MENU

【綾辻行人】『水車館の殺人』についての解説と感想

本記事では綾辻行人さんの小説『水車館の殺人』を紹介します。

館シリーズ』の第二弾です。

水車館の殺人

水車館の殺人〈新装改訂版〉

著者:綾辻行人

出版社:講談社

ページ数:464ページ

読了日:2024年4月19日

満足度:★★★★☆

 

綾辻行人さんの『水車館の殺人』。

館シリーズ』の第二作目になる。

 

あらすじ

岡山県の北部の山間の地に建てられた外壁と塔を持つ古城のような建物・水車館。

水車館には車椅子に乗った仮面の当主・藤沼紀一と

その妻である美しい少女・由里絵が住んでいた。

紀一は過去にみずからの起こした自動車事故によって

顔面と両手両足に深い傷を負ったため、

白いゴムの仮面と白い布手袋をして車椅子に乗って生活をしていた。

紀一の父親・藤沼一成は幻視者と云われた不世出の画家で、

一成の死後に紀一は全国に散らばっていた一成の絵を金に飽かせて買い戻し、

ほとんどすべての一成作品を手中に収めてしまった。

その中には幻の遺作「幻影群像」が含まれていて、

館内のどこかに隠されているとのことだった。

 

この水車館では一年に一度、一成の命日に当たる九月二十八日にだけ、

屋敷の訪問とコレクションの鑑賞が許されていた。

そして四人の人物が屋敷を訪れた中で事件が発生した。

一人は転落死、一人は密室から消失し、

そして一人はバラバラ死体にされて焼却炉で燃やされた不可解な事件。

正木慎吾を殺し、一成の絵を盗んで、

そのままどこかへ逃走したと目されている男・古川恒仁。

 

一年後の九月二十八日に、その古川の友人・島田潔が水車館を訪れる。

 

主な登場人物

[( )内の数字は一九八五年九月時点の満年齢]

・藤沼一成:故人。幻視者と云われた不世出の画家。

・藤沼紀一:その息子。傷ついた顔を仮面で隠し、「水車館」に住まう。(41)

・藤沼由里絵:その妻。一成の弟子、柴垣浩一郎(故人)の娘。(19)

・正木慎吾:紀一の友人。かつて一成に師事した。(38)

・倉本庄司:「水車館」の執事。(56)

・根岸文江:住み込みの家政婦(過去)。(45)

・野沢朋子:通いの家政婦(現在)。(31)

・大石源造:年に一度、「水車館」を訪れる。美術商。(49)

・森滋彦:同。M**大学、美術史の教授。(46)

・三田村則之:同。外科病院の院長。(36)

・古川恒仁:同。藤沼家の菩提寺の副住職。(37)

・島田潔:招かれざる客。(36)

上記はP21から引用

 

ネタバレなしの感想

車椅子に乗った仮面の当主、その妻である幽囚の美少女が住む水車館を舞台に

一年前に不可解な事件が起きていた。

家政婦の転落死、密室から消失した男、そして焼却炉で燃やされたバラバラ死体。

過去と現在が交差する本格ミステリー小説。

 

前作『十角館の殺人』と同様に外界から孤立した館での連続殺人事件がメインで、

前作にも登場した島田潔が探偵役として活躍している。

また今作に登場する水車館の設計者は中村青司で、

中村青司は前作の舞台になった十角館と青屋敷を設計した人物である。

 

同じ九月二十八日(一部は二十九日)の

現在(一九八六年)と過去(一九八五年)が交互に描かれながら、

物語は進行していく。

 

「嵐の山荘」もので仮面の当主に美少女と、

私が考えるミステリー小説らしい雰囲気で、

前作の『十角館の殺人』とはまた違った形のミステリー小説として

魅力あるものになっている。

難点としては現在と過去が交互に書かれている構成は若干読みにくさがあるのと、

1988年発売なのでどうしても古さを感じる部分もあるけれど、

それでも私は十分楽しむことができた。

 

 

ネタバレありの感想

本格ミステリー小説ということで、犯人当てをしようと思って読んで、

ばらばらに解体されて焼却炉で焼かれた正木慎吾が

実際は古川恒仁で、正木が藤沼紀一に成り代わっていることは分かった。

なので、当たったので小説としてつまらないか?と言われれば、

そんなことは全くなくて、

むしろラストまで読むとしっかりとしたロジックで書かれていることに驚く。

 

正木が事故によって後天的な強度の色覚異常になっていて、

赤緑系の色が灰色に見えてしまい、正しい色の判断ができなくなっているのが、

現在の紀一(正木)パートで示唆されているのだが、

読んでいる最中には私には全く分からなかった。

しかも、ドアの下の便箋の件や正木が事故後には絵を描かなくなっていたことを

考えると、気づいてもおかしくなかったのだけど、全く気にもしなかった。

 

根岸文江殺しの件も同様で、文江は世話好きで紀一の身辺の世話や入浴の手伝い、

体調管理をしているから、入れ替わりのためには文江が邪魔ということ。

一方、執事の倉本庄司は主人から常に一定の距離を保っていて、

紀一の機嫌や体調の変化に関してはいやに鈍感で、

入れ替わりに気づかないのが示唆されている。

 

個人的には冒頭の野沢朋子が変な(嫌な)臭いがというのが伏線になっていて、

本物の藤沼紀一の死体の臭いだったというのが一番やられた感があった。

これに加えて中村青司が設計した水車館にも隠し部屋があって、

クライマックスで関わってくるのは非常に驚いた。

さすがに事件そのものには隠し部屋とか通路が関わってるとは思わなかったけれど、

こういう形で関与するとは思わなかったのもあって余計に驚いた。

あとは藤沼一成がなぜ幻視者と言われていたのかが、

ラストの「幻影群像」の描写で分かるのはオカルト要素もあってかなり好き。

 

正直しわがれた声を真似したところで倉本や他の人たちを騙せるとは思えないし、

藤沼由里絵も正木に協力した一年後には三田村の誘いに乗るなどツッコミどころは

あるけれど、それを上回る面白さがあったのでかなり楽しめた。