【奥田英朗】『イン・ザ・プール』についての解説と感想

本記事では奥田英朗さんの『イン・ザ・プール』を紹介します。

精神科医伊良部シリーズの一作目である。

イン・ザ・プール

イン・ザ・プール

著者:奥田英朗

出版社:文藝春秋

ページ数:279ページ

読了日:2023年5月27日

 

奥田英朗さんの『イン・ザ・プール』。

精神科医伊良部シリーズの第一弾である。

松尾スズキさん主演で映画化されている。

空中ブランコ』のタイトルでアニメ化もされている。

 

イン・ザ・プール

あらすじ

身体の不調を訴え連日伊良部総合病院に通い詰める大森和雄は

内科の若い医師に神経科に行くことを提案される。

地下の神経科の診察室へ足を踏み入れると、

四十代前半と思われる太った医師・伊良部一郎と

茶髪の若い看護師マユミが待っていて伊良部に不定愁訴と診断される。

伊良部に運動をすすめられた和雄は水泳をはじめることにするが。

 

ネタバレありの感想

伊良部シリーズの最初の話。

プール依存症になってしまった男性の話。

これは最初からプール依存症なのではなく、

伊良部に運動を勧められて水泳を始めた結果プール依存症になってしまう。

最初から伊良部のキャラクターは強烈である。

 

・勃ちっ放し

あらすじ

一日中性器が勃ったままだった哲也は伊良部総合病院の泌尿器科を受診し、

陰茎剛直症と診断される。

眠れないことや食欲がないことを医師に相談すると神経科をすすめられる。

神経科の伊良部に外的ショックを与えられても治らなかった哲也は

しばらく通院することになる。

哲也は陰茎強直症の原因が自分が感情を爆発させないからだと確信するが。

 

ネタバレありの感想

ちょっと気になって調べたら持続勃起症ってのは本当にあるらしい。

元妻の佐代子相手には感情を爆発させないで、

見世物にした医者や医学生相手に爆発させるから哲也に感情移入できるんだろう。

 

・コンパニオン

あらすじ

コンパニオンの安川広美は常に誰かの視線を感じるようになった。

怖くなった広美は同じ事務所のコンパニオン仲間の厚子と警察に相談するも、

信じてもらえなかった。

厚子に神経科をすすめられた博美は伊良部総合病院の神経科を訪れる。

広美の話を信じた伊良部の助言に従ってストーカーを幻滅させようとするが。

 

ネタバレありの感想

これは伊良部のちょっと良い面が描かれている。

広美の被害妄想を見抜いて否定せず肯定するところから治療してるところ。

もっともそれ以外はいつもの伊良部であるんだけど。

 

・フレンズ

あらすじ

高校二年生の津田雄太は携帯中毒になり、左手に痙攣の症状が出はじめた。

親に伊良部総合病院の神経科の予約を入れられた雄太は伊良部のもとを訪れる。

通院することになるが、症状はさらに悪化していって。

 

ネタバレありの感想

若い頃を思い出すと雄太の気持ちはよく理解できる。

もっとも雄太みたいに振る舞うこともそれはそれで難しいと思うけれど。

途中までは私は伊良部よりだなと思って読んでいたけれど、

限定版の模型を小学生に譲らないところを見て、

伊良部はやっぱり普通ではないなと。

マユミが良いキャラをしている。

 

・いてもたっても

あらすじ

ルポライターの岩本義雄はたばこの火の始末が気になりだし、

仕事に穴を開けてしまい、自分の異常さに恐れを覚えた。

義雄は医学書を調べて、強迫神経症だと診断を下して伊良部のもとを訪れる。

伊良部から現実的な対処法を教えられるが、症状はさらに悪化していって。

 

ネタバレありの感想

強迫神経症ではないと思うけれど心配症なので、

義雄の気持ちが分かると思いながら読んでいた。

強迫神経症が結果的には良い方向に転んだというオチ。

 

登場人物

・伊良部一郎:伊良部総合病院神経科の医師。三十五歳。注射フェチ。

       黄緑色のポルシェに乗っている。

・マユミ:伊良部総合病院神経科の看護師。露出好き。

 

・大森和雄:「イン・ザ・プール」の主人公。

      出版社勤務。主婦向け月刊誌の編集をしている。三十八歳。

      伊良部に運動をすすめられてプール依存症になってしまう。

・大森尚美:「イン・ザ・プール」に登場。和雄の妻。イラストレーター。

 

・田口哲也:「勃ちっ放し」の主人公。商事会社勤務。主任。三年前に離婚している。

      陰茎強直症と診断されて、神経科に回される。

 

・安川広美:「コンパニオン」の主人公。イベント・コンパニオン。二十四歳。

      毎日誰かの視線を感じるようになって眠れなくなり、   

      親友にすすめられ神経科に行くことになった。

・厚子:「コンパニオン」に登場。安川広美の親友。

 

・津田雄太:「フレンズ」の主人公。高校二年生。

      ファーストフード店でバイトをしている。

      携帯依存症になり左手に震えの症状が出はじめたため、

      親のすすめで神経科を受診することになった。

 

岩村義雄:「いてもたっても」の主人公。ルポライター。三十三歳。

      自分で強迫神経症と診断を下して、

      伊良部総合病院の神経科を受診することになった。

 

総評

たぶん単行本発売当時に読んでいるけれど、久しぶりに読んでも十分面白かった。

時事ネタみたいなのは無いので今読んでも安心。

「コンパニオン」に『トゥモロー』と『ビューティフル』という番組が出てくるけど、

特に元ネタ知らなくても問題はないだろう。

 

基本的には同じような構成で話が進んでいく。

唯一違うのは「イン・ザ・プール」で伊良部に不定愁訴と診断され、

運動をすすめられて水泳を始めた結果、

主人公の大森和雄はプール依存症になってしまう。

他は何かしらの症状があってから伊良部のもとを訪れるという形。

症状そのものは陰茎剛直症みたいなものは流石になかなかないだろうけど、

それぞれの主人公の悩み自体は大なり小なり理解できると思う。

 

特徴は何より伊良部一郎というキャラクターだと思う。

滅茶苦茶なんだけど不思議と魅力的なキャラクター。

二十年以上前の本だけど、今読んでも十分楽しめる本になっている。