聖女の救済
著者:東野圭吾
出版社:文藝春秋社
ページ数:432ページ
読了日:2023年10月29日
東野圭吾さんの『聖女の救済』。
ガリレオシリーズ第五弾で、『ガリレオの苦悩』と同時に刊行された。
ガリレオシリーズ二作目の長編になる。
福山雅治さん主演でドラマ化されていて、2013年に映像化されている。
あらすじ
IT会社の社長の真柴義孝が自宅で死んでいるのが発見された。
義孝の妻の綾音は実家の北海道に帰省中で、
発見者は綾音が主催するパッチワーク教室の講師である若山宏美だった。
死因は毒殺で、彼が飲んでいたコーヒーから亜ヒ酸が検出された。
この事件の捜査にあたることになったのは草薙とその後輩の内海薫だった。
薫は些細なことから綾音の犯行ではないかと疑うが、
綾音を一目見て惹かれた草薙と対立してしまう。
動機的には怪しい綾音であったが、
事件当日は北海道にいたという鉄壁のアリバイがあった。
また毒物の混入経路も依然として不明のままだった。
薫は綾音が離れた場所から毒を仕込むトリックを暴いてもらうために、
物理学者の湯川学准教授のもとを訪れるが。
登場人物
・湯川学:帝都大学物理学准教授。理工学部物理学科第十三研究室所属。
学生時代にバドミントン部に所属していた。
・草薙俊平:警視庁捜査一課の刑事。
・内海薫:警視庁捜査一課の刑事。草薙の後輩。
・間宮:警視庁捜査一課の係長。階級は警部。草薙たちの上司。
・岸谷:警視庁捜査一課の刑事。草薙の後輩で、薫の先輩。
・真柴綾音:パッチワーク作家。旧姓は三田。『アンズハウス』を主宰している。
・真柴義孝:事件の被害者。真柴綾音の夫。IT関連会社社長。
・若山宏美:真柴綾音の弟子。『アンズハウス』で講師をしている。
・猪飼達彦:弁護士。真柴義孝が経営する会社の顧問弁護士を務めている。
義孝とは大学のサークルが一緒だった。
・猪飼由希子:猪飼達彦の妻。
・三田和宣:真柴綾音の父親。
・三田登紀子:三田和宣の妻。
・元岡佐貴子:真柴綾音の友人。
・山本恵子:真柴義孝の経営する会社の広報室長。
・津久井潤子:故人。絵本作家。
ネタバレなしの感想
『ガリレオの苦悩』とは違って長編になっていて、
時系列的には『ガリレオの苦悩』の「落下る」の数か月後あたり。
内海薫が当たり前のように登場してるので、
『ガリレオの苦悩』を読んでからの方が無難だろうけど、
ガリレオシリーズはそこまで順番に拘る必要もないかな。
今作の特徴は草薙がメインの扱いで、
事件の被害者から一方的に離婚を言い渡された綾音に惹かれてしまう。
そして、その綾音を疑う薫が湯川に協力を頼み、
綾音が仕組んだトリックを解明していくという話。
『聖女の救済』は昔一度読んだことあるんだけれど、
このトリックはかなりインパクトがあるものになっているので、読んで損はない。
なお、湯川学の登場は138ページからとかなり遅めになっている。
ネタバレありの感想
以前『聖女の救済』を読んだ時は気にならなかったけれど、
今回読んで理解できなかったのが浄水器の件。
この浄水器が私には全く理解できなかった。
流し台の下に設置する本格的な浄水器というのを知らないのもあるけれど、
意識的にかなりここをぼやかしてるように感じてしまった。
157ページに
「水道の水などは滅多に口にしなかった。
料理には浄水器を通した水を使っていた。
そのまま飲むのはペットボトルの水だけです。」
198ページには
「水道管、浄水器の分岐パイプ、フィルター~」とある。
なので三種類の水があるんだろう、
また序盤でも綾音が水道水を使うのはしっかり描写されている。
直後の161ページではペットボトルの水を使ったか水道の水を使ったか
薫が宏美に聞くシーンがあり、宏美は水道の水を使い、
ペットボトルだと不経済だと言うけれど、
浄水器の水を無視するあたり作者に都合が良すぎるんじゃないかと。
というか、これ犯人視点ならともかく草薙や内海視点だからな、
ちょっと納得できない。
ここまで書いて完全な的外れだったら恥ずかしいけれど。
一年前からトリックを仕掛けていたという、これが全てかな。
小説の技術的な話でいうと、
最後に真柴綾音が独白するのもあまりにも都合が良すぎるかな。
これは加賀シリーズにも結構あったけれど、
確かに事件の全容が明らかになるという意味では読者としてもスッキリはするけれど、
ご都合主義と二時間ドラマのような安っぽさは否めない。
あとは草薙は何で綾音が水撒きに使っていた空き缶を保管していたのかとか、
綾音は義孝に何でそこまで拘ったのかとかは理解できなかったな。
義孝にしたって子供を作るのが第一の目的で、
義孝に問題がないなら、年齢的にもっと前から子供出来てそうなもんだしな。
実際、綾音と結婚してるのに宏美と浮気をして、子供ができてるわけで。