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【東野圭吾】『クスノキの番人』についての解説と感想

本記事では東野圭吾さんの小説『クスノキの番人』を紹介します。

クスノキシリーズの第一作です。

クスノキの番人

クスノキの番人

著者:東野圭吾

出版社:実業之日本社

ページ数:496ページ

読了日:2024年4月1日

満足度:★★★★☆

 

東野圭吾さんの『クスノキの番人』。

クスノキシリーズの第一弾である。

 

あらすじ

直井玲斗は、不当な理由で職場を解雇され、

その腹いせに退職金代わりにその会社の高価な機械を盗むが、逮捕されてしまった。

そこへ弁護士が現れ、依頼人の命に従うなら自由の身になれると言われ、

玲斗は迷った末コイントスの賭けの結果、依頼人の命に従うことに。

無事釈放された玲斗は、

弁護士に連れられて高級ホテルで柳澤千舟という女性と出会う。

千舟は玲斗の亡くなった母親の異母姉、つまり伯母だった。

千舟は展望のない玲斗にクスノキの番人をしてもらいたいと告げる。

 

登場人物

・直井玲斗:月郷神社のクスノキの番人。

      名刺には『月郷神社 社務所管理主任』とある。

・柳澤千舟:直井玲斗の伯母。ヤナッツ・コーポレーションの顧問。

・直井美千恵:故人。直井玲斗の母親。柳澤千舟の異母妹。

・直井富美:直井玲斗の祖母。

・直井宗一:故人。直井富美の夫。柳澤千舟の父親でもある。国語の教師だった。

 

・佐治寿明:クスノキに祈念に来た男性。工務店の社長。

・佐治優美:佐治寿明の娘。大学生。

・佐治喜久夫:故人。佐治寿明の兄。『らいむ園』という施設に入っていた。

・佐治貴子:佐治寿明の母親。認知症が進んでいる。

・佐治弘幸:故人。佐治寿明父親。

・葉山:佐治寿明の中学時代の同級生。音楽教師。

・岡崎美奈子:ピアノ講師や音楽関係のフリーライターをしている。

 

・大場壮貴:クスノキに祈念に来た男性。大学生。

・大場藤一郎:故人。大場壮貴の父親。たくみや本舗の会長だった。

・福田守男:たくみや本舗の常務取締役。

 

・柳澤将和:ヤナッツ・コーポレーションの代表取締役。柳澤千舟のハトコ。

・柳澤勝重:ヤナッツ・コーポレーションの専務取締役。柳澤千舟のハトコ。

・桑原義彦:ホテル柳澤の総支配人。

 

・岩本義則:弁護士。

・豊井:トヨダ工機の社長。

・飯倉孝吉:クスノキに祈念したことがある老人。

      柳澤千舟とは小学校と中学が一緒だった。年齢は飯倉孝吉が二歳上。

・津島秀次:クスノキに祈念に来た老人。

・池田:『らいむ園』の職員。

・楢崎:『らいむ園』の職員。佐治喜久夫の担当だった。

・佐々木:直井玲斗の高校時代の同級生。船橋のクラブで黒服として働いている。

 

ネタバレなしの感想

主人公の直井玲斗は物心ついた時には父親はいなく、

母親の美千恵も玲斗が小学校低学年の時に亡くなってしまい、

祖母の富美に育てられた。

高校卒業後は職を転々とし、以前勤めていた会社に盗みに入るが、

警察に捕まってしまう。

釈放してもらう代わりに、

伯母の柳澤千舟からクスノキの番人を命じられるところから物語は始まる。

このクスノキにはある秘密があり、クスノキに祈念に来る人物との出会いや、

千舟との交流を通して直井玲斗の成長物語になっている。

 

物語の構成でいうと中心にクスノキの謎というものがあって、

クスノキに祈念に来る人物とその家族たちの物語も描かれている。

なので家族も物語の大きなテーマになっていて、それぞれの家族愛が描かれている。

東野さんの本の中では比較的珍しく、

殺人事件は起きないので人によっては物足りなく感じるかもしれないけれど、

私は今の東野さんであれば本作の作風の方が良かった。

東野さんの作品でいうと『ナミヤ雑貨店の奇跡』や『トキオ』のような、

ファンタジー要素のある作品になっている。

殺人事件こそ起きないけれど、クスノキの秘密というミステリー要素はあるし、

他にもミステリー要素はあるので、読んでいて飽きないし、

ラストの畳みかける展開の巧さは流石なので、読んで損はない一冊になっている。

 

 

ネタバレありの感想

事前に情報を入れなかったこともあって、

新鮮に読めたこともあって非常に楽しめた。

クスノキの謎も、またそれに関係する家族の話もベタといえばベタではあるけれど、

この話で変に捻られるよりは、王道的な話で私は良かった。

 

捻っている部分では、佐治喜久夫の曲を再現するところは、

佐治優美がクスノキに入って、曲が完成すると思ったら、

佐治寿明から優美という流れになっている部分かな。

もっとも、クスノキの特別な力であるとか、

その番人の凄さを描くという意味があるので、

この捻りはむしろ東野さんの巧さであるので、非常に良かった。

 

大場壮貴の話は、ちょっと想像したのとは違っていたけれど、

こちらは親子の話でうまくまとまっていた。

直井玲斗の境遇と、ある部分では似ている部分もあって、

玲斗と壮貴のやりとりも良かった。

 

そして柳澤千舟と玲斗の話、

読んでいて、千舟の認知症の話は全く分からなかった。

『ホテル柳澤』での夕食の時間に遅れたのやパーティ後の役員会のは、

読んでいて違和感を覚えたけれど、

スーツを買いに行った時の話は全く気付いていなかったので、驚きもあったし、

千舟と玲斗の最後の会話も含めて胸を打たれた。

私はかなり好きで、読んで満足できた一冊だった。