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【東野圭吾】『ある閉ざされた雪の山荘で』についての解説と感想

本記事では東野圭吾さんの小説『ある閉ざされた雪の山荘で』を紹介します。

ある閉ざされた雪の山荘で

ある閉ざされた雪の山荘で

著者:東野圭吾

出版社:講談社

ページ数:306ページ

読了日:2023年7月31日

 

東野圭吾さんの『ある閉ざされた雪の山荘で』。

2024年に映画が公開予定。

 

あらすじ

劇団『水滸』の演出家の東郷陳平が次回作の出演者は、

団体非団体員に拘らずオーディションによって決めると発表し、

そのオーディションに参加した久我和幸。

久我はオーディションに合格し、合格発表から一か月あまり経った日に

演出家の東郷陳平から手紙が届いた。

そこには乗鞍高原のペンション「四季」で特別な打ち合わせのための合宿を行うこと、

また「誰かに口外したり、欠席した場合はオーディションの合格を取り消す」と

あった。

その手紙が届いた二日後、

七人のオーディション合格者がペンション「四季」を訪れた。

しかし、ペンションのオーナーの小田伸一によると、東郷はペンションにおらず、

泊まるのは七人だけであること、小田も説明を終えたら帰宅するとのことだった。

小田が去り、ペンションのラウンジの本棚を見ると、

そこにはアガサ・クリスティの『そして誰もいなくなった』や

エラリー・クイーンの『Yの悲劇』などが置かれていた。

しばらくすると速達で手紙が届き、

「記録的な大雪により外との行き来が完全に不可能になり、電話も通じない山荘」

という条件で今後起こる事に対処していってほしいとのことだった。

さらには電話を使用したり、外の人間と接触を持ったりした時点で試験は中止され、

オーディション合格を取り消すとのことだった。

七人のメンバーは東郷から与えられた推理劇という設定で舞台稽古をすることになる。

翌朝、笹原温子が失踪していて、遊戯室には設定の第二、

笹原温子の死体についてという一枚の紙が床に落ちていた。

 

登場人物

・久我和幸:劇団『水滸』の団員。以前は劇団『堕天塾』に在籍していた。

      顔つきはハーフぽく、スタイルもいい。

・元村由梨江:劇団『水滸』の団員。容姿端麗だが、演技力はない。

・笠原温子:劇団『水滸』の団員。

      優等生のリーダータイプで演技は大したことないが、統率力はある。

・田所義雄:劇団『水滸』の団員。元村由梨江に気がある。

・雨宮京介:劇団『水滸』の団員。

      優等生のリーダータイプで演技は大したことないが、統率力はある。

本多雄一:劇団『水滸』の団員。芝居に関しては実力派。

・中西貴子:劇団『水滸』の団員。

      白痴的な色気だけでなく、才能も持ち合わせている。

・麻倉雅美:劇団『水滸』の元団員。スキー事故で半身不随になってしまった。

      今回のオーディションでは元村由梨江と同じくジュリエット役を演じた。

・東郷陳平:劇団『水滸』の演出家。独裁的で何もかも一人で牛耳っていたが、

      最近は才能に翳りがみられる。

・小田伸一:ペンション『四季』のオーナー。

 

ネタバレなしの感想

タイトルは『ある閉ざされた雪の山荘で』とあるが、

実際に雪が降っているわけではなく、

劇団の舞台稽古で

「記録的な大雪により外との行き来が完全に不可能になり、電話も通じない山荘」

という設定で物語は展開していく。

つまり本当のクローズドサークルではなく、

あくまで仮想のクローズドサークルではあるけれど、

外部と連絡をとるとオーディション合格の取り消しになるので、

この設定がかなりの効果を発揮することになる。

そして、こういう形でクローズドサークルをあっさり成立させるのを見ると、

やはり東野圭吾さんは凄いなと。

 

ネタバレなしでどこまで書いていいのか難しいけれど、

裏表紙の説明にもあるので書くけれど、

途中からこれは本当に芝居なのか?という疑惑が生まれてからは

一気に読んでしまった。

30年以上前の本だけれど、今でも十分楽しめる本になっている。

 

ネタバレありの感想

『仮面山荘殺人事件』のネタバレも含みます。

 

71ページの卓球台のところで遊戯室の隣の部屋に隠れるスペースは

あるのは分かったので、

最初の犠牲者である笹原温子か東郷陳平でも隠れているのかと思った。

それが、まさかの半身不随の麻倉雅美が車椅子に乗って、

遊戯室の隣のスペースにいたと。

つまり、地の文というのか三人称視点が麻倉雅美視点になっていて、

叙述ものだったと。

 

何もよりも驚いたのは三重構造になっていること。

何もかも芝居という状況の中で実際に殺人事件が起こるのが二重構造で、

当然二重構造だと思って読んでいたので物凄く驚いた。

けれど、一方で実際には死んでないのかってガッカリ感も少なからずあったかな。

『仮面山荘殺人事件』も実際には人は死んでなくても満足感というか、

最後のところでの怒涛の展開が見事だったけれど、

それと比較するとこちらは若干落ちるかなと。

 

元村由梨江の事件で花瓶に血がついているのを見つかったところからの

久我たちのやりとりはかなり緊迫感があって良いし、

ここから物語は本格的に盛り上がることになる。

反面それ以前はちょっと盛り上がりに欠けるかな、

主人公の久我のキャラクターも最初はとにかく嫌な面が出ている。

途中からは完全に探偵役になるのでいいのだけれど。