MENU

【増田俊也】『七帝柔道記Ⅱ 立てる我が部ぞ力あり』についての解説と感想

本記事では増田俊也さんの小説『七帝柔道記Ⅱ 立てる我が部ぞ力あり』を

紹介します。

七帝柔道記Ⅱ 立てる我が部ぞ力あり

七帝柔道記Ⅱ 立てる我が部ぞ力あり

著者:増田俊也

出版社:KADOKAWA

ページ数:488ページ

読了日:2024年3月26日

満足度:★★★★★

 

増田俊也さんの『七帝柔道記』。

北海道大学柔道部が舞台の、増田俊也さんの自伝的小説。

北海道大学三年目、四年目の柔道部上級生時代が描かれている。

 

あらすじ

十五人の団体戦、寝技中心の柔道の七帝柔道に惹かれて、

二浪の末に北海道大学に合格し、柔道部に入部した増田俊也

しかし、北大柔道部は七帝戦で二年連続最下位と低迷していた。

さらに増田が一年、二年の七帝戦でも一勝もできずに

四年連続最下位という泥沼に喘いでいた。

主力の上級生たちは皆引退してしまい、かつてない絶望的なチーム状況の中、

果たして北大柔道部復活なるか。

 

主な登場人物

北海道大学柔道部関係者

二年目

増田俊也:ニックネームは「エキ」か「エキノスケ」。水産系。二浪。

      名古屋の旭丘高校柔道部出身。

      横井整形外科病院に入院した時に知り合った市原慶子と付き合っている。

      後の副主将。

・竜澤宏昌:工学部土木工学科。駿台甲府高校出身。

      短大生の栗原みゆきと付き合っている。後の主将。

・工藤飛雄馬:水産系。釧路湖陵高校出身。柔道初心者。

・松井隆:通称「牛」。薬学部。後の主務。

・宮澤守:工学部合成化学科。滝川高校出身。身長は一八一センチ、体重は九〇キロ。

・荻野勇:工学部機械工学科。三年時に退部。

 

三年目

・後藤孝宏:主将。理学部生物学科。

・斉藤哲雄:副主将。

杉田裕:主務。網膜剥離のため選手生活を引退して専業主務。

 

四年目

・和泉唯信:前主将。留年組。数学科。広島出身で寺の長男。

・内海正巳:留年組。

 

一年目

・東英次郎:一年目最強でリーダー的存在。教養部水産系。三田学園高校出身。

・大森一郎:理2系。高志高校出身。武道系合同演武会を見て感動して入部した。

・城戸勉:一年目実力二番手の柔道経験者。

     同期から「ヨイショ野郎」と揶揄されている。城南高校出身。

・守村敏史:一年目三番手。海城高校出身。

      同期からは「怪獣」や「下等動物」、「チンパン」と呼ばれている。

 

増田たちが三年目の時の一年目

・後藤康友:渾名は「ゴトマツ」。理2系。体重は一二八キロ。

・西岡精家:静岡県出身で高校時代はキャプテンだった。

・黒澤暢夫:ニックネームは「暢」。体重は一二〇キロ以上ある。

      札幌西高校柔道部出身。

・飯田勇太:高校では柔道部だった。

 

増田たちが四年目の時の一年目

・長高弘:札幌北高校の柔道部主将だった。

中井祐樹:札幌北高校のレスリング部のキャプテンだった。

 

・岩井眞:監督。昭和五十三年卒の主将。司法試験を受けながら塾の講師をしている。

・佐々木洋一:コーチ。大工。水産学部昭和四十九年卒。寝技仙人。

・畠中金雄:師範。

・久保田玲子:柔道部初の女子マネージャー。渾名は「ゲソ」。藤女子短大。

・山内義貴:柔道部のトレーニングコーチ。元ハンマー投げの選手。

      北の屯田の館の店長。

・峯田:通称「みねちゃん」。元アマレスの選手で柔道部の寝技のコーチ。

    焼き鳥みねちゃんの店長。

・瀧波憲二:二年目。応援団。

木村聡:二年目。ラグビー部。

・室木洋一:増田俊也が入学した時の教養部のクラス担任。教育学部の教授。

 

ネタバレなしの感想

前作『七帝柔道記』の続編で、十一年振りに誕生したのが、

本作『七帝柔道記Ⅱ 立てる我が部ぞ力あり』。

前作は主人公の増田俊也北海道大学に入学し、柔道部に入部し、

二年目の七帝戦までが描かれていた。

七帝戦や前作について詳しく知りたい方は下記をご覧ください。

readover5.hatenablog.com

本作は二年目の十月から物語が始まり、そして四年目の七帝戦までが描かれている。

基本的には前作と同じ雰囲気で、「練習量が全てを決定する」という七帝柔道に

青春を賭ける男たちの物語。

そこにカンノヨウセイのような馬鹿馬鹿しいことや、他部との揉め事、

さらには増田が入院中に出会う人々とのことも描かれている。

今作では七帝柔道の十五人対十五人の団体戦の醍醐味も感じられること間違いなしで、

特に分け役の重要性を感じられる。

前作を楽しめた方には是非読んで欲しい一冊になっている。

 

 

ネタバレありの感想

前作も増田俊也たちの懊悩は感じられたけれど、今作ではそれ以上のものがあった。

特に増田は怪我に苦しんでいることもあって、より切実に感じた。

またリハビリ先の登別での話は読んでいて心が痛くなった。

怪我から復帰した後の東英次郎と城戸勉の好対照な態度、どちらの優しさにも

増田が傷ついていることなど赤裸々に綴られているのが印象に残った。

 

後藤康友を勧誘する場面や、

増田が柔道部相手に喧嘩をした際に竜澤宏昌が止めるも、

両腕には力が全く入ってないのや、

部費滞納が竜澤と増田の二人だったというオチや

四年目のカンノヨウセイで直前になって態度が豹変してノリノリになったりなど、

相変わらず笑える場面も多く、非常に良かった。

 

四年目の七帝戦に増田たちが入部した時のOBたちが勢ぞろいしていて、

その中で見事に東北大学に勝利するというのは読んでいてグッとくるものがあった。

先輩の後藤孝宏が見事に分けたり、

負け必至と思われる中で大森一郎も見事に分けたりと、

ここで七帝戦の分け役の重要性を感じられたのも良かった。

代表戦で後輩の東と城戸が選ばれ、

傷ついている増田と竜澤を気にかける宮澤守。

そして後輩たちを援護射撃するためにデモンストレーションする竜澤と増田。

代表者決定戦でも決着がつかず、

抽籤にドクターストップがかかった宮澤が出てきて、

見事抽籤勝ちという展開。

前作と今作を通して読めば間違いなく最高のカタルシスを感じることができて、

言葉にできないぐらい素晴らしかった。

七帝戦のラストに岩井眞監督と佐々木洋一コーチの「北大柔道」の文章が

載っているのは、心憎い構成になっている。

 

前作のラストで和泉唯信が増田に言った、

「後ろを振り返りながら進みんさい。繋ぐんじゃ。思いはのう、生き物なんで。

思いがあるかぎり必ず繋がっていくんじゃ。」

という台詞を思い出させる七帝戦で非常に良かった。

 

さらにラストで七帝戦後に北海道大学を退学することから、

北海道大学に柔道をやりに入学したというスケールの大きさを感じるのもあって、

妙に清々しいラストになっている。

 

前作から長い間待ったけれど、期待に違わず非常に素晴らしかった。

著者の増田俊也さんのX(twitter)によるとすぐに続編のⅢも出るみたいなので、
こちらも楽しみに待とうと思う。