本記事では横山秀夫さんの小説『深追い』を紹介します。
深追い
著者:横山秀夫
出版社:新潮社
ページ数:377ページ
読了日:2023年5月22日
横山秀夫さんの『深追い』。
七編収録の短編集。
また表題作の「深追い」は過去にドラマ化されている。
・深追い
あらすじ
秋葉健治は当直で処理した交通事故の現場でポケットベルを拾った。
そのポケベルに妻から死んだ夫へのメッセージが送信され続ける。
その妻の明子とは秋葉が以前付き合っていた女性だった。
夫の通夜に赴くもポケベルを返せなかった秋葉は明子への思いから、
明子の家に通うようになるが、
盗み見た手帳に「K」と記されているのを発見して・・・。
主な登場人物
・秋葉健治:交通課の事故係主任。巡査部長。三十二歳。
・高田明子:交通事故で無くなった高田正勝の妻。秋葉の昔の彼女。
・高田鮎子:明子の娘。
ネタバレありの感想
表題作。
冒頭のポケットベルのところを見過ごしていたので、
オチを読んだ時は最初理解できなかったけど、
読み直してなるほどと理解できた。
手帳の「K」って秋葉健治の「K」だと思ったけど、警察の「K」ということ。
ポケベルってところにかなりの時代を感じるけど、話自体は面白い。
明子もだけど、鮎子が最後に助かったのは良かった。
・又聞き
あらすじ
鑑識係の三枝達哉は七月二十八日になると小西家を訪れる。
小西和彦は十五年前に海でおぼれかけた三枝を助けようとして亡くなっている。
三枝は和彦の母親の里子から和彦のアルバムを見せられるが、
事故が起こる直前に撮られたスナップ写真を見て違和感を覚える。
主な登場人物
・三枝達哉:刑事課の鑑識係。巡査。二十二歳。
・小西里子:亡くなった和彦の母親。
・湯川咲子:和彦の幼馴染み。三十六歳。
ネタバレありの感想
主人公の三枝が警察官になる前の事故の話。
十五年経って真相に辿り着く理由が鑑識係の仕事が関係している。
三枝は事故の真相を知って余計背負った荷の重さを感じるんだけれど、
正面から向き合ったことによって清々しいラストになっている。
・引き継ぎ
あらすじ
窃盗犯罪の検挙件数を競う『既届盗犯等検挙推進月間』に
野々村一樹という泥棒を狙う尾花久雄。
二係の有坂から「宵空きの岩政」を駅前で見たという情報を知らされる。
その直後岩政と同じ手口の空き巣事件が発生するが。
主な登場人物
・尾花久雄:盗犯一係の主任。三十四歳。
・野々村一樹:前科三犯の泥棒。二十八歳。
・岩田政雄:空き巣。異名は「宵空きの岩政」。
ネタバレありの感想
泥棒刑事の尾花・荻野コンビと有坂・松村コンビの争いは警察小説らしい。
タイトルの「引き継ぎ」は尾花親子であり、
岩田・野々村にもかかっている。
主人公の尾花は有坂に負けるわけだがラストは決して悪くない。
・訳あり
あらすじ
警務係長の滝沢は近く定年退官する巡査長の再就職探しに苦戦していた。
そんな時に同期の出世頭の殿池明から相談事を持ちかけられる。
上司の娘と本部の捜査二課長をくっつけようとするが、
捜査二課長が女性のマンションに入り浸っていると言われて・・・。
主な登場人物
・滝沢郁夫:刑務係長。
・大里富士男:「みつがね警備保障」勤務。
・森下雅典:県警本部捜査二課長。
・殿池明:県警本部捜査二課の次席。
ネタバレありの感想
途中までは結構重い話かと思いきや、
最後の最後にスッキリする話。
滝沢がとにかくかっこよすぎるし、大沢もかっこいいし、
鈴木も報われるのが非常に良い。
・締め出し
あらすじ
生活安全課少年係の三田村厚志は夏祭り恒例の「カラー抗争」を回避した
後始末に追われていた。
「イエローギャング」のメンバーを取り調べていた時に
強盗殺人事件発生の報告が入る。
その時興奮したバンダナが人の名を口走ったのを三田村は聞き逃さなかったが。
主な登場人物
・三田村厚志:生活安全課少年係。巡査。二十五歳。
・芳賀恒子:交通課の婦警。三十五歳。
・斎木稔:バーテン。三田村の中学時代の同級生。
ネタバレありの感想
中学二年生の時のことを引きずっている三田村。
聞き込みから犯人を特定していって、
最後に対峙するのはその過去に因縁があった斎木。
私的にはもう少し先まで書いて欲しかったと思う終わり方。
・仕返し
あらすじ
三ツ鐘警察署次長の的場彰一は息子の慶太がいじめにあっていたこともあり、
私立の中高一貫校に入学させようとしていた。
そんな時にホームレスが南公園で死んでいるのが発見された。
当初は病死で事件性は無しと判断されたが、
ホームレスの死亡直前の足取りを聞いた的場はある可能性を考える。
主な登場人物
・的場彰一:三ツ鐘警察署次長。
・的場千里:彰一の妻。三十九歳。
・的場慶太:彰一の息子。
ネタバレありの感想
この話はちょっと長めになっている。
ホームレスの死と的場彰一の子供の話が
どう収斂していくのか途中までは全く予想できなかったけれど、
慶太と浜名武司の会話からの展開は圧巻の一言。
彰一は全てを新見に報告し、慶太と向き合う直前でラストを迎える。
父親としての彰一の慶太への思いが伝わる話。
三ツ鐘署の職住一体の特徴が物語に使われている話でもある。
・人ごと
あらすじ
会計課の課長西脇大二郎は落とし物の花屋の会員証カードを
ある事情から落とし主に返すことになった。
落とし主は高級マンション『三ツ鐘タワーマンション』に住む多々良巌。
多々良が心臓が悪いことを聞いた西脇は多々良を心配して
マンションの部屋の灯を確認するようになった。
主な登場人物
・西脇大二郎:会計課課長。「草花博士」。五十二歳。
ネタバレありの感想
話としてはかなり好きなんだけれど、
警察小説に求めるものかというと何とも言えない。
多々良の三人の娘への思いは読んでいて心打たれるものがあるけれど。
総評
三ツ鐘署に勤務する七人の男たちが遭遇した七つの事件が描かれている。
基本的には殺人事件の捜査などではなく、日常的な事件を扱っている。
一番良かったのは「仕返し」で、
これは事件の真相であったり、主人公の最後の決断などとにかく印象深い。
「訳あり」も最後はとにかくスカッとする話になっていて良かった。
他の横山さんの短編集と若干落ちるかなというのが本音ではあるけれど、
それでも面白い話はあると思います。