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【米澤穂信】『可燃物』についての解説と感想

本記事では米澤穂信さんの小説『可燃物』を紹介します。

可燃物

可燃物

著者:米澤穂信

出版社:文藝春秋

ページ数:280ページ(単行本)

読了日:2023年12月2日

 

米澤穂信さんの『可燃物』。

群馬県警の葛警部が主人公の警察小説で、五篇収録の連作短編集。

「ミステリが読みたい!2024年版」、「このミステリーがすごい!2024年版」、

「2023「週刊文春」ミステリベスト10」の三冠を達成した。

 

・崖の下

あらすじ

群馬県のスキー場で五人連れのスキー客のうち、

四人と連絡が取れないことが分かった。

遭難者のうち男性二人が、

スキー場のコースから約三百メートル離れた崖の下で発見された。

一人は意識不明の重体で救急搬送され、

もう一人は頸動脈を刺されたことによる失血死であった。

状況的に犯人は救急搬送された男性だと

捜査に当たる群馬県警本部の刑事部捜査第一課の葛警部は考えたが、

凶器が見当たらなかった。

犯人はどうやって、殺害したのか?

 

ネタバレありの感想

これは凶器に関しては血液型もあって骨で刺したんだろうとは思ったんだけれど、

実際に刺すことができるのか?とか刺した側の水野正の状態で

何かしら分かりそうなんじゃないかと思ってしまった。

水野が言った「刺さったんです」というのも状況的に可能性低そうに思えるかな。

低体温症に陥って錯乱して服を脱いでいることを考えたら、

錯乱してる状態をわざわざ刺したってことなのか、とモヤモヤしてしまった。

 

・ねむけ

あらすじ

深夜の交差点でワゴン車と軽自動車の交通事故が発生した。

葛たちの聞き込みの結果、深夜の事故にも関わらず四件の目撃証言があった。

葛は目撃者の四人には何らかの繋がりがあるはずだと考えるが。

 

ネタバレありの感想

最後まで読んだ後にタイトルを確認したので良かったけれど、

最初からタイトル把握してたら軽いネタバレだよなと。

目撃者の四人がねむけに負けたのも分かる、

特に交通誘導員のアルバイトとコンビニのバイトの二人は

嘘をついたというのも分かるけど、

オンラインゲームをやっていた紙川と医師の岡本はそこまでする必要があったのかが

理解できなかった。

見てないとか分からないで済む話なんじゃないかと。

 

・命の恩

あらすじ

榛名山で人間の右上腕部が発見され、警察による捜査が行われ、

バラバラの遺体が次々に見つかった。

遺体にはいくつかの不審な点があった。

そして、なぜ家族連れで賑わう場所にバラバラにした遺体を捨てたのか?

 

ネタバレありの感想

自殺した野末晴義を保険金のために殺人に見せかけるというのは、

理屈としては分かるんだけど、感情面で素直にそうですねとはならないかな。

恩人を死んでるとはいえバラバラにすることへの抵抗は?、

他の選択肢は?とか考えちゃうからな。

推理小説としては確かにちゃんとしてるのは分かるんだけど。

 

・可燃物

あらすじ

ゴミ集積所にあった可燃物のゴミが、連続で放火されるという事件が発生した。

葛たちが捜査を始めると、容疑者が特定される前に犯行がピタリと止まった。

なぜ放火は止まったのか?

犯人が放火をした目的とは?

 

ネタバレありの感想

表題作。

犯人が火事の怖さを知っている人間だからこその犯罪を

描きたかったんだろうと思うけれど、私にはどうもしっくりこなかった。

リサイクルボックスに火種を投げ込まれたら危険なんだろうけど、

それって間違いなく放火なわけで、

リサイクルボックス無くてもやる奴はやるんじゃないかと。

生ゴミだから燃えにくいとか、風が弱いからと言っても、

燃え広がる可能性はあるはずだし。

 

・本物か

あらすじ

ファミリーレストランで立て籠もり事件が発生した。

店内の状況が分からない中、葛は店から逃げてきた客やスタッフから話を聞くが、

証言がどこか噛み合わない。

事件の真相とは?

 

ネタバレありの感想

人質の青戸勲が実は犯人で、

犯人と思われた志多直人は息子を人質に取られていて、

被疑者を演じさせられているというオチ。

ツッコミどころはあるけれど、話としては好きかな。

P227の浮かんでいるのは困惑と絶望のように、葛には見えた。

というのは伏線になっているのは流石。

 

登場人物

・葛:群馬県警本部刑事部捜査第一課の刑事。警部。

・小田:群馬県警本部刑事部捜査第一課強行犯捜査指導官。警視。

・新渡戸四郎:群馬県警本部刑事部捜査第一課長。

・宮下:群馬県警本部刑事部捜査第一課の刑事。

・佐藤:群馬県警本部刑事部捜査第一課の刑事。班内随一の聞き込みの名人。

・村田:群馬県警本部刑事部捜査第一課の刑事。班内二番手の聞き込み。

・榊野:群馬県警本部刑事部捜査第一課の刑事。ネット捜査が得意。

・桐乃:前橋大学医学部教授。

 

崖の下に登場

・芥見正司:ロッジ経営者。

・浜津京歌:岩槻ふれあい保育園勤務。三十四歳。

・後東陵汰:事件の被害者。実家の酒販店勤務。三十四歳。

・水野正:見沼建設勤務。三十四歳。

・下岡健介:無職。三十四歳。

・額田姫子:パチンコ店デ・ソー大宮店勤務。三十四歳。

・笹尾:利根総合病院の医師。

・首藤:検視官。

・桜井:鑑識班長

 

ねむけに登場

・田熊竜人:無職。三十一歳の時に原付を用いたひったくりで被害者に重傷を負わせ、

      懲役七年の実刑判決を受けた。

・水浦律治:スーパーマーケットほみたや勤務。二十九歳。

・蒲田輝夫:工事現場の交通誘導員。蒲田商店経営者。五十七歳。

・古賀久:コンビニ店員。二十七歳。

・岡本成忠:藤岡中央病院の医師。五十二歳。

・紙川翔祐:群馬大学の学生。

・川村:署長。

 

命の恩に登場

・野末晴義:事件の被害者。野末塗装経営者。

・野末勝:野末晴義の息子。現在は野末塗装を手伝っている。以前はITエンジニア。

・野末裕子:野末晴義の母親。老人ホームに入居中。

・宮田村昭彦:クリーニング会社ホワイトカンパニーの工場勤務。

・宮田村香苗:大学生。宮田村昭彦の娘。

 

可燃物に登場

・磯俣洋一:食品加工のトワ食品勤務。

大野原孝行:スーパーマーケットメルカード吉井昭和店の警備員。

       以前は家具販売店ヤスファニチャー勤務。

・日比谷洋祐:メルカード吉井昭和店の店長。

・幡野:消防本部の予防課火災調査係。

 

本物かに登場

・伊村:伊勢崎南署地域課長。警部。

・志多直人:メイルシュトロム伊勢崎店の客。傷害で前科一犯。

・志多春太:メイルシュトロム伊勢崎店の客。志多直人の息子。六歳。

・久島一伸:メイルシュトロム伊勢崎店の客。

・青戸勲:メイルシュトロム伊勢崎店の店長。

・代崎恵:メイルシュトロム伊勢崎店のホールスタッフ。

・倉本香里:メイルシュトロム伊勢崎店のホールスタッフ。

・安田明治:メイルシュトロム伊勢崎店のキッチンスタッフ。

・王春美:メイルシュトロム伊勢崎店のキッチンスタッフ。

・湯野有加里:メイルシュトロム伊勢崎店のホールスタッフ。

 

総評

米澤穂信さんには珍しい刑事が主役の警察小説。

ミステリー三冠ということでハードルが上がってたこともあるかもしれないけれど、

私には合わなかった。

米澤さんの本ということで、ロジックはしっかりしてると思うけれど、

私には登場人物の人間味であるとか感情や思考が理解できなかった。

なので、どうしても小説のための事件の真相という風に感じてしまった。

主人公の葛は菓子パンとカフェオレが好みみたいだけど、

これ以上のキャラクター性も無いので主人公の魅力もそれほどないかな。

辛口になったけれど、物語性を期待しなければ、楽しめるとは思うし、

警察小説だけどかなり気楽に読めるのは良い点かな。