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【伊坂幸太郎】『グラスホッパー』についての解説と感想

本記事では伊坂幸太郎さんの小説『グラスホッパー』を紹介します。

殺し屋シリーズの一作目です。

グラスホッパー

グラスホッパー

著者:伊坂幸太郎

出版社:角川出版

ページ数:345ページ

読了日:2023年5月25日

 

伊坂幸太郎さんの『グラスホッパー』。

殺し屋シリーズの第一弾。

生田斗真さん主演で映画化されていて、漫画化もされている。

なおグラスホッパーとは昆虫のバッタのことである。

 

あらすじ

元教師の鈴木は妻を殺した男である寺原に復讐するために、

寺原の父親が経営する会社フロイラインに潜入する。

鈴木は寺原の復讐に来たと疑われ、

疑いを晴らすために若い男女を殺すように指示される。

その現場を見に現れた寺原が鈴木の目の前で車に轢かれてしまった。

鈴木は寺原を押した「押し屋」を追うことになった。

相手を自殺させる専門の殺し屋の鯨は過去を清算するために、

ナイフ使いの殺し屋蝉はある事情から押し屋を探し始める。

 

登場人物

・鈴木:フロイラインの契約社員。元中学校の数学教師。

    二年前に妻がひき逃げで亡くなっていて、

    その犯人である寺原長男に復讐するためにフロイラインに入社した。

・鯨:自殺専門の殺し屋。身長百九十センチメートル、体重九十キロ。

   愛読書はドストエフスキーの『罪と罰』で、文庫本を持ち歩いている。

・蝉:ナイフ使いの殺し屋。岩西の部下。

・比与子:フロイラインの社員。鈴木と同年齢。鈴木に仕事を教えている。

・寺原長男:フロイラインの社長である寺原の長男。

      二年前に鈴木の妻を車でひき殺している。

・田中:新宿区東郊の公園にいるホームレス。元はカウンセラーをしていた。

・梶:衆議院議員。鯨に秘書の自殺を依頼した。

・岩西:殺し屋の仲介人で、蝉の上司。

・槿(あさがお):本来は「むくげ」と読む。システムエンジニア

         寺原長男の事故現場にいた人物で、

         鈴木は槿が押し屋だと疑っている。

・すみれ:槿の妻

健太郎:槿の長男。

・孝次郎:槿の次男。昆虫のシールを貼ったアルバムを持っている。

・桃:ポルノ雑誌店の店主。肥満体系の女性。

 

ネタバレなしの感想

鈴木、鯨、蝉の三者の視点で描かれている群像劇。

三者三様の理由で寺原長男を殺した押し屋を追い始めることによって

物語が展開していく。

 

鈴木は妻を寺原長男に殺されていて、

復讐のためにフロイラインに潜入している時に事件に巻き込まれていくので、

一番感情移入しやすいキャラクターだとは思う。

というか鈴木以外感情移入できる登場人物がいるのかは分からない。

鯨は初登場時から過去に自分が殺した人の幻覚を見る状態で

既に壊れかけているし、

蝉は人を殺すことをただの仕事だと思っているので。

もっとも蝉は上司の岩西との会話は洒脱で軽妙なので読んでいて面白いんですけどね。

殺し屋の話なので当然人の死がかなり描かれているし、

鯨と蝉はモロに人を殺してるんだけど、読んでいてそこまでの不快感は無かった。

もっとも寺原長男とかフロイライン関係はまた別でかなりの不快感はあったかな。

 

殺し屋という独特な世界観であるけれど、

物語自体はかなりテンポよくスピーディに展開していくので、

読みやすい方だと思う。

 

 

ネタバレありの感想

グラスホッパー』に限った話ではないけれど、

伊坂さんの小説は登場人物たちの会話が面白くて、それは今作でもよかった。

特に蝉と岩西は良いコンビだったのと鈴木と槿一家の会話は非常に良かった。

 

あとは相変わらずの伏線の張り方で、

最初に登場した男女がスズメバチであるとか孝次郎が喋る住所であるとかうまかった。

 

そして問題はこれからで、

最後に鯨が車に轢かれて死ぬわけだけど、

これが押し屋に押されたのか?それとも鯨自身が幻覚に呑み込まれたのか

気になったのでちょっとネットで検索したら、まさかの事実に驚いてしまった。

それは鈴木が幻覚を見ていたというオチ。

(鯨が押されたのかどうかはよくわからなかった)

 

幻覚説の根拠になる、

私は田中の言葉や最後の列車が長いっていうのは全く気にも留めなかったな。

幻覚説とは違うのかもしれないけど

鈴木がやたら亡き妻と会話してるのが気にはなっていたけど、

確かに幻覚を見ていたということなら納得できるなと思ってしまった。

 

かといってこれが鈴木の幻覚だったとして作品の評価が

大きく変わるかというと変わらない気もするんだよな。

全てが幻覚だったというのはちょっと理解できないかな。

鯨のパートで鯨と比与子たちは孝次郎に電話で教えられた

東京都文京区の住所に行ってるので孝次郎たちが幻覚だっとは思えないかな。

 

部分的な幻覚だと、田中の話を信じるなら列車は目覚めの合図なので、

最後に鈴木は幻覚から目覚めていくことになるので、

特に終わり方としては変わらないのかなと。

どこが幻覚でどこが幻覚じゃないかというのは全く分からないけれど。

 

鈴木の幻覚説については私は気づきもしなかったので何とも言えないですけど、

気にしなくても楽しめるんじゃないかなと思います。