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【佐々木譲】『警官の紋章』についての解説と感想

本記事では佐々木譲さんの小説『警官の紋章』を紹介します。

北海道警察シリーズの三作目である。

警官の紋章

警官の紋章

著者:佐々木譲

出版社:角川春樹事務所

ページ数:435ページ

読了日:2023年8月8日

 

佐々木譲さんの『警官の紋章』。

北海道警察シリーズの第三弾。

 

あらすじ

小島百合はストーカー対策室の応援として、

婦女暴行犯を撃ち犯人逮捕の手柄をあげる。

その功績が認められて、

サミット態勢のため警備部警護課に出向して、

サミット担当特命大臣の上野麻里子のSPを務めることになる。

 

佐伯宏一は愛知県警の服部から佐伯が担当した

二年前の四輪駆動車連続盗難事件と密輸事件の話を聞かされる。

この事件の関係者が関わっていた覚せい剤密輸事件がでっち上げの可能性と

幹部らの関与があったと。

佐伯は私的に捜査を開始する。

 

洞爺湖サミットの結団式が迫る中、

携帯を携行したまま失踪した日比野伸也巡査。

日比野の追跡と身柄確保を命令された津久井卓。

津久井は定年直前の内部監察のベテラン長谷川と組んで日比野を追うことになるが。

 

登場人物

・佐伯宏一:札幌大通署刑事課二係。警部補。

      「特別対応班」というチームのチーフで新宮を部下にしている。

      釧路署の地域課員だった時に旭川中央署の地域課に勤務していた津久井と   

      組んでおとり捜査をした経験がある。

津久井卓:北海道警察本部警察学校で新任の警察官たちに

      拳銃操法をコーチする教官だったが、

      洞爺湖サミット特別シフトで本部警務部教養課拳銃指導室勤務。

      巡査部長。

・新宮昌樹:札幌大通署刑事課二係。巡査。

      「特別対応班」で佐伯の部下。

・小島百合:札幌大通署生活安全課。巡査。

      ストーカー対策室の応援で婦女暴行殺人犯の鎌田光也を撃ったことが

      評価され警備部警務課に出向することになった。                         

 

・日比野伸也:北見方面本部北見警察署地域課。

・日比野一樹:故人。二年前に郡司事件の証人として呼ばれる前日に事故死。     

       日比野伸也の父親。死亡時は北海道警本部生活安全部の企画課長、

       郡司事件発覚時は薬物対策課長。

・宮木俊平:琴似署交通課。日比野一樹とは警察学校で同期だった。

・荒川雄三:大通署刑事課二係係長。

・長正寺武史:北海道警本部機動捜査隊。警部。

・奥野康夫:北海道警察本部本部長。

・磯島浩一:北海道警察本部警備部長。警視正

後藤淳平北海道警察本部警務部長。警視正

・長谷川哲夫:北海道警察本部警務一課の主任。

・勝野忠志:豊水署総務課留置係職員。巡査。日比野伸也と警察学校の同期。

・須藤:北海道警察本部銃器薬物対策課課長。

・加茂俊治:佐伯が釧路署勤務時の署長で定年後は実家の農家を手伝っている。

 

・五十嵐基:内閣情報官。前の北海道警察本部長。

・酒井勇樹:警視庁警護課。上野大臣担当。警部補。

・成田亜由美:巡査。アテネ・オリンピックの女子エアピストルの代表。

・上野麻里子:サミット担当特命大臣。

 

・服部:愛知県警刑事部捜査三課で自動車窃盗対策班の主任。警部補。

 

・久保田敦:失業者。下請け放送プロダクションに勤務していた経験がある。

・村瀬香里:デリヘル嬢。

・鎌田光也:職業不詳。村瀬香里へのストーカー行為と

      帯広で起こった婦女暴行殺人事件の犯人。

 

ネタバレなしの感想

巻末の解説によると『笑う警官』から始まる郡司事件を軸にした三部作の完結編。

なので『笑う警官』と『警察庁から来た男』は読んだ上で読むことをお薦めする。

 

今作は佐伯宏一は『笑う警官』の冒頭で描かれた密輸事件の真相を調べることになり、

津久井卓は失踪した警官の追跡を命じられる、

そして小島百合は洞爺湖サミットの結団式に出席する大臣のSPを命じられる。

これを主に結団式の三日前から描かれていて、結団式がクライマックスになっている。

 

基本的に前二作が楽しかった人なら間違いなく楽しめる一冊になっていると思う。

 

 

ネタバレありの感想

佐伯が調べることになるのは

『笑う警官』の冒頭に出てきた中古車の密輸事件の真相で、

密輸事件の前島博信は確かに『笑う警官』でも不自然な対応をしていると

佐伯視点でも語られていたので、その理由がちゃんと語られることになる。

なので、『笑う警官』当時から佐々木さんは三作目まで視野に入れてたのかなと驚く。

しかも、この密輸事件が道警本部だけではなく、

札幌地検と函館税関小樽支署が組んでのでっちあげ事件であり、

この時の覚せい剤の入手先として郡司が絡んでくるという構図。

そして、ここに今作で登場する日比野一樹も関わっていたと。

この佐伯の捜査が物語のメインになっている。

 

津久井は内部監察のベテランの長谷川哲夫と組んで、

失踪した日比野伸也を追うことになり、

日比野伸也の狙いが五十嵐基前本部長であることをつきとめる。

 

一方、小島百合は今まではデータを調べるという比較的地味な役割だったのが、

今作ではストーカー事件の被害者の護衛としてストーカーを拳銃で撃ったり、

大臣のSPまで務めて動的な活躍をすることになる。

たしか一作目の段階で剣道の有段者という記述はあったはずなので、

今作で急にキャラチェンジしたというわけでもないのかな。

もっとも若干の違和感はあるけれど。

 

序盤は若干動きの無さも感じるけれど、

クライマックスの結団式当日の盛り上がりは最高潮。

まず「カラス」が登場して、大臣の上野麻里子が襲われて、

小島が活躍するのか?と思わせて成田亜由美が「カラス」を撃つと。

そこで立て続けに日比野伸也が五十嵐を撃とうとするけど、

そこに居合わせたのは佐伯であると。

これだけの事件を起こしたので実際日比野がどういう処分になるのか、

気になるけれど、話の終わらせ方は私としては問題ないかな。

 

一作目に出てきた長正寺が出てきたのもシリーズもの良さ。

惜しむらくは新宮がいまいち活躍しないことかな、

もっとも結団式当日の新宮の登場の仕方は最高なんだけれど。

 

あと物語に直接は関係ないけれど、

321ページに出てくる保守系政治家は亡くなったあの人なんだろうけれど、

単行本は2008年発売なので、

この時点で既にアルコール依存症ってのは知ってる人は知ってたのか。