本記事では横山秀夫さんの小説『真相』を紹介します。
真相
著者:横山秀夫
出版社:双葉社
ページ数:341ページ
読了日:2023年12月10日
横山秀夫さんの『真相』。
五篇収録の短編集。
・真相
あらすじ
十年前に息子を殺された篠田佳男は、警察からの電話で犯人が逮捕されたことを知る。
逮捕された男は、篠田の息子が書店で万引きしたところを目撃したと供述するが。
主な登場人物
・篠田佳男:篠田税務会計事務所の経営者。
・篠田美津江:篠田佳男の妻。
・篠田佳彦:故人。篠田佳男の息子。
・森美香:篠田佳男の娘。
・森勇太:森美香の夫。篠田佳彦とは小学校時代から同級生。
・鈴木信行:事件の犯人。電気工。三十歳。
・稲森:五堂警察署の署長。
・今井:県友タイムスの記者。
ネタバレありの感想
十年前に息子を殺された父親が主人公の事件被害者の家族の話。
息子がただの被害者ではなく、万引きをしてたり、
脅した犯人に捨て台詞を吐いたりと父親の篠田佳男にはきつい現実が突きつけられる。
さらには娘婿の森勇太が事件から逃走してただけではなく、
それを美香は十年前から知っていて、
さらには美香は兄の佳彦のことを嫌っていたといたと。
ただすべてを受け入れる美津江が素晴らしいのと、
美津江の言葉に佳彦だけではなく読者も救われることは間違いない。
私はかなり印象に残った。
・18番ホール
あらすじ
N県庁の職員の樫村浩介は旧友の津川良治に誘われて、
高畠村の村長選に立候補することに決めた。
村の長老達に村議の大半に支持されて圧勝するはずだったが、
第三の候補の登場によって、状況が一変する。
浩介にはこの選挙に絶対勝たなくてはならない理由があった。
主な登場人物
・樫村浩介:高畠村村長選挙に出馬する男性。N県庁の財政課員。
・樫村由紀子:樫村浩介の妻。
・津川良治:樫村浩介とは小中学校の同級生。津川建設の専務。
・片桐宗雄:N県の財政課長。七年前に総務省(当時は自治省)から出向してきた。
・樫村保夫:樫村浩介の従兄弟。分家の次男。三十四歳。
・酒井久恵:樫村浩介の四つ下の女性。
ネタバレありの感想
樫村浩介は十四年前に交通事故により酒井久恵を死なせてしまい、埋めていた。
そして、埋めた場所が開発計画の場所になっていることからも、
選挙に必ず当選しなければならなかったという話。
樫村は県庁の職を辞してるのもあって、かなり追い込まれているわけだけど、
この焦りっぷりがうまく描かれている。
冷静に考えれば津川たちがわざわざ選挙を通じて樫村を追い込むとは思えないけど、
樫村には冷静さを失う状況なので、読んでいて違和感はないかな。
そしてラストはまさかの保夫を轢いてしまう。
読後感は最悪だけど、私は結構好き。
・不眠
あらすじ
リストラされた山室隆哉は睡眠障害の治験のアルバイトをした結果、
不眠になってしまった。
ある日、眠れずに散歩していると同じ団地に住む小土井が乗った
ワインレッドのビガーを見かける。
直後に山室は消防車のサイレンの音を耳にする。
主な登場人物
・山室隆哉:無職。以前はP自動車販売に勤務していた。四十五歳。
・山室法子:山室隆哉の妻。弁当屋のパートをしている。
・月田良一:Q製薬の広報課長。山室隆哉の大学時代のゼミの友人。
・小土井忠亮:山室隆哉と同じ団地の住人。
・相澤笑子:事件の被害者。ソープ嬢。
・榊:刑事。
ネタバレありの感想
主人公の山室隆哉はリストラされた男性で、
事件の加害者として逮捕される小土井忠亮も同じ境遇の男性。
小土井がそのまま犯人であっても、救いはないだろうけど、
実際には小土井の息子が犯人で息子の身代わりとして
小土井が罪を認めたということで、
家族からも「不必要な人間」として扱われていることが読んでいて、
より哀しくなってくる。
一応ラストは山室隆哉がリストラに屈しないという意思を見せるので、
悪くはないと言えるけど、やっぱり後味は悪い方が強く残るかな。
・花輪の海
あらすじ
城田輝正は再就職のための面接で
「これまで一番嬉しかったことは何ですか」と質問をされて、
友人が死んだ時を思い出していた。
それは十二年前のS大空手部の夏合宿で相馬悟が死んだ時のことだった。
後日、S大空手部の同期の石倉から電話があり、
相馬悟の母親がサトルの死んだ時のことを詳しく知りたいと言っていたと聞かされて。
主な登場人物
・城田輝正:叔父の桃作りの手伝いをしている。以前は農協に勤めていた。
S大空手部十二期生。
・石倉:綽名はイシヤン。S大空手部十二期生。
・相馬悟:故人。綽名はサトル。S大空手部十二期生。
・安岡:綽名はデコ。S大空手部十二期生。現在はホテルマン。
・久本豊:綽名はユタカ。S大空手部十二期生。現在は墓石のセールスマン。
・高節:綽名はコブシ。S大空手部十二期生。
・戸所:一期生統制長。
・三河:二期生統制副長。
・詫間:統制長。
ネタバレありの感想
十二年前に亡くなった友人の事故の真相であり、
事実を友人の親にも言わなかったことを後悔している話。
友人を守れなかった罪であり、合宿中止を喜んだ罪、
この棘を抜こうとするまではよくある話かなと思うけれど、
友人たちを騙して集めようとした結果、
もう一人の友人の高節まで自殺してしまうという後味は最悪の展開。
ただ、残された四人で相馬の実家に行くというラストは前向きにはなっている。
・他人の家
あらすじ
パチンコ店で働く貝原英治は、
大家から一週間以内にアパートから出ていって欲しいと一方的に言い渡された。
大家に会いに行った貝原は大家から
「あんたのやったことはインターネットに載っている」と言われてしまう。
主な登場人物
・貝原英治:パチンコ店の店員。
・貝原映子:貝原英治の妻。パチンコ店の店員。
・秋田公男:貝原英治と映子中学時代の恩師。
・坂本:大家。
・佐藤:朝、散歩をしている老人。
・広神:貝原英治の幼なじみ。
ネタバレありの感想
貝原英治はインターネットによって前科がバレてしまうが、
事情を知った佐藤老人から養子縁組の話を持ち掛けられる。
ここまでなら救いのある話と思わせておいて、
一緒に強盗をやった広神が出所して貝原たちの前に現れ、殺してしまう。
そして広神の死体を縁の下に埋めようと地面を掘ると、
佐藤の妻の頭蓋骨が見つかるというオチ。
ラストは映子に向けて手を伸ばすところで終わるけれど、
仮に映子が握ってくれたところで、それほど救いはないよなと。
総評
本作は警察小説が多い横山秀夫さんの中ではかなり珍しい部類に入りそうで、
主人公は被害者の家族、後ろめたい秘密を持つ者、前科者といった人たち。
横山秀夫さんの本だと『動機』に収録されていた「逆転の夏」が面白かった方なら、
楽しめるかなと思う。
反面、「逆転の夏」が合わなかった方にはお勧めはできない。
警察小説も良いけれど、横山さんの筆致は本作のようなものにこそ合うのかなと思う。
私のお気に入りは「18番ホール」かな。
良くないところを挙げるなら全体的に暗い話が多いので、
精神的に落ち込んでる時には読まない方が良いかなと思う。