MENU

【米澤穂信】『追想五断章』についての解説と感想

本記事では米澤穂信さんの小説『追想五断章』を紹介します。

追想五断章

追想五断章

著者:米澤穂信

出版社:集英社

ページ数:296ページ

読了日:2024年3月29日

満足度:★★★☆☆

 

米澤穂信さんの『追想五断章』。

「ミステリが読みたい!2010年版」3位、

このミステリーがすごい!2010年版」4位、

「2010本格ミステリ・ベスト10」4位、

「2009「週刊文春」ミステリーベスト10」5位。

 

あらすじ

菅生芳光は学資が続かなくなったので大学を休学して、

現在は叔父・菅生広一郎の経営する菅生書店の居候になっている。

ある日、菅生書店を訪れた北里可南子という女性から、

死んだ父親が書いた五篇の結末の伏せられたリドルストーリーを

探してほしいと依頼される。

報酬に惹かれて依頼を受けた芳光は、

小説を探してる最中に北里可南子の父親・北里参吾が

二十年以上前の未解決事件「アントワープの銃声」の容疑者であることがわかり。

 

登場人物

・菅生芳光:学費が続かなくなり現在は大学を休学中。

      伯父の菅生広一郎の家に居候をして、菅生書店でアルバイトをしている。

・北里加南子:父親が生前に書いた小説を探して、

       長野県の松本から菅生書店を訪れた女性。

・久瀬笙子:大学生。菅生書店でアルバイトをしている。

・北里参吾:故人。北里加南子の父親。ペンネームは「叶黒白」。

・北里斗満子:故人。北里参吾の妻。新劇の女優をやっていた。旧姓は乾。

 

・菅生広一郎:菅生書店店主。菅生芳光の伯父。

・菅生花枝:菅生芳光の母親。掛川で一人暮らしをしている。

・菅生秋芳:故人。菅生芳光の父親。生前は金属加工の工場を経営していた。

 

・甲野十蔵:故人。経済学部の教授。同人誌「壺天」の世話をしていた。

・市橋尚造:駒込大学国文学の教授。専門は近世文学。「新紐帯」に関わっていた。

・宮内正一:北里参吾の友人。「朝霞句会」の主宰者。

・田口:ブックスシトーの店長。

・弦巻彰男:雑誌「深層」の記者。

      ベルギーの事件を記事にして、「アントワープの銃声」と名付ける。

・磯崎:雑誌「深層」編集部部長。

 

ネタバレなしの感想

メインストーリーは死んだ父親が書いた五篇の短編探しで、

その短編がリドルストーリーで結末が書いていない小説になっている。

さらには、その死んだ父親の北里参吾が「アントワープの銃声」という

未解決事件の容疑者だったという話になっている。

 

アントワープの銃声」とはベルギーのアントワープで起きた事件で、

北里の妻・斗満子がホテルの部屋で首を吊った状態で発見された。

斗満子が亡くなる前後にホテルの隣室の人間が銃声を聞いていて、

北里参吾が妻・斗満子を銃で脅して

自殺に見せかけて殺したのではないかと疑われた事件。

 

五篇のリドルストーリー探しと、

最後にはその五つの物語に秘められた真実が明らかになる構成になっている。

 

リドルストーリーもメインも暗く重めに加えて、

主人公の菅生芳光の境遇も父親が亡くなり、大学休学中ということもあって、

全体的に暗くなっている。

この部分を気にしないのであれば、精巧なミステリーになっていて、

リドルストーリーの独特な雰囲気も含めて決して悪くはない。

長編とはいえ290ページ程度なので、あっさりと読むことができるだろう。

 

 

ネタバレありの感想

作中で描かれているリドルストーリーは、

五篇中四篇は作中でその結末が描かれている。

もっとも、最初に明示された結末が実際には違うわけだが、

これは読んでいると何となく想像はできたかな。

またそれぞれの結末が「アントワープの銃声」

北里参吾が妻を銃で脅して自殺に見せかけて殺したのではないかという疑惑に対して

当時のマスメディアが投げかけた疑問文への回答になっている。

 

リドルストーリーや「アントワープの銃声」

(解説にもあるけれど元ネタはロス疑惑)など

面白い題材を使ってはいるけれど、全体的な盛り上がりには欠ける印象。

アントワープの銃声」の真相も実は北里可南子が

母親の斗満子の首吊りに関与していたというもので、

冒頭の可南子の「わたしの夢」という作文があることから何となく推察はできる。

ただ、可南子の最後の手紙の状況からすると北里参吾が

わざわざ銃を撃つのは全く理解できなかったので納得はあまりできていない。

 

物語的には主人公の菅生芳光がお金に困っているのは分かるけれど、

小説探しよりも普通にアルバイトでもすればいいとしか思えなかったし、

久瀬笙子は途中であっさりと退場してしまうので、かなり淡々と進む印象。

参吾がリドルストーリーの結末を入れ替えたりしているのを見ると、

参吾の方にもう少し焦点を当てて描かれていれば良かったかなと。

 

最後の「雪の花」は私には分からなかった。

考察するなら他の四つは事実として明確に回答できるけれど、

愛の有無に関しては明確には答えられなかったというところなのかな。

最後の最後がリドルストーリーになっているというオチ自体は結構好き。

本作の場合は明確に愛があったと書かれたところで、

それほど読後感が変わるとも思えないからな。