本記事では横山秀夫さんの小説『顔 FACE』を紹介します。
本作はD県警シリーズになります。
顔 FACE〈新装版〉
著者:横山秀夫
出版社:徳間書店
ページ数:376ページ
読了日:2023年4月4日
横山秀夫さんの『顔 FACE』。
『影の季節』の「黒い線」に登場した婦警・平野瑞穂が主人公の連作短編集。
「黒い線」の事件から一年後が舞台になります。
・プロローグ
・魔女狩り
あらすじ
鑑識課の機動鑑識班の一員だった平野瑞穂。
一年前のある事件によって無断欠勤、失踪騒ぎ。
そして、半年間の休職・・・復職して、秘書課の広報広聴係に配属された。
総選挙をめぐる大掛かりな現金買収事件が起き、中央紙の一つJ新聞が特ダネを連発。
マスコミ対策を担う広報室でも、
刑事部に先んじてネタ元を突き止めようと動くが。
主な登場人物
・平野瑞穂:D県警秘書課広報公聴係。二十三歳。
以前は鑑識課機動鑑識班で似顔絵を作成する準専門職。
・舟木:広報官。
・南:係長。
・音部:主任。
・大城冬美:R新聞の記者。
・風間:J新聞の記者。キャップ。
・浅川久美子:J新聞の二年生記者。
・七尾友子:本部警務課婦警担当係長。
ネタバレありの感想
この話に限ったわけじゃないけれど結構重い話。
男性社会の中での女性だったり、組織の中の個人だったりが描かれている。
また警察と新聞や沖縄の基地問題など色んな要素が詰め込まれている。
ミステリー要素はその男性社会が鍵になっているのも特徴かな。
プロローグはこの話のラストに関連してくるけど、非常に良い。
・決別の春
あらすじ
E署管内で三十三件の連続放火事件が発生。
一方、瑞穂は捜査一課犯罪被害者支援対策室『なんでも相談テレホン』の
電話相談員に配置転換される。
新聞に「テレホン相談新設」の記事が載った当日、
早くも相談の電話がかかってきて、瑞穂が相談を受けるが。
主な登場人物
・平野瑞穂:D県警秘書課。
『犯罪被害者支援対策室』の電話相談員の応援をすることに。
・田中千恵子:瑞穂の同期。D県警を突如辞職した。
・香山なつき:瑞穂の同期。『犯罪被害者支援対策室』の室員。
・田丸三郎:『犯罪被害者支援対策室』室長代理。警部。四十五歳。
・中嶋しおり:「なんでも相談テレホン」にかけてきた女性。二十歳。
ネタバレありの感想
これまた重い話だけれど、ラストは希望を感じる部分もある。
「なんでも相談テレホン」に電話をかけてきたしおりと瑞穂が話のメインにいて、
ここに警察を辞めた田中千恵子と一癖ある香山なつきが絡んでくる。
とにかく伏線であったり、話のまとめ方であったり秀逸である。
・疑惑のデッサン
あらすじ
瑞穂は自分が一番やりたい仕事は似顔絵で事件を解決に導くことだと思い、
いつか鑑識に戻りたい、そのためにも再びデッサン教室に通うようになる。
そんな時にN駅の高架下で殺人事件が発生する。
鑑識課で似顔絵描きを担当している瑞穂の後輩の
三浦真奈美がこの事件の犯人の似顔絵を描くが、
この似顔絵があまりにも上手いことに違和感をもつが。
主な登場人物
・平野瑞穂:『犯罪被害者支援対策室』の電話相談員。二十四歳。
・三浦真奈美:鑑識課で似顔絵描きを担当している。
・湯浅:鑑識課次席。
ネタバレありの感想
短編としての出来は凄いの一言なんだけれど、とにかく終始重く暗い。
伏線であるとか、真相であるとかは文句のつけようがない。
『がろう』の『古井戸を覗き込む女』の話は救いかな。
・共犯者
あらすじ
銀行強盗の防犯訓練のために立ち会う瑞穂。
防犯訓練が始まり、かすみ銀行増淵支店に警察官が集まる。
無線からはかすみ銀行北川支店で強盗事件発生の声が。
主な登場人物
・平野瑞穂:D県警捜査第一課『犯罪被害者支援対策室』。
・林純子:寮で瑞穂と同室。
・海老沢:監察課。
・森島光男:運転免許課課長。以前瑞穂に似顔絵改ざんを命じた。
ネタバレありの感想
話としては好きなんだけれど、事件の真相が悲しすぎる。
感想で重いしか書いてないけれど、これは重すぎる。
実際訓練で失禁したらちょっと耐えれないよな。
・心の銃口
あらすじ
強行班捜査係に配転された瑞穂。
桃瀬川交番の婦警・南田安奈が襲われ拳銃が奪われる事件が発生する。
犯行現場に立った瑞穂はある発見をするが。
主な登場人物
・平野瑞穂:D県警本部捜査一課強行犯捜査係。
・南田安奈:桃瀬川交番勤務。D県警拳銃射撃競技大会の女子の部の優勝者。
・殿木勲:強行犯捜査第四係長。
・蓑田:強行犯捜査第四係。部長刑事。
・板垣泰造:G署の部長刑事。
・弓村:鑑識課長。
ネタバレありの感想
これは中編かな。
瑞穂が活躍するし、特に前半の板垣との話が良かった。
自殺した男の似顔絵を描いたり男の職業を当てたり、
途中の安奈と瑞穂で犯人の似顔絵を描くとこは良い。
ラストは完全に予想外。
蓑田の行動には読んでて違和感はあったんだけれど、予想できなかった。
エピローグで瑞穂が鑑識に戻れるのと板垣との関係も含めてラストは非常に良かった。
・エピローグ
総評
全体を通した感想を言うと面白いけれど、
基本的には暗く重いのでそこに引っ張られる部分がある。
横山さんの短編は濃密だし、伏線であったり物語的にも楽しめる。
私は主人公の平野瑞穂ってキャラも好きなんですけれど、
好きだからこそもうちょっと明るい話があっても良かったかなと。
あと広報、犯罪被害者の相談員、強行犯と活躍する部署も変わり、
瑞穂の特技の似顔絵を描くこともあるので、そこらへんは良かった。
重く暗いけれど、エピローグのおかげで読後感は決して悪くない。