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【佐々木譲】『警察庁から来た男』についての解説と感想

本記事では佐々木譲さんの小説『警察庁から来た男』を紹介します。

北海道警察シリーズの二作目である。

警察庁から来た男

警察庁から来た男

著者:佐々木譲

出版社:角川春樹事務所

ページ数:346ページ

読了日:2023年7月27日

 

佐々木譲さんの『警察庁から来た男』。

北海道警察シリーズの第二弾。

 

あらすじ

北海道警察本部に警察庁から特別監察が入る、

監察官は警察庁のキャリアの藤川春也警視正

人身売買されたタイ人少女が交番に助けを求めたにも関わらず

暴力団に引き渡された事件と風俗店の転落死が事故として処理されている件などから

暴力団との癒着を疑った藤川は、郡司事件で「うたった」津久井卓に協力を要請する。

一方、札幌大通署の佐伯宏一は転落死した被害者の父親の

ホテルの部屋が荒らされてる事件を担当する。

これを「警告」と解釈した佐伯は部下の新宮と事件の捜査をするが・・・。

 

登場人物

・佐伯宏一:札幌大通署刑事第一課盗犯係。警部補。

      「特別対応班」というチームのチーフで新宮を部下にしている。

      釧路署の地域課員だった時に旭川中央署の地域課に勤務していた津久井と   

      組んでおとり捜査をした経験がある。

津久井卓:北海道警察本部警察学校総務係営繕担当。巡査部長。

・新宮昌樹:札幌大通署刑事第一課盗犯係。巡査。

      「特別対応班」で佐伯の部下。

・小島百合:札幌大通署生活安全課総務第二係。巡査。

 

・藤川春也:警察庁長官官房監察官室。警視正

・種田良雄:監察官室主査。

 

・奥野康夫:北海道警察本部長。

・広畑賢三:北海道警察秘書室長。

・韮崎:生活安全部長。

・杉野武司:大通警察署生活安全第一課長。警部。

・河野春彦:薄野特別捜査隊。巡査部長。

・鹿島浩三:大通署生活安全課。警部補。

・野々村大地:大通署地域課。巡査。

・山岸数馬:北海道警察学校長。警視正

 

・栗林啓一:大総開発興業福岡支店営業二課。

      『萌えっ子クラブ』の客でビルから転落死する。

      転落事故として処理される。

・栗林正晴:栗林啓一の父親。栗林電設の代表取締役

      啓一の転落死を再捜査を求めて大通署を訪れる。

 

・今泉:『萌えっ子クラブ』の店長。

・若森秀雄:『萌えっ子クラブ』の黒服。

 

・西原拓馬:メイド・カフェ『ピンクボタン』の店長。

・中野亜矢:『ピンクボタン』の店員。

 

・酒巻純子:女性人権会議ジャパン札幌事務所の理事。ナンタワンを助けようとした。

・ナンタワン・ヤーン:タイ人の少女。

           二年前の十四歳の時に日本に売られてきた人身売買の被害者。

 

・鮎川幹夫:『月刊すすきのタウンガイド』の編集長。

 

ネタバレなしの感想

前作『笑う警官』からは最低でも八か月程度は経っていて、

佐伯宏一、新宮昌樹、小島百合、そして津久井卓が引き続き登場している。

 

人身売買組織から逃亡し保護を求めたタイ人少女を逆に暴力団に引き渡したのと

薄野のキャッチバーの転落死事件などから

北海道警察本部に警察庁から特別監察に入った藤川春也とそれに協力する津久井卓。

 

転落事故と処理されたのを事件として再捜査してほしいと大通署を訪れた

栗林正晴が宿泊するホテルが荒らされた事件から転落死事件の真相を追う

佐伯宏一と新宮昌樹。

 

二つのルートから事件の真相に辿り着くという感じで、

ここに前作でも出てきた佐伯と津久井がコンビを組んだ

七年前のおとり捜査事件の真相も明らかになっている。

 

前作ではリーダーとして有志を指揮していた佐伯が

若い新宮とコンビを組んで現場で活躍している。

また前作では警察から追われていて特に活躍の場がなかった津久井

藤川のもとで活躍しているし、

小島百合も前作ほどではないけれど出番がある。

 

今作も前作同様警察内部の不正絡みの話で前作同様かそれ以上にリアリティは感じた。

前作が楽しめた方なら今作も十分楽しめるんじゃないかなと思う。

 

 

ネタバレありの感想

今作も前作に引き続きかなり面白かった。

警察の組織的不正が物語の背景にあるのは前作同様だが

風俗を管理する暴力団と警察の癒着なので構図としては理解しやすいし、

その動機もノンキャリアの退職後も絡んでくるので分かりやすい。

そして真相が判明した時のキャリアの藤川と

ノンキャリア津久井や種田、小島のリアクションの対比も面白い。

 

前作で語られていた佐伯と津久井がコンビを組んだ

人身売買組織へのおとり捜査の話の真相が今作で語られることになるのだが、

なぜばれたのか?というよりは一晩で警察官であると判断した根拠は何か?

数日という時間をかければ警官とばれる可能性はあるけれど、

一晩であればその裏には何らの形で警官が関わっていると。

要は暴力団と警察との癒着から佐伯と津久井が警官であるとばれたということ。

流石に前作の時点でここまで考えてたわけではないとは思うけれど、

前作で使ったエピソードをこうやって物語の核にするんだから凄い。

(もしかしたら前作の時点でシリーズ化の構想もあったのかもしれないけれど)

 

相変わらず伏線もしっかり張られていて、

読み直してみたら、警察学校の山岸数馬は初登場時にしっかりと説明されていて、

世話好きな人物とか彼を慕って周りに集まる年下の警察官は多いとか書かれていた。

正直一回目読んだ時はこの部分は記憶に残らなかったな。

もっとも、わざわざ津久井に裏金作りの確認をしているので

存在感は妙にあるんだけれど。

スーさんは数馬からきてるんだろうけれど、気づかなかったな。

 

野球チームの話も新宮パートで最初からしっかり書かれていたり、

藤川や津久井が鹿島浩三を調べる時に野球の話が出てきたりと、

やっぱりかなり話が巧み。

 

最後は新宮と藤川の見せ場がしっかりとあって終了と、

中野亜矢の件もあったので津久井ではなく、

やっぱり新宮がおいしいところを持っていくのは自然かな。

文句なく面白かった。