彼女が最後に見たものは
著者:まさきとしか出版社:小学館
ページ数:432ページ
読了日:2024年3月13日
満足度:★★☆☆☆
まさきとしかさんの『彼女が最後に見たものは』。
三ツ矢&田所刑事(パスカル)シリーズの第二弾。
あらすじ
クリスマスイブの夜、女性の遺体が新宿区の空きビルの一階で発見された。
五十代から六十代と思われる女性の着衣は乱れていて、身元は不明。
その女性の指紋が、一年四ヶ月前に千葉県で刺殺された男性の事件現場で採取された
指紋と一致した。
二つの事件は予想外の接点で繋がるか?
警視庁捜査一課の三ツ矢秀平と戸塚警察署の田所岳斗が再びコンビを組み、
捜査に当たることになり、真実を明かそうとする。
登場人物
・三ツ矢秀平:警視庁捜査一課殺人犯捜査第五係。三十九歳。
中学二年生の時に母親を殺されている。特異な記憶能力を持つ。
ニックネームは「パスカル」と「ミッチー」。
・田所岳斗:戸塚警察署の刑事。三ヶ月前に新宿区中井で起きた殺人事件で
三ツ矢秀平とペアを組んでいた。二十九歳。
・松波郁子:事件の被害者。更年期障害に苦しんでいた。五十六歳。
・松波博史:三年前にくも膜下出血で亡くなっている。松波郁子の夫。
・東山里沙:ベーカーリーカフェでアルバイトをしている。
・東山義春:故人。一年四ヶ月前の事件の被害者。東山里沙の夫。事件当時五十歳。
保健福祉センターに勤務する公務員だった。
・東山瑠美奈:高校一年生。東京の祖父母(東山里沙の父母)の家で暮らしている。
・本間久哉:音響会社の会社員。東山里沙の恋人と見られる男性。
・柳田:東山里沙の三件隣の住人。
・宮田睦美:松波郁子にショッピングカートとハンカチをあげた女性。
千葉に住んでいた時に松波郁子が近所だった。
・須藤:松波郁子がかつて住んでいた家の大家であり隣の住人。
・馬場美園:みその内科婦人科クリニックの院長。
・名塚:虹の郷霊園の社員。
・千葉:千葉県警の刑事。
・加賀山:戸塚警察署の地域課の刑事。田所岳斗の大先輩。
・飯田:捜査一課の刑事。
・池:戸塚警察署の刑事。田所岳斗の先輩。
・井沢勇介:松波博史の右手を轢いたトラック運転手。
現在はイベント企画会社の営業職。
・木村成美:井沢勇介の元妻。コールセンターのパートをしている。
・木村湊:井沢勇介と木村成美の息子。高校生。
・木村久子:井沢勇介の義母。
・阿部香苗:井沢勇介の同僚。イベントプランナー。
離婚歴があり、二人の娘と暮らしている。
・高橋恭太:不動産管理会社の社員。
・高橋拓海:高橋恭太の弟。二十歳の大学生。
ネタバレなしの感想
前作『あの日、君は何をした』の三か月後の話。
殺されたホームレスの松波郁子、その郁子の指紋が
一年四ヶ月前に男性が刺殺された現場で採取された指紋と一致した。
この二つの事件を捜査するのが、三ツ矢秀平と田所岳斗。
裏表紙に三ツ矢&田所刑事シリーズとあり、
物語序盤は田所の視点で進行していくパートが多いこともあり、
推理小説・ミステリー小説として思って読んだけれど
推理小説・ミステリー小説としては正直前作同様期待外れ。
基本的には人間ドラマとして読んだ方が良いとは思う。
ただ夫を殺された東山里沙や生前の松波郁子の心情などは面白い部分もあったけど、
登場人物がかなり多く、それぞれにドラマを抱えているのでどうしても
焦点が定まらず、後半になるにつれて散漫な印象になってしまった。
あらすじや設定は面白いものがあるので、映像化されてもおかしくないし、
文章はかなり読みやすいのも良かった。
ただ前作と似たような印象で、一つ一つの要素は面白くなりそうだけれど、
全体として見たら粗の方が目立つ作品なので、私は手放しではお薦めできない。
ネタバレありの感想
推理小説として評価できないのは、事実があとで登場人物から説明されるだけで、
しっかりと描写されていない点にある。
東山瑠美奈が三つの鍵を持っていたというのも、
それ以前にしっかりと書かれていれば納得するけれど、
そうではないので評価することができない。
特異な記憶能力を持つ三ツ矢秀平の凄さではなく、
私は推理小説としてフェアではないだけという評価にしかならなかった。
なので松波郁子と関わった少年Aが実は女性で東山瑠美奈というのは、
意外性もあって良かったんだけど、小説としての巧さは一切感じなかった。
また、P188で「松波郁子はホームレスでありながら、目撃談が出てきていない」と
ある。
真相は高橋恭太が空きビルを管理する不動産管理会社の社員であり、
松波郁子に空き室や空き店舗を教えていたというものなんだけど、
これを伏線として使う場合は高橋恭太をもっと早い段階で登場させておかないと、
伏線としては機能しないんじゃないかな。
少なくとも読んでいて爽快感はなく、唐突すぎる印象にしかならない。
上記の高橋兄弟や木村成美のドラマもあまりにも唐突すぎるので、
後半になるにつれて読んでいてさめてしまった。
序盤から登場する松波郁子の亡き夫への思いや
子供を持てなかった心情は悲哀を感じたし、
東山里沙は松波郁子と対照的で興味深く読むことができたけれど、
中盤から後半にかけて登場してくる井沢勇介や高橋兄弟、そして東山瑠美奈、
木村成美と木村湊の話までどんどん増えていくと正直食傷気味。
前作同様二つの事件に関連性があるみたいなのは、
ミステリー小説として一見魅力的に映るけれど、
それがうまく昇華されてるとはとてもいえない。
また、複数の登場人物のドラマを描くのも作者が何を伝えたいのか?が
分からず、中途半端な印象を受ける。
特に後半に登場人物がいきなり増えて、それぞれ抱えているドラマを描いているのは、
私には合わなかった。