュボンの祈り』に登場した伊藤。

【横山秀夫】『クライマーズ・ハイ』についての解説と感想

本記事では横山秀夫さんの小説『クライマーズ・ハイ』を紹介します。

クライマーズ・ハイ

クライマーズ・ハイ

著者:横山秀夫

出版社:文藝春秋

ページ数:480ページ

読了日:2024年3月4日

満足度:★★★★★

 

横山秀夫さんの『クライマーズ・ハイ』。

2005年12月にNHKでテレビドラマ化と2008年に映画化されている。

このミステリーがすごい!2004年版」国内編7位。

 

あらすじ

群馬県の地元紙「北関東新聞」の本社詰め遊軍記者の悠木和雅は、

同僚の販売局の安西耿一郎に誘われて、谷川岳の衝立山を登攀する予定であった。

しかし、退社寸前に県警キャップの佐山から「ジャンボ機が消えた」と連絡が入る。

日航123便は長野・群馬県境に墜落した模様との情報が入り、

悠木は粕谷編集局長から日航123便の全権デスクに任命されることになった。

さらには、共に山に登る予定だった安西が病院に運ばれたらしいと知らされる。

 

登場人物

北関東新聞関係者

・悠木和雅:日航全権デスク。編集局。本社詰め遊軍記者。「登ろう会」のメンバー。

・安西耿一郎:販売局。途中入社。社内に「登ろう会」を作った。

・佐山達哉:県警キャップ。

・川島:県警サブキャップ。

・神沢:県警担当記者。

・森脇:県警担当記者。

・粕谷:編集局長。

・追村:編集局次長。綽名は「調停屋」「ノミの心臓」。

・依田千鶴子:編集庶務。二十七歳。     

・亀嶋:整理部長。綽名は「カクさん」。

・吉井:整理部。

・市場:整理部。

・山田:地方部デスク。

・玉置昭彦:前橋支局の記者。群大工学部出身。

・守屋:政治部長。等々力と同期。

・岸:政治部デスク。悠木和雅の同期。中一と小六の娘がいる。

・青木:政治部。

・等々力:社会部長。

・田沢:社会部デスク。悠木和雅の同期。

・伊東康男:販売局長。

浮田:広告局長。

・暮坂:広告部長。

・宮田:広告局。「登ろう会」のメンバー。

・稲岡:読者投稿欄『こころ』担当。

・久慈:総務局。悠木和雅の同期。

・遠野:写真部。

・鈴本:写真副部長。

・茂呂:出版局長。

貝塚:出版局次長。

・白川:社長。交通事故で脊髄を損傷し、車椅子生活。

・飯倉:専務。綽名は「インテリやくざ」。

・高木真奈美:白川の秘書。三ヶ月前まで住宅供給公社の職員だった。

 

・悠木弓子:悠木和雅の妻。

・悠木淳:悠木和雅の息子。十三歳。

・悠木由香:悠木和雅の長女。小学四年生。

 

・安西小百合:安西耿一郎の妻。

・安西燐太郎:安西耿一郎の息子。中学一年生。

 

・望月亮太:故人。元北関東新聞の記者。

      悠木の下に配属されていた時に赤信号の交差点に進入し、

      十トントラックと激突して交通事故で死亡。

望月彩子:望月亮太の従姉妹。県立大学の大学生。二十歳。

 

・末次:安西の山仲間。

・遠藤貢:故人。十三年前に衝立岩で亡くなっている。安西のザイルパートナー。

・藤浪鼎:運輸省航空事故調査委員会の首席調査官。

・志摩川:県警の刑事。本部の鑑識課長。

 

ネタバレなしの感想

日本航空123便墜落事故を題材にしていて、

作者の横山秀夫さんが事故当時新聞記者であったこともあり、

主人公の悠木和雅は新聞記者で日航全権デスクとして事故に関わることになる。

このミステリーがすごい!」にはランクインしているけれど、

ミステリー要素はほとんどないと言っていいと思うので、

ミステリーを期待して読むものではないと思う。

完全なヒューマンドラマで、親と子、個人と組織、

報道の理想と現実などが描かれている。

 

実際にあった事故が題材になっているのもあって、

当時の雰囲気や新聞社の人間たちの価値観が分かるのもあって良かった。

私も流石に生まれてはいないので実際には経験してないけれど、

物語冒頭のグリコ森永事件の終結宣言や「三光汽船」の経営破綻など、

1985年がどういう時代だったのかも分かるようになっているし、

群馬の新聞なので福田赳夫中曽根康弘に配慮しているのとか、

連合赤軍事件や大久保清事件のような大きな事件が記者にとって

どういう意味があったのかがわかる。

そういう意味ではノンフィクション的な要素もあって、

それがよりリアリティーを感じさせることになっている。

 

以前一度読んだことがあったけれど、今回改めて読んで非常に面白く読めた。

読んでない方は読んで損はしないと思う。

 

 

ネタバレありの感想

群馬と長野どちらに落ちたのか?や

事故原因については結局特ダネにすることはできないのは、

実際の事故を題材にしていることを考えれば何となくは予想はついたけれど、

それをうまく話としてはまとめている印象になっている。

確信の持てない事故原因を遺族を思い出して記事にしない決断をしながらも、

それを後悔していたりと綺麗ごとにしていないのが良い。

 

佐山達哉の現場雑感が記事にならなかったのは、

「大久保連赤」世代による潰しであったり、

次に現場雑感の連載を始めるも一面には載らなかったのは、

当時の自衛隊がどういう位置づけであったかなどリアリティーを感じて良かった。

 

反面小説としては123便の事故関係では、カタルシスを感じにくいのも事実だけれど、

そこを悠木和雅の母親と息子の話や望月亮太と従姉妹の彩子を絡めて、

物語にうまく仕立て上げている。

 

色んな要素が詰め込まれているけれど、

それほど散漫になることもなく、しっかりと物語としては成立しているかなと思う。

 

悠木の母親の話はどうしようもなく重く暗いし、

途中までは伊東康男もとても嫌な人物でしかないのが、

悠木に伊東の子供の頃のことを言わせて伊東の印象を一気に変えるのもうまいし、

横山さんの人間性の現れなのかなと思う。

これは暮坂の件も同じで、途中まではどうしようもない人間にしか見えないのが、

「記者病」として描写することによって印象が変わる。

 

地方紙ってもちろん今でもあるんだろうけど、今はまた全然違うだろうし、

依田千鶴子のように時代性が分かるのも含めて非常に良かった。

ラストに1985年からの十七年間を語るのも、

また悠木親子の関係性も含めて素晴らしい一冊。

【伊坂幸太郎】『陽気なギャングが地球を回す』についての解説と感想

本記事では伊坂幸太郎さんの小説『陽気なギャングが地球を回す』を紹介します。
陽気なギャングシリーズの一作目である。

陽気なギャングが地球を回す

陽気なギャングが地球を回す

著者:伊坂幸太郎

出版社:祥伝社

ページ数:400ページ

読了日:2024年3月1日

満足度:★★★☆☆

 

伊坂幸太郎さんの『陽気なギャングが地球を回す』。

陽気なギャングシリーズの第一弾である。

大沢たかおさん主演で2006年に映画化されている。

また漫画化もされている。

 

あらすじ

どんな嘘も見抜く特殊能力の持ち主・成瀬、

立て板に水の演説で聴衆を煙に巻く・響野、

コンマ一秒単位で正確な体内時計を持っている雪子、

若き天才スリ・久遠。

この四人の天才たちは百発百中の銀行強盗だったはずが、

銀行強盗に成功して逃走中に、

同じく逃走中の現金輸送襲撃犯に横取りされてしまった。

そこで彼らは奪還に動こうとするが、仲間の息子に不穏な影が迫り、

そして死体も出現する事態に。

 

登場人物

・成瀬:嘘を見抜く名人。銀行強盗のリーダー。三十七歳。

    普段は市役所勤務で係長。離婚歴がある。

・響野:演説の達人。普段は喫茶店の店長。成瀬とは高校時代からの友人。

・久遠:天才スリ。二十歳。普段はバイトをしている。

・雪子:精確な体内時計を持つ女。普段は派遣社員だが、今は契約が切れている。

・タダシ:成瀬の息子。自閉症。十歳。

・祥子:響野の妻。響野と共に喫茶店を経営している。三十代半ば。

・慎一:雪子の息子。中学生。

・地道:雪子の元夫で慎一の父親。雪子より十歳年上。

・田中:合鍵作りや盗聴の職人。百キロ以上ある。

    右足が不自由で引き摺って歩くことしかできない。

    学生時代に十代の若者からリンチを受けた過去を持つため、

    若い男に会うことをひどく嫌っている。

・薫:慎一のクラスメイト。生まれつき足が悪く、松葉杖をついている。

・神崎:現金輸送車ジャックのリーダー。

・林:現金輸送車ジャックの運転手。

 

ネタバレなしの感想

四人組の銀行強盗の話で、四人それぞれが特殊能力を持っているのが特徴。

その銀行強盗の四人・成瀬、響野、雪子、久遠の視点で物語は描かれていて、

四章構成になっている。

銀行強盗の話であっても、基本的には重さや暗さは一切感じさせず、

軽妙洒脱になっている。

伊坂さんの本は重いテーマであっても軽いタッチで描かれるのも

特徴だとは思うけれど、本作は完全なエンターテインメントに振り切っている。

銀行強盗をすることに抵抗や躊躇いを見せない、

一方でポリシーは基本的には相手を傷つけたくないというものなので、

そこまで血生臭い話にもなっていない。

リアリティよりも娯楽性を重視で、会話も含めてテンポよく進んでいくのも特徴。

また伊坂作品の舞台といえば仙台が多いけれど、

本作は横浜が舞台になっている。

 

以前一度読んだことはあって、

響野のキャラクターはかなり印象に残っていたけれど、

今回読んでもかなり印象に残るキャラクターになっている。

雄弁で蘊蓄好きで、響野を中心にする掛け合いはやはり面白く、

特に響野の妻の祥子や久遠との掛け合いは良かった。

また久遠も動物好きで独特な魅力があるキャラクターになっていて、

印象に残りやすくなっている。

ストーリーは良くも悪くも普通で捻りや驚きはほとんどない。

登場人物たちの掛け合いを楽しめるかどうかによって評価は大きく変わりそうだけど、

私は楽しむことができた。

 

 

ネタバレありの感想

まず響野、久遠、祥子はキャラクターが立っているけれど、

反面、成瀬と雪子はそれほど特徴あるキャラクターにはなってはいないかな。

ストーリー展開上、必要だから配置されている感じになっている。

 

ストーリーは『オーデュボンの祈り』と『ラッシュライフ』と比較すると、

本当に普通で予想通りの展開になっていた。

また伏線は前二作と比較すると分かりやすいぐらい分かりやすいものになっていて、

ストーリー展開上、

おそらくこう使われるだろうなというものが想像しやすくなっていた。

具体的にいえば冒頭の偽者の警察官であったり、

『グルーシェニカー』などは、かなり分かりやすかった。

また雪子の不自然さなども非常に分かりやすいので、そこまで意外性はなかった。

ただ冒頭の銀行強盗の打ち合わせの時の祥子が雪子から頼まれていたというだけは、

分からなかった。

 

娯楽作品としては十分楽しめたけれど、

驚きは少ないのでストーリーはどうしても印象には残りにくいのも事実。

 

響野、久遠、祥子、特に響野の蘊蓄と雄弁を好きになれるかどうかが、

本作の評価を大きく左右しそう。

私は特に響野はかなり好きでお気に入りで、愛すべきキャラクターだと思えたので、

十分すぎるほど楽しめた。

自閉症のタダシの使い方は若干あざとい感じはしたけれど、私は好きかな。

ラストも銀行強盗をするという終わり方で、

彼らの世界がそのまま続いてるという終わり方も良かった。

 

小ネタ

ラッシュライフ』の233ページの河原崎が塚本から聞く

横浜で起きた映画館の爆破未遂事件が本書で描かれていて、

これが成瀬たち四人の出会いの事件になっている。

【東野圭吾】『沈黙のパレード』についての解説と感想

本記事では東野圭吾さんの小説『沈黙のパレード』を紹介します。
ガリレオシリーズの九作目である。

沈黙のパレード

沈黙のパレード

著者:東野圭吾

出版社:文藝春秋

ページ数:496ページ

読了日:2024年2月27日

満足度:★★★☆☆

 

東野圭吾さんの『沈黙のパレード』。

ガリレオシリーズの第九弾。

福山雅治さん主演で映画化されている。

 

あらすじ

静岡県のゴミ屋敷の焼け跡から二体の遺体が発見された。

一体は屋敷の主の蓮沼芳恵で、

もう一体は、三年前に東京都菊野市で行方不明になった女性・並木佐織と判明する。

蓮沼芳恵の息子の蓮沼寛一は、二十三年前の少女殺害事件の被告で、

完全黙秘を貫いた末に無罪判決を勝ち取っていた。

二十三年前の事件で蓮沼を逮捕した草薙俊平が、今回の事件も担当することになり、

蓮沼を逮捕するも今回も黙秘を貫いたことにより処分保留で釈放される。

蓮沼は菊野市に舞い戻り、遺族たちを挑発するのだった。

菊野市のパレード当日に蓮沼が死亡するが、

殺害する動機のある全員にはアリバイがあった。

一方、菊野市にはアメリカから帰国した湯川学が研究拠点を置いていた。

 

登場人物

・湯川学:帝都大学物理学教授。帝都大学金属材料研究所磁気物理学研究部門主幹。

・草薙俊平:警視庁捜査一課の刑事。係長。警部。

・内海薫:警視庁捜査一課の刑事。巡査部長。草薙の後輩。

・間宮:警視庁捜査一課の刑事。管理官。草薙たちの上司。

・岸谷:警視庁捜査一課の刑事。主任。警部補。草薙の後輩。

・多々良:警視庁捜査一課の刑事。理事官。

 

・並木祐太郎:『なみきや』の店主。

・並木真智子:並木祐太郎の妻。『なみきや』の接客係兼調理係。

・並木佐織:事件の被害者。三年前から行方不明になっている。並木祐太郎の娘。

・並木夏美:並木佐織の三歳下の妹。大学生。『なみきや』を手伝っている。

・高垣智也:会社員。行方不明になる前の並木佐織の恋人。並木沙織の五歳年上。

・戸島修作:並木祐太郎の小学生時代からの幼なじみ。

      食品加工業者『トジマ屋フーズ』の社長。

・新倉直紀:並木佐織の歌の才能を見つけて育成していた人物。資産家。

・新倉留美:新倉直紀の妻。若い頃は新倉直紀のバンドのボーカルをしていた。

・宮沢麻耶:市内でも有数の大型書店の『宮沢書店』の跡継ぎ娘。

      パレードの実行委員長。チーム菊野のリーダー。町内会の理事。

 

・蓮沼寛一:無職。本橋優奈事件で逮捕、起訴されるも無罪になっている。

      父親は警察官だった。

・蓮沼芳恵:蓮沼寛一の継母。静岡県の蓮沼芳恵の家の焼け跡から見つかる。

      六年ほど前に自然死したと見られている。

 

・本橋優奈:故人。二十三年前の事件の被害者。当時十二歳。

・本橋誠二:故人。六年前に食道がんで亡くなっている。本橋優奈の父親。

・本橋由美子:故人。本橋優奈が行方不明になった一か月後に自殺している。

       本橋優奈の母親。

・沢内幸江:本橋誠二の妹。

 

・増村栄治:蓮沼寛一の元同僚。廃品回収会社勤務。七十歳前後。

・武藤:菊野警察署の刑事。警部補。

・島岡:鑑識課の主任。

・高垣里枝:高垣智也の母親。看護師。

・塚本:会社員。高垣智也の上司。

・森元:自動車修理工場の経営者。町内会の役員。

・上野:蓮沼芳恵の家の地元の警察署の刑事。

 

ネタバレなしの感想

二十三年前の少女殺害事件で無罪となった男が、

三年前に東京菊野市で失踪した若い女性が遺体で見つかった事件でも証拠不十分で、

釈放されてしまう。

この男が町のパレード当日に殺される事件が発生する。

 

遺族や関係者による復讐がストーリーのメインになっていて、

ガリレオシリーズお馴染みのハウダニット(How done it)

どうやって犯行を行ったか?だけでなく、

共犯者の存在を明示した上で、フーダニット(Who done it)誰がそれをやったのか?

の要素もある。

 

前作『禁断の魔術』のラストでアメリカへ旅立った湯川学が帰国し、

菊野市に滞在していて、遺族が経営している『なみき屋』の常連客だったり、

草薙俊平が二十三年前の事件を担当していて、因縁があったりと、

シリーズの登場人物たちが物語にしっかりと関わることになっている。

 

復讐物でさらには、多くの人間が協力し合って犯罪を成し遂げるというのも面白いし、

そこにパレードという舞台を利用するのも含めて非常に良かった。

三年前の沙織の事件だけではなく、

二十三年前の事件も関わってくることによって、

壮大な物語になっているので長編に相応しいものになっている。

ガリレオシリーズ特有の科学要素だけではなく社会派的な要素もあり、

さらにいくつかのひねりも加わっているのが特徴の一冊になっている。

 

 

ネタバレありの感想

気になったのは、

13ページによれば並木佐織の行方不明時に

「何らかの事件に巻き込まれたおそれがある、

ということで警察はかなり大々的な捜索を行った。」とあるが、

佐織が行方不明になる少し前に『なみきや』を出禁になった蓮沼寛一のことを、

並木祐太郎たちは警察に教えていないのか?

58ページで高垣智也は失踪直後には関連づけられなかったと言っているが。

 

湯川学は433ページで蓮沼寛一は沙織殺しの犯人ではないと推理するが、

結局蓮沼が真犯人であったのなら沙織の血痕が付着した制服を所持していたのはなぜ?

 

ひねりを加えることによって、間違いなく驚きは増すけれど、

正直そこまでひねらなくても良かったかなとは思う。

特に新倉留美と沙織の話は蛇足なんじゃないかと思う。

矛盾もだけど、結局真相は何だったのか?が、かなり曖昧になっているのは否めない。

というか真相を明らかにするのではなく、

小説のためにとにかくひねりを加えたかっただけにしか思えない。

しかも、このエピソードによって沙織に軽薄な印象を持ってしまうのもあって、

物語的にもあまり良い方には作用してないかな。

二十三年前の事件の関係者である増村栄治が関わっているという、

それだけでも十分かなと。

 

あとリアリティーに関していうと、

沙織の件に関しては蓮沼を逮捕する前に警察と検察は間違いなく、

起訴できるかどうかを話し合うだろう。

一度無罪になっている人間だとマスコミが騒ぐのは必至だし、

しかも結果起訴できなかったじゃ面子が立たないから。