本記事では横山秀夫さんの小説『看守眼』を紹介します。
看守眼
著者:横山秀夫
出版社:新潮社
ページ数:343ページ
読了日:2023年5月30日
横山秀夫さんの『看守眼』。
六篇収録の短編小説。
・看守眼
あらすじ
教養課の山名悦子は
この一年、県警の機関紙『R警人』をベテラン上司の下で編集の手伝いをしてきた。
そのベテラン上司が定年退職前の長期休暇に入ったので、
悦子が二月号の編集作業にあたっていた。
春に退職する警察官と事務職員の回想手記を
顔写真付きで掲載するのが二月号の柱である。
F署の近藤宮男の手記が足りないので、悦子は近藤の家を訪ねるが、
近藤宮男は一年前の主婦失踪事件の捜査をしていて不在だという。
登場人物
・山名悦子:R県警教養課
・久保田安江:教養課主幹。
・近藤宮男:F署警務課留置管理係主任。
・近藤有紀子:近藤宮男の妻。
・山野井一馬:自称宝石商。
ネタバレありの感想
表題作。
留置管理係の近藤ならではの視点で「九谷殺害計画」の真相を解き明かすのは面白い。
「九谷殺害計画」自体はできすぎだとは思うし、
山野井とエミ子が再会してないのは若干モヤモヤした部分は残るけれども、
一連の出来事を通じて悦子も前向きな感じのラストで読後感は良い。
・自伝
あらすじ
フリーライターの只野正幸は
ライター仲間の磯部と野口と自伝執筆の手伝いをする『T・I・N』を立ち上げている。
兵藤電機会長の兵藤興三郎から自伝執筆の依頼が正幸にくる。
兵藤の「面接」を受けに正幸は兵藤の自宅を訪ねるが、
そこで兵藤は驚くべきことを喋りはじめる。
登場人物
・只野正幸:フリーライター。
・磯部:只野のライター仲間。
・野口奈緒美:只野のライター仲間。
・兵藤興三郎:家電量販店の兵藤電機の会長。
・村岡:兵藤の秘書。
ネタバレありの感想
自伝執筆を請け負ったライターの話。
只野や兵藤のキャラクターも相まってかなり重苦しい雰囲気の話。
いきなりの兵藤の殺人事件の告白に驚いたのと、
さらには兵藤が只野を試験してたというのは完全に予想外だった。
最初は読後感悪いと思ったけれども、
只野の性格込みで考えると実はそうでもないのかなと考え直した。
実際ラストでは「ただのふこう」から「ただの正幸」になっているわけで。
・口癖
あらすじ
家裁調停委員の関根ゆき江は離婚調停を担当することになった。
離婚調停に菊田好美という女性がやって来て、
ゆき江は菊田親子を見た時に「あること」を思い出す。
登場人物
・関根ゆき江:家裁の家事調停委員。
・綿貫邦彦:家裁の家事調停員。元中学校校長。
・菊田好美:旧姓は時沢。二十九歳。
・奈津子:ゆき江の次女。現在は歯科医と結婚している。
ネタバレありの感想
家裁調停委員を務める女性の話。
これは当然ゆき江に感情移入して読み進めたので、
真相を知った時の衝撃は結構大きい。
あとタイトルの「口癖」でゆき江と奈津子の親子関係が分かるというのが秀逸である。
・午前五時の侵入者
あらすじ
情報管理課の立原義之は県警のホームページをチェックすると、
ホームページが改ざんされていた。
真っ黒い画面には赤い横文字でフランス語が綴られていたが。
登場人物
・立原義之:S県警警務部情報管理課の課長補佐。
・柳瀬:S県警警務部長。
・安井:SS県警警務部情報管理課の課長。
・衛藤久志:英語教師。
ネタバレありの感想
県警ホームページを管理する警察官の話。
これは読んでてオチが分かったのと、時代設定で多少古い感じは否めなくなっている。
HPを見た人に口外しないようにって口止めしていたけれど、
どの程度効果あるんだろうかと疑問でしかない。
・静かな家
あらすじ
県民新報整理部の高梨透は
昨日終わった写真展を今日までやっていると新聞に載せてしまった。
高梨は上に知られずに内々で事を済ませられないか考えるが。
登場人物
・高梨透:県民新報整理部。三十九歳。
・手塚理絵:県民新報整理部。二十四歳。
・須貝清志:自称フォトグラファー。四十三歳。
ネタバレありの感想
地方紙整理部に身を置く元記者の話。
須貝が殺されたことを知った後だと電話の件に関してはすぐ分かるかな。
ミステリー要素も含めて綺麗にまとまっている。
高梨透のできれば内々に済ませたいというのはよく分かるだけに、
読んでて色々しんどい部分もある。
・秘書課の男
あらすじ
倉内忠信は四年前に知事公室秘書課長に抜擢された。
知事仕えてきて信頼されていると思っていたら、
突如として知事に拒絶されてしまう。
倉内は知事に嫌われた原因を考えるが。
登場人物
・倉内忠信:N県知事公室秘書課参事兼課長。
・四方田春夫:N県知事。
・桂木俊一:秘書課政策調査担当兼広報公聴係。ボストン大卒。
・蓮根佐和子:嘱託秘書。
ネタバレありの感想
県知事の秘書の話。
投書の件に関して蓮根の存在自体が完全に頭に無かったので結構な驚きがあった。
向井嘉文の倉内への話は非常に良かったな。
完全な人情物で最後に相応しかった。
総評
よく言えばバラエティに富んでいるし、悪く言えば寄せ集め感がある一冊。
横山さんの小説には重苦しい話は多くあるけれど、
『自伝』と『口癖』は主人公のキャラクターも含めると結構異色作かもしれない。
私は二つともかなり好き。
また表題作の『看守眼』と『秘書課の男』は読後感も良いので安心して読める。