本記事では東野圭吾さんの小説『天使の耳』を紹介します。
天使の耳
著者:東野圭吾
出版社:講談社
ページ数:284ページ
読了日:2023年12月6日
東野圭吾さんの『天使の耳』。
実業之日本社より刊行された『交通警察の夜』を改題した作品。
交通事故がもたらす人々の運命の急転を活写した六篇収録の連作短編小説。
2023年に映像化されている。
・天使の耳
あらすじ
深夜の交差点で車同士の衝突事故が発生した。
一方の運転手は青信号だと主張し、もう一方の運転手は死亡してしまう。
死んだドライバーの妹が同乗していたが、少女は目が不自由だった。
その少女は青信号だったと自信たっぷりに答えるが。
主な登場人物
・陣内瞬介:交通課の警察官。
・金沢:交通課の警察官。主任。
・友野和雄:事故に遭った運転手。フリー・アルバイター。
・畑山瑠美子:友野の友達。女子大生。
・御厨健三:事故に遭った運転手。事故により死亡。
・御厨奈穂:御厨健三の妹。高校二年生。盲目。
・御厨友紀:御厨奈穂の妹。中学三年生。
ネタバレありの感想
表題作。
以前本書は読んだことがあるんだけれど、
「天使の耳」に関してはかなり印象深い話なので、オチも含めて覚えていた。
友野和雄がちょっと嫌な人間に描かれているのもあるし、
御厨奈穂が目が見えない障害者ということで、
偏見というか思い込みもあって善人と思い込んでしまう。
それが最後の最後に畑山瑠美子の証言によりひっくり返るのは衝撃的。
事故の後の電話や友紀のデジタル・ウォッチとしっかり伏線も張られている。
短編として「天使の耳」というタイトルも含めて完成度はかなり高い。
・分離帯
あらすじ
午後十一時過ぎ、トラックが分離帯を越えて、
バランスを崩して横転してしまうという事故が発生した。
トラックの後ろを走っていた運転手は、
事故直後に路上駐車していた黒い車が発進するのを目撃していた。
主な登場人物
・世良一之:交通課の警察官。
・福沢:交通課の警察官。巡査部長。主任。
・向井恒夫:ライナー運送のトラック運転手。
・菅沼彩子:向井恒夫の妻。世良の高校時代の同級生。
・石井:黒のアウディの運転手。
ネタバレありの感想
とにかく後味が悪いの一言。
石井は道路を横切ったり、アウディの停め方にしろ自己中心的すぎるし、
その結果の向井恒夫が死んだことを考えると後味が悪すぎる。
法律で裁けないので、最後に彩子が選んだ手段も含めて後味が悪い。
変な話だけど、今となっては東野さんがこれを書いていたという新鮮さはあるかな
・危険な若葉
あらすじ
男は若葉マークをつけた車を煽り、その結果事故が起こってしまった。
男は車を降りて相手の車に駆け寄ると、運転手は女性で生きているようで、
彼の顔を見て何か言ったようであった。
主な登場人物
・三上:交通課事故処理班の警察官。
・篠田:交通課事故処理班の警察官。主任。巡査部長。
・斎藤:刑事課の警察官。
・福原映子:事故を起こした女性。リハビリテーションセンターの指導員。
・福原真智子:福原映子の妹。看護婦。
・森本恒夫:大学三年生。テニススクールでコーチのアルバイトをしている。
ネタバレありの感想
1990年の作品で、この時代に煽り運転を題材にしているのを見ると、
東野さんの慧眼には脱帽する。
煽り運転の被害者が加害者に対して復讐をするんだけど、
その復讐が幼児殺害事件の冤罪ということで、これはこれで後味は悪い。
映子が言うように森本のやったことは殺人未遂だとは思うし、
いずれ釈放はされるんだろうけど、モヤモヤはするかな。
あとは最後まで読むと「危険な若葉」というタイトルの意味も分かる。
・通りゃんせ
あらすじ
佐原は雪の日に路上駐車をしていたが、その車に傷をつけられてしまった。
後日、ある男から電話があり、車の修理代を全額払うと言われる。
さらには別荘に招待されるが。
主な登場人物
・佐原雄二:路上駐車をしていた男性。
・尚美:佐原雄二の恋人。
・前村敏樹:前村製作所の技術部長。
ネタバレありの感想
駐車禁止の場所に路上駐車した男性が主人公で、
その駐車により子供が亡くなり、妻も入院した夫から復讐される話。
復讐といっても最後には前村に助けられるし、
佐原雄二は前村に謝罪するわけだけど、子供が戻ってくるわけでもないから、
どうしたって読後感は悪い。
物語的には雄二たちが別荘に招待されて、
前村が不幸なことを話をし始めるところなんかは非常にうまい。
・捨てないで
あらすじ
婚約者の真智子の左目にあたり失明してしまう。
深沢伸一は白のボルボを探そうとする。
主な登場人物
・深沢伸一:カメラマン。
・田村真智子:深沢伸一の婚約者。ヘアデザイナー。
・斎藤和久:白のボルボの運転手。
・斎藤昌枝:斎藤和久の妻。
・春美:斎藤和久の不倫相手。
ネタバレありの感想
空き缶をポイ捨てした男が、その後、殺人を犯してアリバイを作るも、
そのポイ捨てした空き缶が原因で逮捕されるという話。
因果応報だし、斎藤和久が逮捕されるのは良いんだけど、
読んでいてモヤモヤするのは前の話と変わらないかな。
最後に深沢伸一と真智子が良い関係性であるのは救いではあるけど。
・鏡の中で
あらすじ
深夜の交差点で乗用車とバイクの事故が発生した。
右折しようとした車が反対車線に入り、停止中のバイクと衝突するという事故だった。
現場の状況も、運転手の証言も不自然で、
事故を調査するうちに、ある事実が判明するが。
主な登場人物
・織田:交通課の警察官。
・靖子:織田の結婚相手。
・古川:交通課の警察官。主任。
・中野文貴:東西化学陸上部コーチ。
・高倉:東西化学陸上部監督。
・三上耕治:フリーライター。
・田代由利子:東西化学陸上部のマラソン選手。
ネタバレありの感想
ミステリーらしいといえばミステリーらしい話。
ただ以前読んだことがあるから覚えていたのか、
それとも単純に分かりやすいからか、
運転手が別人なんだろうなってのは想像がついてしまった。
バイクの運転手の萩原昭一はヘルメットをしていなかったとはいえ、
死亡しているのを考えると、いまいちオチにも納得はできないかな。
総評
『交通警察の夜』の単行本が出版されたのは1992年なので、
東野さんの作品の中では初期の方に分類されそうな本。
表題作の「天使の耳」に関してはとにかく読んで欲しいと思うけれど、
他に関しては正直つまらないわけではないけれど、手放しではお薦めしにくい。
今の東野さんの作風と比較すると余計にそう感じてしまう。
駐車違反の場所に路上駐車や車からの空き缶のポイ捨てなど、
些細な事から大きな事故に結びついてるというリアルさや身近でもありそうな感じが、
読んでいてモヤモヤする原因かな。
あとはとにかく読後感も悪いのが多いのも特徴だけど、
これはこれで東野さんの作品では珍しいという意味では貴重か。