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【佐々木譲】『廃墟に乞う』についての解説と感想

本記事では佐々木譲さんの小説『廃墟に乞う』を紹介します。

廃墟に乞う

廃墟に乞う

著者:佐々木譲

出版社:文藝春秋

ページ数:366ページ

読了日:2023年11月29日

 

佐々木譲さんの『廃墟に乞う』。

直木賞受賞作。

 

・オージー好みの村

あらすじ

任務がもとで心身を耗弱し休職した北海道警察の刑事・仙道孝司。

仙道のもとに、ある事件で知り合った中村聡美から、

倶知安町の貸し別荘で女性の絞殺死体が発見された事件で、

発見者の貸し別荘のオーナーのアーサー・リチャーズに

殺人容疑がかけられているので、真犯人を探してほしいという依頼が来る。

 

ネタバレありの感想

北海道を舞台にしながら「オージー好みの村」というタイトルで、

ニセコにオーストラリア人が多く来るようになったことが物語の背景にある。

2007年発表の作品だけど、今の日本だと結構色んな所で起きてそうなのもあって、

読んでいて感じ入るものがある。

最後の仙道孝司の中村聡美への感情はやはり失恋に近いのかな。

 

・廃墟に乞う

あらすじ

温泉療養中の仙道のもとに、

かつて札幌中央署刑事一課で上司だった山岸克夫から電話がかかってくる。

千葉の船橋でデリヘル嬢が殺された事件があり、

その犯人は十三年前に仙道たちが逮捕した古川幸男じゃないかということだった。

仙道は古川の生まれ故郷を訪れるが。

 

ネタバレありの感想

表題作。

妹をダム湖に落として殺そうとしたり、身体を売っていた母親。

古川幸男は、その母親と同じように身体を売っている女性を繰り返し手にかけている。

古川の子供時代の話を読むと、感情移入してしまうのもあって、

古川が仙道に会いたがったのもだし、その場所がダムだからな。

仙道を信じていたのなら、最後はあまりにも哀しいかな。

 

・兄の想い

あらすじ

漁協幹部の竹内勝治と若い漁師の石丸幸一がもみ合い、

殴り合いから石丸が竹内を刃物で刺し殺す事件が起こった。

石丸の義兄・山野から何か助けになってもらえないかと言われて仙道は漁港を訪れる。

 

ネタバレありの感想

兄妹の情だったり地方の閉鎖性の話。

冒頭のある傾向の犯罪者を連想したってのが伏線になっているけど、

全く予想できなかった。

最後に仙道は事件の真相を知った後に刑事の磯田忠雄に話をせずに、

石丸の母親からってのはスマートな方法ってのが妙に印象に残った。

 

・消えた娘

あらすじ

仙道は死んだ婦女暴行犯の部屋から娘のハンドバッグは見つかったが、

遺体もない以上は殺人事件として警察は捜査もできないので、

娘を探してほしいと宮内から依頼を受ける。

仙道は連続婦女暴行犯の高田峰矢について調べることになるが。

 

ネタバレありの感想

行方不明になった娘と父親の物語であり、

犯人の高田峰矢の挫折と恩師の若宮への屈折した感情の物語。

面白いんだけど、

長編で被害者・加害者ともにもっと書いたのも読んでみたかったかな。

 

・博労沢の殺人

あらすじ

競走馬生産牧場オーナーの大畠岳志が自宅寝室で殺された。

仙道は十七年前の殺人事件で大畠岳志を参考人として聴取していた。

仙道は事件現場を訪れることになる。

 

ネタバレありの感想

事件の被害者と加害者ともに親子の縁が関わってくる。

事件の真相は十七年前の殺人事件の被害者・長沼輝明の息子の

原田明夫が犯人なわけだけど、この原田に生い立ちについて喋ったのは

今回の事件の被害者の次男の大畠真二。

これももうちょっと長めの分量で読みたかったかな。

 

・復帰する朝

あらすじ

三年前に捜査員として担当した事件で知り合った中村由美子から

妹を助けてくれないかと仙道に電話がかかってくる。

仙道は帯広に向かい、帯広署の秋野浩平警部補から情報を得ようとする。

秋野は仙道が休職と転地療養を命じられるきっかけとなった事件で、

ペアを組んだ警察官だった。

 

ネタバレありの感想

これは姉妹の話なんだけど、気づくのはかなり後になってからで、

真相を知るとかなりゾッとする話。

妹のことで仙道に助けを求めるから、優しい妹想いの姉と思いきや、

かなり複雑な姉妹関係になっている。

しかも中村由美子の最後の台詞がその複雑さを余計際立たせている。

もっとも仙道視点だと一応前向きな終わりになっているのでラストに相応しいのだが。

あとは仙道が休職するきっかけになった事件も描かれているけれど、

これは精神性外傷を負うだろうなという事件だった。

 

登場人物

・仙道孝司:北海道警察本部刑事部捜査一課の刑事で、現在は休職中。警部補。

 

オージー好みの村の登場人物

中村聡美:ワインバー・スノークイーンの経営者。

・アーサー・リチャーズ:旅行代理店経営者でレストランと酒場のオーナー。

・吉野久美:事件の被害者。飲食店勤務。

・守口啓介:倶知安署の刑事。警部補。仙道より四期年長。

・氏家:ひらふ不動産商会の経営者。

 

廃墟に乞うの登場人物

・山岸克夫:かつて札幌中央署刑事一課で仙道の上司だった。警部。

・田向恭子:故人。十三年前の札幌の娼婦殺害事件の被害者。

・古川幸男:十三年前の札幌の娼婦殺害事件の犯人。

・古川美幸:故人。古川幸男の妹。

・酒井:地元新聞の函館支局長。

 

兄の想いの登場人物

・山野敏也:水産廃棄物の処理場の経営者。

・石丸幸一:漁師。

・石丸母親:石丸幸一の母親。

・石丸春美:石丸幸一の上の妹。加工場の事務員。

・石丸由紀:石丸幸一の下の妹。地元の信用金庫勤務。

・江頭泰治:漁師。高校、漁業研修所で石丸幸一と同期だった。

・竹内勝治:事件の被害者。漁師。漁協幹部。共同体の代表。

・町田:漁師。共同体の代表。

・遠藤昇一:角安組四代目。

山本博之:角安組。

・磯田忠雄:所轄の刑事。

 

消えた娘に登場

・宮内由美:行方不明になっている女性。風俗店勤務。

・宮内父親:宮内由美の父親。

・田辺浩:白石署刑事課の刑事。巡査部長。

・高田峰矢:故人。連続婦女暴行犯。

・桜井:不動産管理会社勤務。

米原:喫茶店経営者。

・若宮:音楽プロデューサー。

 

博労沢の殺人の登場人物

・大畠岳志:事件の被害者。競走馬生産牧場のオーナー。六十一歳。

・大畠幸也:大畠岳志の長男。大畠開発興業の専務。

・大畠真二:大畠岳志の次男。札幌にある大畠岳志が持つ会社の支社長。

・長沼輝明:故人。十七年前の殺人事件の被害者。長沼建設の経営者。

・佐久間良治:所轄の刑事・生活安全課の刑事。警部補。

・吉川:所轄の地域課の巡査。

・管野:大畠牧場の管理人。

原田明夫:大畠牧場の従業員。

・吾妻:札幌の新聞社の記者。

 

復帰する朝

・中村由美子:かつて仙道が担当した事件に協力した女性。

・中村春香:中村由美子の妹。エステティック・サロンの経営者。

・秋野浩平:帯広署地域課の刑事。警部補。

      かつて仙道とペアを組んだことがある。

・北沢:帯広署の刑事。巡査部長。

・町田奈穂:事件の被害者。レストラン・オーナー。三十歳。

 

総評

休職中の刑事が主人公というかなり珍しい設定の小説。

休職中の刑事ということで警察手帳も拳銃も持っていないので、

今までの警察小説とはかなり毛色が変わっていると思う。

捜査手法としては探偵的ではあるけれど、思考は警察的という感じになっているので、

警察小説であることも間違いないかな。

休職中の刑事なので北海道の各地の犯罪に関わっていくので、

地方それぞれの風土や住民の気質も物語に反映されている。

ずば抜けて面白いとまでは言えないけれど、綺麗にまとまっている印象。