本記事では乾くるみさんの小説『セカンド・ラブ』を紹介します。
セカンド・ラブ
著者:乾くるみ
出版社:文藝春秋社
ページ数:298ページ
読了日:2024年12月16日
満足度:★★★☆☆
乾くるみさんの『セカンド・ラブ』。
タロットシリーズの「THE HIGH PRIESTESS(女教皇)」。
「2011本格ミステリ・ベスト10」13位。
あらすじ
1983年元旦、ハラモク工業の工員・里谷正明は、
会社の先輩・紀藤和彦に誘われたスキー旅行で、大学院生の内田春香と出会う。
正明は春香にほのかな恋心を抱くが、春香とは釣り合うわけがないと諦めていたが、
その数日後、正明のもとに春香から会って話がしたいと電話が入る。
そして会ってお互いの生まれ育った環境を語り合い、
正明は春香から靭(つよ)い人と褒められることに。
知りあって一ヶ月が経ち、順調に交際が進んでいた二人にあるハプニングが起きる。
銀座でデート中に、突然口髭の紳士に春香が腕を掴まれ、
「美奈子。お前、よくも騙したな!」と言いがかりをつけられた。
口髭の紳士は春香を歌舞伎町の「シェリール」のホステスと勘違いしているようだが、
春香は身に覚えがなかった。
ある日ひょんなことから、正明は「シェリール」を訪れることになる。
登場人物
・里谷正明:ハラモク工業の工員。26歳。
・内田春香:東栄大学の院生。
・紀藤和彦:里谷正明の先輩。ハラモク工業の工員。
・井崎:ハラモク工業の町田工場の工員。
・倉持:ハラモク工業の町田工場の工員。二度の傷害事件で服役経験がある。
・原田:ハラモク工業の社長。
・堀内:ハラモク工業の町田工場の工員。綽名はゴリ内。
・高田尚美:紀藤和彦の恋人。内田春香の大学時代の友達。
・内田父:内田春香の父親。不動産会社の経営者。
・内田母:内田春香の母親。
・アキ:シェリールのホステス。
・松本:口髭の紳士。シェリールの客。
ネタバレなしの感想
清楚で美しいお嬢様・内田春香と交際を始めた工員・里谷正明が、
やがて春香にそっくりな双子の妹・美奈子と出会う。
清楚な春香と大胆な美奈子、対照的な二人の間で揺れる心、
二度読み必至の恋愛ミステリー。
『イニシエーション・ラブ』と
時代設定や恋愛ミステリーというテーマを同じくした姉妹編的な一作になっている。
『イニシエーション・ラブ』が一見ただの恋愛小説で、
読んでいて退屈なのと比べると、本書『セカンド・ラブ』は序章で、
内田春香と半井美奈子に関する謎が提示されているので、
ある程度を持って読み進むことができるだろう。
恋愛ものとしても春香と美奈子の間で揺れる正明の心理が描かれているので、
物語に変化が与えられているので読んでいて飽きないようになっている。
個人的には『イニシエーション・ラブ』よりも、
本書『セカンド・ラブ』の方が面白かった。
最初読み終わった後はちょっと拍子抜けしたけれど、ネットで考察を読んで、
二度読みをするとかなり印象が変わる作品になっている。
ネタバレありの感想
まずミナ(半井美奈子)=内田春香というのは、基本的には予想通りだった。
真相に関しては、終章で分かりやすい形にしているのは
ご都合主義的な印象はあるけれど、分かりにくいよりは良いかな。
美奈子の醜悪さを際立たせているというのも悪くはなかった。
驚いたのは里谷正明が自殺して幽霊になっている点で、ここでかなり驚いた。
そして序章を読み直して、
披露宴の新郎新婦が紀藤和彦と内田春香で、
正明は幽霊として披露宴を見ていたことにはじめて気づいた。
見事騙された時点で偉そうなことは言えないけど、
ここまでであればそこまでの衝撃は無かったけれど、
ネットの考察の春香と美奈子が入れ替わっていたという説を
読んでかなりの衝撃を受けた。
春香が付き合っていた西川を振ったのも入れ替わり中の美奈子であったり、
交通事故に遭った美奈子の免許証の更新や死亡後の免許証の所持の
問題も入れ替わりで説明できるというのがかなり納得できた。
(これネットの考察見なかったら絶対に私には分からなかった。)
君はその最大の嘘を、これからもずっと隠し続ける覚悟が本当にできているか?
(14ページ)というのも、春香と美奈子の入れ替わりであれば非常にシックリくる。
あとは146ページと147ページにある霊感の話が最後に
しっかりと伏線として回収されている。
以下疑問点としては、
意味深な倉持の存在がよく分からない。
被害者に賠償金を払って、完済した後に夜逃げするというのが謎すぎる。
婚約指輪を買う宝飾店で店員が指輪のサイズを八号か、あるいは七号あたりが
ちょうどいいと言っているのに、実際は五号というのはよくわからない。
さらにミナが七号と嘘をついた理由も私には理解できなかった。
おそらく話としては正明が靭い人なのに自殺するというのを描きたいんだろうけれど、
読んでいてあまり納得はできなかった。
あと登場人物は正明含めて共感しづらかった。
それでもネットの考察ありきだけど、かなり楽しむことはできた。
ミナが引っ越した後の二〇三号室に住んでいた一九〇センチくらいの背が高く
目付きの悪い男は、天童太郎。