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【東野圭吾】『希望の糸』についての解説と感想

本記事では東野圭吾さんの小説『希望の糸』を紹介します。

加賀恭一郎シリーズの第十一作目にあたる作品です。

希望の糸

希望の糸

著者:東野圭吾

出版社:講談社

ページ数:400ページ

読了日:2023年6月8日

 

東野圭吾さんの『希望の糸』。

加賀恭一郎シリーズに登場した加賀の従弟の松宮脩平が主人公になっている。

 

あらすじ

目黒区自由が丘の喫茶店『弥生茶屋』で経営者の花塚弥生が殺された。

捜査一課から応援に駆り出された松宮脩平は鑑取り捜査を担当することになった。

弥生は亡くなる一か月ぐらい前から

スポーツジムとエステサロンに通い始めていた。

松宮は喫茶店の客の一人である汐見行伸の態度が気になるが。

 

一方、松宮は料亭旅館『たつ芳』の女将の芳原亜矢子から

松宮のお父さんかもしれない人物について相談したいと言われる。

 

登場人物

・松宮脩平:警視庁捜査一課の刑事。

・加賀恭一郎:警視庁捜査一課の刑事。主任。階級は警部補。松宮脩平の従弟。

 

・芳原亜矢子:料亭旅館『たつ芳』の女将。

・芳原真次:芳原亜矢子の父親。『たつ芳』の料理長だった。

      現在は末期癌のため緩和ケア病棟に入院中。

・芳原正美:故人。芳原亜矢子の母親。

 

・汐見行伸:建物の検査会社勤務。六十二歳。

・汐見玲子:故人。汐見行伸の妻。白血病により二年前に亡くなる。

・汐見絵麻:故人。汐見行伸の長女。十六年前の新潟県中越地震により亡くなる。

・汐見尚人:故人。汐見行伸の長男。

・汐見萌奈:汐見行伸の次女。十四歳。

 

・花塚弥生:事件の被害者。カフェ『弥生喫茶』の経営者。五十一歳。

・綿貫哲彦:花塚弥生の元夫。製薬会社の営業部長。五十五歳。

・中屋多由子:綿貫哲彦の内縁の妻。介護士

 

・長谷部:所轄の刑事課の刑事。巡査。松宮とコンビを組むことに。

・松宮克子:松宮脩平の母親。現在は千葉の館山に住んでいる。

 

ネタバレなしの感想

文庫本の帯には加賀シリーズとあるので加賀シリーズとして紹介しておく。

 

加賀シリーズでも視点は松宮脩平というのは過去にも複数あって、

今作も主に松宮視点になっているのは変わらない。

過去作は加賀の父や母にまつわる話が描かれていたけれど、

今作では松宮脩平の父親の話が描かれている。

なので主人公は松宮脩平になるんだろう。

加賀は今作では警視庁捜査一課に戻っていて、

主任になっているので松宮の上司になっている。

なので加賀もかなり登場している。

 

物語としては

プロローグで汐見一家の話があって、次に芳原亜矢子と父親の真次の話が来る。

それから花塚弥生の殺人事件が描かれるという構成になっている。

当然、花塚弥生の事件がメインになっていて、

犯人は誰なのか?事件の真相は何なのか?を

松宮と加賀の活躍によって解き明かしていく。

 

話の傾向としては加賀シリーズの『麒麟の翼』と『祈りの幕が下りる時』と似てる。

いわゆる犯人は誰か?というよりはなぜ事件を起こしたのか?

被害者や加害者には何があったのか?どういう人物だったのか?ということが

描かれている。

社会派ミステリーと分類されるような話になっている。

麒麟の翼』や『祈りの幕が下りる時』が好きなのであれば楽しめるだろう。

 

 

ネタバレありの感想

嫌な言い方をすると花塚弥生の事件自体はかなり弱いかなというのが正直な感想。

ただプロローグの存在であったり、

芳原亜矢子の存在でそこはそれほど問題にはならないかな。

 

中盤で事件の犯人は中屋多由子であると、

かなりあっさり判明することからもわかるけれど、

事件の真相を重視しているのは一目瞭然。

 

事件の真相は何なのか?作中でも松宮達が汐見行伸と綿貫哲彦を怪しんでるように、

何かあるぐらいはわかるけれど、

その何かが分かったか?と聞かれたら私は全く分からなかった。

 

結局は汐見萌奈の出生に関する話が関わってきて、

遺伝子的な両親にあたる花塚弥生と綿貫哲彦、綿貫の内縁の妻である中屋多由子、

そして育ての親で戸籍上の親でもある汐見行伸と萌奈の話が描かれることになる。

問題が問題ということもあるし、

基本的にはみんな孤独なので問題を共有できなかったが

ゆえに起きた悲劇というところ。

 

汐見行伸や綿貫哲彦と違って中屋多由子は

途中までかなり影が薄い存在ではあるけれど、

多由子の生い立ちの話から接見室で綿貫と会うところは、

かなりグッとくるものがある。

正直こっちメインで書いても良い話になったんじゃないかなと思う。

多由子のモノローグの祖母の話も良かった。

最初はちょっと嫌な人に思わせておいてからの実は良い人っていうパターン。

 

行伸視点でしか考えてなかったので全く気にしてなかったけれど、

萌奈が父親と血が繋がってないんじゃないかと思っていたのは確かになと思った。

ただ、母親が違うとは普通考えないってのだけはちょっと理解できなかった。

子供を産んだ母親はそうだろうけど、

子供視点であれば養子の可能性も考えるんじゃないのかと。

戸籍を萌奈が見てたのなら話は変わるけれど、

中学生がそんなの確認するのかって話で。

 

読んでる時は松宮の父親関係の話は特に必要ないんじゃないかと思ったぐらい。

もっとも最後まで読めば松宮関係の話も良かったのだけれど。

 

物語に対しての満足度は非常に高いし、読後感も非常に素晴らしかった。