本記事では荻原浩さんの小説『ハードボイルド・エッグ』を紹介します。
最上俊平シリーズの一作目です。
ハードボイルド・エッグ 新装版
著者:荻原浩
出版社:双葉社
ページ数:396ページ
読了日:2024年8月21日
満足度:★★★☆☆
荻原浩さんの『ハードボイルド・エッグ』。
最上俊平シリーズの第一弾。
あらすじ
フィリップ・マーロウに憧れ、
ハードボイルドに生きると決めている私立探偵の「私」こと最上俊平。
しかし、探偵事務所に持ち込まれるのは、ペットの捜索依頼ばかり。
しかるべき探偵、しかるべき男に変わろうと一念発起した最上俊平は、
まず手始めに美人秘書を雇うことを決意したが、
やってきたのはなんとも達者な女性で・・・。
登場人物
・最上俊平:最上探偵事務所の探偵。フィリップ・マーロウを信奉している。
以前は英会話教材のセールスをしていた。
・片桐綾:最上探偵事務所の秘書。
・J:「J」のオーナー。リュウ・アーチャーを偏愛している。
・ゲンさん:街の北部をテリトリーにしているホームレス。
・野々村夫人:「アリサ」捜しの依頼人。夫は建設会社の営業部長。
・矢部惠一郎:「チビ」捜しの依頼人。クルマの部品工場の経営者。
・柴原克之:ペット業者。私設動物園『柴原アニマルホーム』を経営している。
・柴原翔子:柴原克之の妻。ペット業者。
・相沢清一:事件の被害者。柴原翔子の父親。マンションや駐車場を所有する資産家。
・相沢雅也:相沢清一の息子。
・少年:ガルシアの捜査の時に出会った登校拒否児童。
・鷹津:鷹津ペットホスピタルの院長。
・マツさん:県営動物管理センターの職員。
・中塚:中塚組組長。
・ミツオ:中塚組の金髪。
・溝口:中塚組のちょび髭。
・須藤:県警捜査一課の刑事。最上俊平を事情聴取した耳毛警部補。
・片桐忠文:外科医。
・沢木:在宅老人支援ネットワークの職員。
ネタバレなしの感想
今からだと20年以上前に一度読んでいる『ハードボイルド・エッグ』。
タイトルだけ見ると、ハードボイルドものかと思いきや、
実際にはハードボイルドな探偵に憧れている冴えない主人公・最上俊平。
この主人公である最上俊平を好きになれるかどうかで
本書の評価は大きく分かれるとは思うけれど、私は好きになった。
ハードボイルドに憧れている探偵ではあるけれど、
実際にはペット探しばかりという現実を、
最上俊平視点の「私」としてコミカルに描いている。
日頃から、格好よく生きたいと思いながら暮らしているのだけれど、
いつもはずしてしまう最上俊平、滑稽さがあるので親しみを感じることができる。
なのでハードボイルドものを期待して読むと、裏切られることになるのでご注意。
あくまでユーモア小説で、くすりと笑える話になっている。
今回改めて読んだけれど、
正直序盤は結構地味で動物探しが延々と続く感じになっている。
もっとも地味ではあるけれど、このペット探しも犬や猫だけではなく、
イグアナもいるので、バラエティに富んではいる。
その地味な序盤の中でもリュウ・アーチャーを偏愛しているJは、最上俊平と同類で、
彼とのやり取りはくすりと笑えるものになっている。
また秘書に応募してきた片桐綾の初登場シーンや、
その片桐綾と最上俊平とのやり取りも漫才のようで非常に良かった。
ただ文体もハードボイルドを意識しているので、
どうしてもまどろこっしい感じがするので、慣れるまで多少時間がかかった。
殺人事件が起きた後からは物語が一気に動き出して面白くなるので、
そこまでは多少我慢してでも読んでいただきたい。
ユーモア小説なので肩肘張らずに読書を楽しみたい方向けの一冊。
ネタバレありの感想
ミステリーとしては、犯人が柴原克之と翔子の夫婦というのは、
そこまで意外性はなくて、予想はしやすい。
ただその犯人を特定する過程において、
それまでの最上俊平のペット捜索の経験が活かされていたり、
小説の前半に描かれていたチビやゲンさんも絡んできたり、
さらには秘書の片桐綾も活躍する展開は王道的な面白さがあって良かった。
真相が解き明かされた後の克之と翔子の壊れっぷりはそれぞれ対照的ではあるけれど、
悪くはなかった。
特に将子はそれまでの印象からの落差もあって、
より壊れっぷりが際立っていて印象に残った。
最上俊平と片桐綾のコンビは掛け合いも良かったし、
探偵稼業でも良いコンビになっていたので最後にあっさり綾が死んだのは驚いた。
「お婆ちゃんはなんだか・・・・・・」
幸せそうでしたー女がそんな言葉を呟いて私の目を見返してくる予感がした。
がそうではなかった。「いつも、ぐったり疲れた要素で・・・・・・」(P391)
とあるように読者を泣かすというよりは、
くすりと笑えるようにしているので湿っぽくならないのも個人的には好印象。
ゲンさんやJ、それに登校拒否の少年なども最後に登場して、
この世界が続くように見せているのも素晴らしかった。