MENU

【伊坂幸太郎】『モダンタイムス(下)』についての解説と感想

本記事では伊坂幸太郎さんの小説『モダンタイムス(下)』を紹介します。

モダンタイムス

モダンタイムス(下)新装版

著者:伊坂幸太郎

出版社:講談社

ページ数:480ページ

読了日:2024年4月16日

満足度:★★★☆☆

 

伊坂幸太郎さんの『モダンタイムス』。

『魔王』の五十年後の世界が描かれている。

 

あらすじ

恐妻家のシステムエンジニア渡辺拓海の妻・佳代子が岡本猛を雇い、

物騒な手段を使って渡辺の浮気を調べさせた。

さらには、渡辺の周りでは特定のキーワードで検索した先輩社員の失踪、

後輩社員の誤認逮捕、上司の自殺、岡本猛の家の火事など不穏な出来事が起きていた。

渡辺は『安藤商会』というキーワードから岩手高原の安藤潤也のもとを訪れる。

 

登場人物

渡辺拓海システムエンジニア。二十九歳。母方の祖母の旧姓が安藤。

      占いサイトには安藤拓海という名前で登録している。

・渡辺佳代子:渡辺拓海の妻。職業不詳。二回の離婚歴がある。

・井坂好太郎:小説家。渡辺拓海の小学校からの友人。

・大石倉之助:渡辺拓海の後輩社員。システムエンジニア。入社二年目。

・五反田正臣:渡辺拓海の先輩社員。システムエンジニア。三十一歳。

       システムエンジニアとしては優秀で社内で一目置かれている。

・加藤:故人。渡辺拓海たちの課長。

・吉岡益三:渡辺拓海の会社の営業部の古株の社員。ヨッシーと呼ばれている。

      株式会社ゴッシュの仕事を取ってきた。

      加藤課長の秘事を知っているらしい。

・工藤:派遣のプログラマー

    五反田正臣と共に株式会社ゴッシュの仕事を行っていた。

・桜井ゆかり:渡辺拓海が勤務している会社の事務。渡辺拓海の不倫相手。二十五歳。

・岡本猛:渡辺佳代子が雇った髭の男。暴力業。

・安藤潤也:故人。岩手の山奥に住んでいた大富豪。安藤商会の社長。

      十分の一イコール一にする超能力を持っていた。

・安藤詩織:安藤潤也の妻。七十代後半。

・愛原キラリ:ペンション村の管理人。元女優。五十代。一行予言の超能力がある。

手塚聡:漫画家。井坂好太郎の知り合い。

・間壁敏郎:播磨崎中学校事件の被害者。井坂好太郎の小説の中にも出てきた人物。

・犬養舜二:元首相。憲法改正国民投票を行った。

・永嶋丈:国会議員。播磨崎中学校事件の時は用務員をしていた。

・緒方:永嶋丈の近くにいる人物。昔は犬養舜二の側近だった。

・田中:株式会社ゴッシュのシステム管理者。脚を少し引き摺っている。

 

ネタバレなしの感想

渡辺拓海は、安藤潤也に辿り着くも、事件との繋がりが見出せないまま、

さらに追い詰められていくことになる。

追い詰められるも渡辺たちは、国家システムに抗うという選択肢を選んで、

真実を追求することになるという展開になっている。

前半から続く、検索ワードの「播磨崎中学校事件」の真相が語られたり、

謎の存在だった「安藤商会」の正体、

それに渡辺拓海の妻・佳代子も登場して物語は収斂していく。

ただ、完全にエンタメに振り切っているわけではないので読む場合は、

それなりの覚悟が必要かもしれない。

 

 

ネタバレありの感想

岩手での安藤詩織や愛原キラリとのシーンは、緩い感じで進むも、

その後の「岡本猛が拷問されているところ」の映像からは、

盛り上がって、五反田正臣が登場したり、大石倉之助も加わって、

物語の核心に迫っていくのは良かった。

一番盛り上がったのは、やはり渡辺拓海の超能力が

『魔王』の主人公の安藤と同じ『腹話術』であったこと。

ただ、ここで盛り上がるためには、『魔王』を読んでないと、

そこまで盛り上がりはしないだろうなと思う。

あとは永嶋丈が映画で語っていたように、天井裏の配管スペースを通ってきて、

本当の英雄になるのも良かった。

一方でラストの株式会社ゴッシュのサーバぐらい壊すのかと思ったら、

そこも失敗するというのはかなり拍子抜けしてしまった。

システムに立ち向かう意思を見せる五反田の方がかっこよく主人公に相応しいぐらい。

最後の最後で岡本猛が再登場することで

何とか読後感は悪くないものになってはいるけれど、爽快感は無かった。

 

伏線だと思わなかったものが伏線になっていたという驚きはいくつかあったけれど、

ストーリーの本筋としてはそれが面白さに繋がっているとは言い難い。

 

あと「アリは賢くない。けれど、コロニーは賢い」というのは分かるんだけれど、

その後の播磨崎中学校の事件で英雄を仕立てあげた緒方すら部品であるというのは、

私にはよく理解できなかった。

 

下巻まで読んでみると、正直エンタメとしてもメッセージ性もどちらも

そこまで響くものは無かったかな。

『魔王』に収録されている「呼吸」の潤也の「馬鹿でかい規模の洪水が起きた時、

俺はそれでも、水に流されないで、立ち尽くす一本の木になりたいんだよ」

という台詞の方がよっぽど心に残るものがあった。

 

文庫版あとがきによると

文庫化に際して播磨崎中学校事件の真相が変更されているらしいけれど、

新装版解説のオマケとして単行本版の事件の真相が載っているけれど、

正直単行本版の方が私には魅力的に映る。

播磨崎中学校に特殊な能力を持つ少年少女が集められていて、

彼らを被験者として実験を行っていたというもの。

そこにアポなしで学校を訪問した保護者が虐待される子供を目のあたりにしたため、

事件が起きてしまい、死体の山が築かれてしまうというもの。

これだと序盤の加藤課長の『幻魔大戦』が伏線になっていて、

サイキック要素満載で、よりエンターテインメント性も増したかなと思う。

 

小ネタとしては、緒方は『魔王』に登場した『ドゥーチェ』のマスター。