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【横山秀夫】『臨場』についての解説と感想

本記事では横山秀夫さんの小説『臨場』を紹介します。

臨場

臨場

著者:横山秀夫

出版社:光文社

ページ数:354ページ

読了日:2023年10月16日

 

横山秀夫さんの『臨場』。

L県警捜査一課調査官の倉石義男を描いた作品。

八篇収録の短編集になっている。

内野聖陽さん主演でドラマ化と映画化されている。

 

・赤い名刺

あらすじ

『終身検視官』の異名を持つ倉石義男の下で調査官見習い中の一ノ瀬は、

臨場要請の住所が、かつての不倫相手の相沢ゆかりと知って驚く。

過去がバレると不安になった一ノ瀬は倉石に同行し現場に臨場する。

一ノ瀬はゆかりが自殺するとは思えなかったが、

あらゆる材料が縊死という結論を出していたが。

 

ネタバレありの感想

文句なく面白く、そしてうまい。

相沢ゆかりの部屋のドアが一つのポイントになるんだけど、

一ノ瀬視点で物語が進行することによって、

一ノ瀬が名刺を入手しようとする瞬間に谷田部克典が登場するので、

完全に名刺の方に興味が持たれるようになっているのがうまいかな。

一ノ瀬視点なので緊迫感があるのも話としては良い。

 

・眼前の密室

あらすじ

相崎靖之は老婆殺しの容疑者を絞り込むため、

大信田班長の帰宅を官舎近くで張り込んでいた。

しかし、張り込み中にポケットベルが鳴り、呼び出されたため、

玄関のドアノブの真上に石粒を置いて、その場を離れた。

それから官舎に戻り帰宅した大信田と話をして、

老婆殺しの犯人は大信田の表情から相崎の推理が当っていることを確信する。

そして大信田が玄関のドアを開けると、大信田の妻が殺されていた。

ドアノブに石粒があったことから、相崎が密室を作ってしまったが。

 

ネタバレありの感想

面白いんだけど、ミステリーとしては想像はできてしまったかな。

ポケットベルが鳴らされた件とドアノブに石粒を考えたら、

そんなに候補になる人間はいないので。

ただ倉石がスズムシから犯人を特定できたのは私にはよく分からなかった。

あと、甲斐智子の洞察力が凄すぎる。

 

・鉢植えの女

あらすじ

主婦の小寺裕子が出会い系サイトで知り合った一回りも年下の男に夢中になり、

青酸カリで無理心中をする。

警察庁への出向の話を持ち掛けられていた一ノ瀬は現場に臨場し、

この事件を「倉石学校」の卒業試験と思い現場に臨むが。

 

ネタバレありの感想

佐々木奈美が上田昌嗣を地下書庫に監禁する、

これ自体ちょっとどうかとは思うけれど、まあ良しとしましょう。

しかし、高嶋は殺しに見せかけた偽装自殺で、須藤明代を陥れようとしたと見た。

上田が残したメッセージから倉石は真相に辿り着くけど、

倉石以外には到底たどり着けそうもないよなと。

「時来たり須」でジキ(ギ)タリスだからな。

(偽装)自殺をするかどうかは置いといて、

三色ボールペンと本があるならもうちょっと違う方法論があるような気がするかな。

佐々木が全ての本をチェックするのもリアリティないから。

 

・餞

あらすじ

退官を間近に控えた小松崎周一のもとに十三年前から毎年届く、

差出人不明で、「霧山郡」とだけ記された年賀状と暑中見舞いの葉書。

その葉書が去年途絶えたことにより、差出人は死んだのだろうと考える。

差出人が変死した可能性を考えた小松崎は倉石に相談してみる。

 

ネタバレありの感想

これは非常に好きな話。

倉石が事故の理由を色々説明するわけだけど、

ラストの

「自慢の息子とやらを持った母親が自殺したケースは過去に一件もねえ」

が全てかな。

 

・声

あらすじ

三沢検事のもとに、実務修習生の斎田梨緒が自殺したと報せが入る。

現場には夥しい数のファックス用紙が散らばっていて、「死ね」と書かれていた。

三沢にはとても自殺には思えなかったが。

 

ネタバレありの感想

悲しい話なんだけど、三沢と浮嶋がどうにも理解できないのがな。

あと斎田梨緒も理解できる部分と理解できない部分があるので、

どうも評価は低くなる。

ただ梨緒はあまりにも哀しい人生だし、最後で、あまり救いはないかな。

人間の生々しい感情が描かれた話かな。

 

・真夜中の調書

あらすじ

東部団地の「教諭殺し」で深見忠明を逮捕するも、

弁護士の入れ知恵で深見は黙秘する。

しかし、DNA鑑定の結果を聞くなり、犯行を自供する。

事件は解決したかに見えたが科捜研に倉石からDNAをちゃんとやれと電話が入る。

 

ネタバレありの感想

親と子の話で、

B型とO型の親からはA型は生まれない、けど一部例外があるという話。

夫婦であるとか親子とか色々考えさせられるし、

血液型の話も興味深いんだけど、

ラストが若干モヤモヤしたのが残念かな。

 

・黒星

あらすじ

婦警の小坂留美のもとにかつての同僚の町井春枝から電話がかかってくる。

「じゃあまたね。きっと会おうね」と言われて、電話は切れた。

翌日、留美は春枝の遺体の前にいた。

現場にいた刑事や鑑識たちは自殺と判断するが、倉石だけは「殺し」だと言うが。

 

ネタバレありの感想

倉石がなぜ殺しと判断したのか?

春枝は一時期部下だったので、そのため?と思ったけれど、

一応は口紅という根拠があったのがハッキリする。

もっとも口紅の送り主が国広輝久だと判明した時点で倉石は自殺だとしてるので、

殺しだとは思ってなかったのだろう。

「鉢植えの女」で倉石が言ってた

「たったの一度の人生だったってことだ。~

検視で拾えるものは根こそぎ拾ってやれ」を実践したというところかな。

最後の半分寝たきりの話で、

老人臭がないことから自殺と視たのがサラッと書いてあるけど、

これだけでも素晴らしい。

 

・十七年蝉

あらすじ

永嶋武文は季節外れの辞令で刑事部捜査第一課調査官心得に異動した。

仕事に忙殺される中、高校生の射殺事件が発生する。

倉石は十七年蝉に関心を示すが。

 

ネタバレありの感想

永嶋が十七年蝉と思わせておいてからの、

実際には朱美の父親が犯人だったというオチ。

朱美が十七年蝉の話を知っていたり、なぜ永嶋が調査官心得に抜擢されたか?などが

最後に明らかになる。

でも、それよりも倉石が永嶋を救ったので読後感はとにかく素晴らしい。

 

登場人物

・倉石義男:L県警刑事部捜査第一課調査官。『就寝検査官』の異名を持つ。

      「赤い名刺」では五十二歳。

・一ノ瀬和之:L県警刑事部捜査第一課調査官心得。

       「赤い名刺」と「鉢植えの女」に登場。

・福園盛人:剣崎中央署刑事課捜査係長。「赤い名刺」と「十七年蝉」に登場。

      倉石から福饅頭と呼ばれている。

・高嶋:L県警刑事部捜査第一課長。

   「鉢植えの女」と「眼前の密室」と「餞」と「十七年蝉」に登場。

 

「赤い名刺」に登場

・相沢ゆかり:首つり死体として発見された。コンパニオン。

・谷田部克典:医者。剣崎中央署の警察医。

 

「眼前の密室」に登場

・相崎靖之:県民新聞の記者。

・甲斐智子:甲斐キャップの妻。

・大信田:L県警本部捜査第一課強行犯第四係長。警部。

・大信田加奈子:大信田の妻。

・花園愛:中央タイムスの新人記者。

・高嶋:捜査第一課長。

・赤石:県民新聞のデスク。

・赤石麻美:赤石デスクの妻。

 

「鉢植えの女」に登場

・小寺裕子:ディスカウントショップパート事務員。四十五歳。

・筒井道也:アサヒ電気L工場製品管理係長。三十三歳。

・上田昌嗣:郷土史家。五十八歳。

・須藤明代:上田がやっていた「自分史教室」に通っていた生徒。四十二歳。

・佐々木奈美:上田がやっていた「自分史教室」に通っていた生徒。四十三歳。

 

「餞」に登場

・小松崎周一:L県警刑事部長。

 

「声」に登場

・斎田梨緒:司法試験に合格し、L地検で実務研修中。

・三沢勇治:検事。

・浮島:検察事務官

・見供政之:カウンセラー。

 

「真夜中の調書」に登場

・佐倉鎮夫:中央署刑事一課の刑事。

・美鈴:スナック「猫」のママ。

・比良沢富男:事件の被害者。高校教諭。二十九歳。

・深見忠明:逮捕され、比良沢富男殺しを自供する。元ホテルマン。

・北沢:科捜研の技官。

・岡嶋:L県警本部機動鑑識班の副班長

・西田:L医大の教授。

・繭子:クラブ「マダム」のホステス。

 

「黒星」に登場

・小坂留美:婦警。

・落合春枝:旧姓は町井。小坂留美と同期だった。

・十条かおり:ホテルから飛び降り自殺した。演歌歌手。

 

「十七年蝉」に登場

・永嶋武文:刑事部捜査第一課調査官心得。巡査部長。三十三歳。

早瀬あや子:L銀行の行員。永嶋に好意を寄せている。三十五歳。

・朱美:故人。永嶋の高校生時代の恋人。高校時代に自殺した。

・大崎勝也:事件の被害者。L工業高校の三年生。

・立原真澄:捜査一課刑事指導官。倉石と同期の五十四歳。

 

総評

人呼んで『終身検視官』倉石義男の活躍を描いている。

読む前は監察医と勘違いしてたのでちょっと想像してたのは違ったけれど、

かなり面白かった。

自殺か他殺か判定する役割なので、当然だけど論理的に話が展開していく。

一方で、それだけに留まらず、人間ドラマも描かれていて、

これが素晴らしいので感動する。

そして、物語の視点は倉石以外で進んでいくんだけど、

倉石の魅力はたっぷり感じることができる。

私は「餞」と「黒星」がお気に入りかな。