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【増田俊也】『七帝柔道記』についての解説と感想

本記事では増田俊也さんの小説『七帝柔道記』を紹介します。

七帝柔道記

七帝柔道記

著者:増田俊也

出版社:KADOKAWA

ページ数:640ページ

読了日:2024年3月22日

満足度:★★★★★

 

増田俊也さんの『七帝柔道記』。

北海道大学柔道部が舞台の、増田俊也さんの自伝的小説。

一丸さんの作画で漫画化されている。

 

あらすじ

名古屋旭丘高校柔道部の増田俊也は、

名古屋大学柔道部が近隣の進学校を集めて開いた大会に参加した際に

名大部員達から名大柔道部に入って欲しいと誘われる。

名大部の主将から紹介された井上靖の『北の海』を読んで、

七帝柔道に惹かれた増田は、北海道大学柔道部に入ることを決意し、

二浪の末、北海道大学に合格する。

しかし、北大柔道部は七帝戦で二年連続最下位と低迷していた。

 

主な登場人物

北海道大学柔道部関係者

一年目

増田俊也:水産系。二浪。名古屋の旭丘高校柔道部出身。

・竜澤宏昌:理1系。駿台甲府高校出身。

・工藤飛雄馬:水産系。釧路湖陵高校出身。柔道初心者。

・松井隆:通称「牛」。理3系。一浪。滋賀県の虎姫高校出身で斉藤トラの二期後輩。

・沢田征次:三浪。佐賀造士館高校出身。

・繁山一樹:札幌南高校出身。

・雨宮陽太郎:岡山出身。

・荻野勇:柔道経験者。

・宮澤守:新歓合宿後に入部。滝川高校出身。

 

二年目

杉田裕:名古屋の瑞陵高校出身。

・後藤孝弘:一年目の二月に入部している。

・斉藤哲雄:一年目の三月に入部している。

      軽量級なので斉藤ネコあるいは斉藤テツと呼ばれている。

 

三年目

・和泉唯信:理学部数学科。広島出身。実家がお寺をやっている。

・松浦英幸:農学部農芸化学部。二浪。帯広柏葉高校出身。

      中学柔道部の先輩に大乃国がいた。

・本間龍也:工学部原子工学科。札幌旭丘高校出身。

・末岡拓地:大阪の清風南海高校出身。

 

四年目

・金澤裕勝:主将。冷血金澤。

・斉藤幸彦:副主将。虎姫高校出身から斉藤トラと呼ばれている。

      農業土木を専攻。

・岡田信夫:選手監督。残酷岡田。

・永田洋男:主務。電子工学科。陰険永田。

 

五年目

・佐々木紀:前主将。

・山岸裕:前副主将。高校時代はレスリング部。

 

・浜田浩正:農業土木の大学院生。佐々木紀の前の主将。土佐高校出身。

・岩井眞:監督。昭和五十三年卒の主将。司法試験を受けながら塾の講師をしている。

・佐々木洋一:コーチ。大工。水産学部昭和四十九年卒。寝技仙人。

・久保田玲子:柔道部初の女子マネージャー。渾名は「ゲソ」。藤女子短大。

・山内:柔道部のトレーニングコーチ。元ハンマー投げの選手。北の屯田の館の店長。

・峯田:通称「みねちゃん」。元アマレスの選手で柔道部の寝技のコーチ。

    焼き鳥みねちゃんの店長。

・鷹山真一:増田の旭丘高校柔道部の同期。一浪。

      一年目の十一月に柔道部を辞めている。

・瀧波憲二:一年目。応援団。

・峠:文1系。開成高校出身。

 

新一年目

・東英次郎:水産系。兵庫の三田学園高校柔道部出身。

・大森一郎:理1系。

・岡島一弘:ボディビル同好会と思って見学に来て柔道部に入部する。

 

ネタバレなしの感想

主人公の増田俊成が、二浪の末に北海道大学に合格して、

1986年4月に念願の柔道部に入部するところから物語は始まる。

 

本書『七帝柔道記』は過去に何回か読んだことがあって、

非常に私が気に入っている一冊。

私は読む前はもちろん柔道は知っていたけれど、ルールをよく理解していなかった。

しかし、作中でも柔道のルールを理解しない人物が登場して、

その際にルールが分かりやすく書かれているので柔道を

よく理解していない方でも楽しめるはず。

 

タイトルにある七帝柔道とは

北海道大学東北大学東京大学名古屋大学京都大学大阪大学九州大学

旧帝国大学のみが参加する柔道大会の通称。(正式名称は全国七大学柔道優勝大会。)

1898年年に誕生した高専柔道の流れを汲んでいて、立ち技ではなく寝技が中心の柔道。

そして試合は十五人対十五人の抜き勝負による団体戦になっている。

 

つまり名門国立大学による柔道の大会で、

寝技ばかりのルールで今の柔道界では異端視されているのが七帝柔道。

その大会で勝つために『練習量がすべてを決定する』と信じて、

仲間たちと極限の練習に耐える日々が描かれている。

なので、合コンとかスキーや旅行など大学生らしい青春ぽさは皆無で、

とにかく男の世界で泥臭くて過酷になっている。

 

これだけだと面白いのか?と思われそうだけど、

魅力としては

増田俊也の同期の長髪でお洒落だが一本気な性格の竜澤宏昌、

三浪して入部してきた沢田征次や増田の二期上の広島出身で実家がお寺の和泉唯信など

個性的な登場人物の数々。

さらには、新歓合宿の最終日に行われるカンノヨウセイという伝統行事や、

北大祭で具のほとんど入っていない焼きそばで活動費を稼いだり、

女子大のキャンパスを走ったりと良い意味での馬鹿らしい話もあって、

緩急のある物語になっている。

しかも北海道を舞台にしていることによって自然豊かな描写も多く、

かなり魅力的を感じさせる。

 

ネタバレになってしまうのでここでは書かないけれど、

難点は正直あるけれど、それでもその難点を上回るほどのものがあるとは思うので、

是非読んで欲しい一冊です。

 

 

ネタバレありの感想

まず難点を挙げておくと、二年目の七帝戦までしか描かれていないので、

どうしても中途半端感はある。

もっとも、今は続編が出ているのでこの難点は解消されたといえるだろ。

 

正直お気に入りの部分を書いていけばキリがなくて、

主人公の増田俊也も柔道のためをやるために北海道大学に入っていて、

しかも柔道をやるために留年する気満々の時点でぶっ飛びすぎているけれど、

しかしこれが不思議とかっこよくて魅力満点の男。

一年目の七帝戦終わりの永田洋男の引退挨拶は胸が詰まるし、

二年目の七帝戦終わりの和泉唯信が増田にかける言葉は、

ほんとに二十歳すぎの男の言葉かと思うぐらい素晴らしいものがある。

幕間にある馬鹿馬鹿しい話が良いスパイスにもなっているし、

コーチたちや応援団やラグビー部にも魅力ある人たちが多く彩りを添えている。

 

本書は色々な魅力が詰まっているけれど、

一番は作者の増田俊也さんの人を見る優しさだろう。

350ページで竜澤宏昌が増田から人に優しいところを学びたいと語っているけれど、

これこそが本書に通底しているものだと思う。

斉藤テツへの思いも、鷹山真一が杉田裕を「同期で一番弱かった」と言った後の

鷹山への発言もまたその後鷹山のアパートを訪れているのも、

増田が入院した時に北海道大学の大学院生の中尾に「同じ社会層の人間と付き合え」と

言われながらも、他の患者に魅力を感じているのも増田という人間の優しさであり、

それこそが本書の魅力かなと思う。