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【東野圭吾】『ガリレオの苦悩』についての解説と感想

本記事では東野圭吾さんの小説『ガリレオの苦悩』を紹介します。
ガリレオシリーズの四作目である。

ガリレオの苦悩

ガリレオの苦悩

著者:東野圭吾

出版社:文藝春秋

ページ数:384ページ

読了日:2023年10月13日

 

東野圭吾さんの『ガリレオの苦悩』。

シリーズ第四弾で、『聖女の救済』と同時に刊行された。

本作から内海薫が初登場する。

五篇収録の短編集になっている。

 

第一章 落下る(おちる)

あらすじ

マンションから女性が転落死した。

鍋から被害者の血痕が見つかったことなどから、他殺の疑いが浮上する。

被害者の大学の先輩である岡崎光也が被害者の部屋を訪れていたと名乗り出る。

岡崎はマンションを出た後にしばらくの間近所にいて、

その後に被害者が転落した場面を目撃し、ピザ屋の店員にぶつかったと主張する。

若手女性刑事の内海薫は女性用の下着が入った宅配便が

玄関の靴箱の上にあったことなどから、

岡崎と被害者が恋人関係にあると疑うが、

どうやって被害者を転落させたかは分からずにいた。

そこで薫は草薙俊平に紹介状を書いてもらい、湯川学のもとを訪れる。

 

ネタバレありの感想

内海薫の初登場作品で

おそらく時系列的には『容疑者Xの献身』の直後だと思われる。

内海薫の推理が鋭いというよりは草薙があまりにも頼りなさすぎなんじゃないか

としか思ない話になっている。

雨やんでるのに傘さしてるのはトリックに関係するのかと思ったら、特に無しと。

岡崎の主張通りマンション近くで何かをしていたなら現場から

すぐ立ち去らないのは不自然だし、

すぐ立ち去っているなら時系列的に整合性あるのか?が疑問。

 

第二章 操縦る(あやつる)

あらすじ

元帝都大学助教授の友永幸正は、

かつての教え子たちを家に招待して酒を酌み交わしていた。

友永が寝室で休んでいる時に、教え子たちが話していると、

離れ家から炎が噴きはじめる。

離れ家には友永の息子の邦弘が独り暮らしをしていて、

焼け跡から死体として見つかった。

現場から見つかった死体は、刃物で刺されて死んでいた。

草薙たちが友永から話を聞いていると、そこに湯川が現れる。

 

ネタバレありの感想

物理系のトリックと人情系の話。

湯川から自首を勧められたのに友永が拒否する理由もしっかりしていて、

それに対する湯川たちの対応も素晴らしい。

しかし、友永と奈美恵を見て男女関係を疑うも

薫にあっさり否定される草薙はやっぱり頼りないな。

 

第三章 密室る(とじる)

あらすじ

湯川はペンションを経営する友人の藤村からある事件の謎について相談され、

ペンションに招待される。

それは藤村のペンションに宿泊した客がガードレール下に転落死した事件であった。

事件前に藤村が被害者を呼びかけるも返事がなく、

マスターキーで鍵を開けるも、ドアチェーンがかかっていて、

窓にも鍵がかかっていた。

二度目に部屋へ行き声をかけても返事がなかったが、

マスターキーでドアを開けると、寝返りをうつような音がして、人の気配がした。

しばらくして、部屋の窓が開いていて、被害者は転落死していた。

藤村は二度目に呼びかけた時の密室の謎が気になっていると言うが。

 

ネタバレありの感想

物理系というのか新技術系か、

それにプラスして人情系という意味では「操縦る」に近いかな。

藤村が二度目に声をかけた時に人の気配がしたのが嘘だったり、

ホログラムにしてもツッコミどころはあるけど、

過飽和の話のようなのがサラッと出てくるのが良い。

 

第四章 指標す(しめす)

あらすじ

ハワイ旅行から帰ってきた家族が祖母が殺されているのを発見する。

その家からは金の地金十キロも盗まれていて、

さらには飼っていた犬もいなくなっていた。

犯行のあったと思われる日に被害者宅を訪れていた

保険会社のセールスレディの真瀬貴美子に疑いの目を向けるが、

容疑を裏付ける証拠も見つからなかった。

真瀬家を張り込んでいた薫は貴美子の娘の葉月が家から出てきたので後をつけるが、

葉月は不法投棄が行われている場所で、洗濯機に捨てられた犬の死骸を発見する。

葉月はダウジングによって犬の場所を突き止めたというので、

薫とともに湯川のもと訪れる。

 

ネタバレありの感想

ダウジングということでガリレオシリーズの初期作品に最も近い話。

実際には葉月は犬の死骸の場所を推測して向かっているので

ダウジングとは違うけれど、湯川の人間に対する優しさは分かる。

ただ、碓井が足を引きずっているのなら

警察は碓井をマークできるよなとしか思えないのも事実。

 

第五章 攪乱す(みだす) 

あらすじ

警視庁に『悪魔の手』と名乗る人物から怪文書が送り付けられる。

そこには、デモンストレーションの予告と

T大学のY准教授に助太刀してもらうとよいと記されていた。

悪戯かどうか困惑していると、湯川から草薙のもとに電話がかかってきた。

湯川のもとにも『悪魔の手』から手紙が届いていた。

 

ネタバレありの感想

超指向性スピーカーにより平衡感覚を狂わせ死に至らせる事件。

犯罪手段はガリレオシリーズらしくなっている。

今までと大きく違うのは、劇場型犯罪であることかな。

劇場型犯罪の部分をもっと書くと長編になって面白くなりそうだけど、

東野さんはあまりそっちには興味ないのかな。

高藤が由真を殺して湯川に対して逆恨みするのはあまりにも無理があるかな。

 

登場人物

・湯川学:帝都大学物理学准教授。理工学部物理学科第十三研究室所属。

     学生時代にバドミントン部に所属していた。

・草薙俊平:警視庁捜査一課の刑事。

      帝都大社会学部出身。大学時代はバドミントン部に所属。

      第五章の攪乱すで主任に任命される。

・内海薫:警視庁捜査一課の刑事。草薙の後輩。

     第五章の攪乱すで草薙チームの所属に。

・間宮:警視庁捜査一課の係長。階級は警部。草薙たちの上司。

・岸谷:警視庁捜査一課の刑事。草薙の後輩。

 

第一章 落下るに登場

・江島千夏:事件の被害者。銀行勤務。

・三井礼治:『ドレミピザ木場店』の店員。

・岡崎光也:家具店の営業。江島千夏の大学のテニス同好会の先輩。

前田典子:銀行勤務。江島千夏の同僚。

 

第二章 操縦るに登場

・友永幸正:元帝都大学助教授。湯川たちの恩師。

      ニックネームは『メタルの魔術師』。

・新藤奈美恵:友永幸正の内縁の妻の連れ子。

・友永邦弘:事件の被害者。無職。友永幸正の息子。

・井村:塾の経営者。友永幸正の教え子。

・岡部:出版社勤務。友永幸正の教え子。

・安田:スポーツ用具メーカー勤務。友永幸正の教え子。

・小井戸:所轄の捜査員。

・紺野宗介:自動車会社のディーラー。新藤奈美恵の恋人。

・大道:鑑識課の若手。

 

第三章 密室るに登場

・藤村伸一:ペンション経営者。湯川と草薙の

・藤村久仁子:藤村伸一の妻。

・祐介:観光協会勤務。藤村久仁子の弟。

・原口清武:団体職員。ペンションの宿泊客で峡谷から転落死した。

 

第四章 指標すに登場

・真瀬葉月:中学生。

・真瀬貴美子:保険の外交員。

・野平加世子:事件の被害者。七十五歳。

碓井俊和:真瀬貴美子が勤務する事務所の上司。

 

第五章 攪乱すに登場

・多々良:警視庁捜査一課の管理官。

・上田重之:建築現場の作業員。塗装工。『悪魔の手』の最初の犠牲者。

・上田涼子:上田重之の娘。

・石塚清司:『悪魔の手』の二人目の犠牲者。

・弓削:警視庁の刑事。間宮の部下で草薙と同じく主任を務めている。名前だけ登場。

・天辺恭子:インテリアデザイナー

・高藤英治:超音波技術の研究主任をしていたが、

      研究部門から外されたのを機に退職。

・河田由真:高藤英治の同棲相手。

 

総評

長編だった『容疑者Xの献身』から短編集に戻った『ガリレオの苦悩』、

ガリレオシリーズ恒例の短編集なので良くも悪くも安定している。

内海薫が今作から登場することになるが、

これによって特に大きく話が変わっているわけではないかな。

シリーズ四作目ということもあって、

どちらかというとキャラクター要素が強くなっている感じもするけれど、

科学要素もあるので今まで同様十分楽しめた。

人情話もあったりとバラエティに富んだ短編集になっている。

私は「操縦る」と「指標す」がお気に入り。