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【綾辻行人】『迷路館の殺人』についての解説と感想

本記事では綾辻行人さんの小説『迷路館の殺人』を紹介します。

館シリーズ』の第三弾です。

迷路館の殺人

迷路館の殺人〈新装改訂版〉

著者:綾辻行人

出版社:講談社

ページ数:496ページ

読了日:2024年5月19日

満足度:★★★★☆

 

綾辻行人さんの『迷路館の殺人』。

館シリーズ』の第三作目になる。

このミステリーがすごい!』1988年版国内編7位。

 

あらすじ

日本推理小説界の影の大家・宮垣葉太郎の還暦記念パーティー

宮垣邸「迷路館」で執り行われることになった。

招かれたのは、宮垣葉太郎が主宰してきた雑誌『奇想』の新人賞出身者の作家である

須崎昌輔、清村淳一、林宏也、船丘まどか、評論家の鮫島智生、

編集者の宇多山英幸とその妻・桂子、そして推理小説マニアの島田潔。

約束の時間を過ぎた頃、宮垣の秘書・井野満男が現れ、宮垣が今朝、自殺したこと、

そして遺書に従って、警察には通報していないことを告げる。

自殺した宮垣は一本のカセットテープを遺していた。

そのカセットテープには、五日後まで、秘書の井野と医師の黒江辰夫以外は

館を出てはならず、警察に通報してはならないこと。

さらには、その五日の間に迷路館に滞在する四人の作家は、迷路館を舞台とした、

自分自身が被害者となる殺人事件をテーマとした小説を

一篇ずつ書かなければならないこと。

そしてその推理小説を、編集者の宇多山と評論家の鮫島、

愛好者代表として島田が審査し、最も優れた作品を書いた者に、

宮垣の遺産の半分を相続する権利を与える、というものだった。 

四人の作家たちは莫大な賞金をかけて、

迷路館を舞台にした推理小説の競作を始めるが、それは

 

主な登場人物

[( )内の数字は、一九八七年四月時点の満年齢]

・宮垣葉太郎:日本推理小説界の老大家。「迷路館」の主人。(60)

・清村淳一:推理作家。(30)

・須崎昌輔:推理作家。(41)

・船丘まどか:推理作家。(30)

・林宏也:推理作家。(27)

・鮫嶋智生:評論家。(38)

・宇多山英幸:編集者。(40)

・宇多山桂子:その妻。(33)

・井野満男:宮垣の秘書。(36)

・角松フミヱ:お手伝い。(63)

・島田潔:推理小説マニア。(37)

上記はP21から引用

 

ネタバレなしの感想

館シリーズ第三作目の『迷路館の殺人』今作の特徴は小説の中に小説がある、

「作中作」になっている。

作中作の『迷路館の殺人』の著者が鹿谷門実という人物で、

本の内容は実際にあったある殺人事件を直接の題材として書かれているというもの。

この著者「鹿谷門実」は登場人物の誰か?ということと、

殺人事件の犯人探しの二つの楽しみが味わえるのが特徴になっている。

 

殺人事件も見立て殺人になっていたり、

迷路館の部屋は、ギリシャ神話のミノス迷宮になぞらえて

ダイダロス」や「コカロス」、「ポセイドン」などの名称が付けられていて、

アリアドネの糸も重要な意味を持っている。

今作から読んでも十分楽しめるとは思うけれど、

出来れば館シリーズの順番通りに読むことをお薦めする。

 

 

ネタバレありの感想

まず迷路館で起きる殺人事件の犯人だけれど、こちらは宮垣葉太郎だと推測した。

というのも、それぞれの作家たちが考えた事件の方法に見立てるのは

現実的ではないので事前に宮垣が書いていたものであれば犯行は容易だし、

中村青司が手掛けた「迷路館」であれば隠し通路でもあるだろうという理由。

あとは宇多山英幸と宮垣のやりとりで

「一度この手で人を殺してみたい、という願望だ。」とあったので、

これが伏線になっているんだろうと。

で、須崎昌輔が殺された時の血の一件も宮垣であれば、

特に問題にならないだろうという推測。

途中までは想像通り宮垣犯人で話が進んだので、

簡単だったと思っていたら、まさかの鮫嶋智生が真犯人で、

しかも女性だったというオチ。

つまり叙述トリックだったわけだけれど、正直全く想像していなかったのもあって、

かなり驚いた。

 

そして次に「鹿谷門実」の正体に関しては、全く分からなかった。

言い訳をすると、読んでいればある程度推理する材料が出ると思ったので、

そこまで考えなかったというのもある。

もっとも、本名をローマ字にして綴り替えたもの(アナグラム)というのは、

発想がなかったのでいくら考えても分からなかっただろう。

最初のプロローグの島田が、島田潔ではなくて、島田家の長男・勉で、

勉が『迷路館の殺人』を読んでいるという構造になっていると。

こちらも叙述トリックで、

館シリーズを読んでいれば島田=島田潔だと思い込んでしまうのもあって、

全く想像していなかった。

これが最後の最後に真相が明かされるのもあって、かなりの衝撃だし、

物凄くうまい仕掛けだと手を打ってしまった。

迷路館の殺人』を読んでいる島田は夏風邪で、

迷路館の殺人』に登場する島田潔も洟を啜り上げる描写があり、

どちらも風邪(気味)で同一人物と思わせていると。

 

不満点としては、須崎を殺した時の女性の生理出血に関してはあり得ないかな。

しかも、これから人を殺すという時にスカートというのもちょっと理解できなかった。

あと『迷路館の殺人』が真犯人の鮫嶋智生にとっては、

告発のメッセージになるというのも、ちょっと理解できなかった。

 

伏線の数々といい、作中作の趣向を凝らしてること、

さらにはどんでん返しの連続といい、満足度の高い一冊。