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【米澤穂信】『Iの悲劇』についての解説と感想

本記事では米澤穂信さんの小説『Iの悲劇』を紹介します。

Iの悲劇

Iの悲劇

著者:米澤穂信

出版社:文藝春秋

ページ数:416ページ

読了日:2023年8月4日

 

米澤穂信さんの『Iの悲劇』。

連作短編集。

 

・序章 Iの悲劇

 

・第一章 軽い雨

あらすじ

南はかま市の蓑石、

山あいの小さな集落だった蓑石は六年前に無人になってしまった。

この蓑石を再生するために南はかま市Iターン推進プロジェクト・甦り課が発足された。

甦り課のメンバーは課長の西野秀嗣、新人の観山游香、そして万願寺邦和の三人。

二世帯が先行する形で蓑石に転居することになった。

久野家と阿久津家。

久野がある日甦り課を訪れ、阿久津家とのトラブルを訴えてきたので、

万願寺と西野は現地に向かう。

 

ネタバレありの感想

騒音トラブルなのであまり地方色みたいなものはない。

途中までは騒音トラブルの被害者である久野に同情して読んでいたけれど、

ヘリを飛び回らせるから子供が怖がって外に出ないという話を聞いて、

一気にどうでもよくなってしまった。

ミステリーとしてはラジコンヘリと籾殻とBBQは分かりやすいかな。

 

・第二章 浅い池

あらすじ

予定されていた移住者の転居がすべて完了し、開村式も無事成功。

蓑石で水田養鯉をはじめた牧野が鯉が泥棒に盗まれたと甦り課に言ってきて、

出張中の万願寺は翌日の夕方に牧野のもとを訪れることを約束するが。

 

ネタバレありの感想

養鯉が盗まれた話。

謎というほどの謎でもなくいい意味でくだらない話かな。

 

・第三章 重い本

あらすじ

立石秋江から息子の速人が帰ってこないと電話で告げられた甦り課。

万願寺と観山は蓑石に向かい、秋江に会うと速人は久保寺宅に向かったというが。

 

ネタバレありの感想

行方不明になった速人を探す話。

以前村の住人に白眼視されていた人物の話も絡んできて話としてはしっかりして

はいるけれど謎解きとしてはかなり弱いかな。

 

・第四章 黒い網

あらすじ

蓑石で秋祭りが実施され、

移住者との交流を深めるために万願寺と観山も参加することに。

野外で食事をしていたところ、河崎由美子が倒れてしまう。

 

ネタバレありの感想

どうやって毒キノコを食べさせたのかというミステリーらしい話。

ただバーベキューでわざわざ大皿に盛ってから、

それぞれが取り皿に取るってあんまり見ないよな。

私はここで観山の「コゲ」発言でやっと違和感を持ったな。

 

・第五章 深い沼

あらすじ

蓑石の現状を飯子市長に説明することに。

 

ネタバレありの感想

後々の伏線になる話がチラホラ出てくる。

飯子市長の様子であり、西野課長の話、そして地方の話と。

 

・第六章 白い仏

あらすじ

蓑石から円空が掘った仏像が見つかる。

円空仏を安置して祀りたいが、元の場所がわからない。

万願寺と観山はその手伝いをすることになるが。

 

ネタバレありの感想

円空仏のすりかえなんだけれど、

結局この章では開かないドアの謎は解き明かされず。

長塚も若田もどちらも癖が強すぎるかな。

 

・終章 Iの喜劇

あらすじ

移住者が全員去ってしまった蓑石、

万願寺は西野と観山と三人で蓑石を訪れる。

 

ネタバレありの感想

「白い仏」の開かないドアも含めてすべての謎が解き明かされる。

西野や観山が悪いわけではないけれど、

万願寺の立場からするとやるせない話でかなり苦いラストになっている。

だけど、わざわざ蓑石を再生させるってのが無理があるかな。

あと多少は自業自得な人たちもいたとはいえ移住者たちには結構気の毒だよな。

 

登場人物

・万願寺邦和:南はかま市役所甦り課。

・西野秀嗣:南はかま市役所甦り課の課長。

・観山遊香:南はかま市役所甦り課。市役所に入って二年目。

 

「軽い雨」に登場

・久野吉種:会社員。三十歳。

・久野朝美:久野吉種の妻。

・安久津淳吉:会社員。三十二歳。

・安久津華姫:安久津淳吉の妻。

・安久津きらり:安久津淳吉と安久津華姫の娘。四歳。

 

「浅い池」に登場

・牧野慎哉:水田養鯉に挑戦しようとしている。二十四歳。

 

「重い本」に登場

・久保寺治:歴史研究家。五十歳。

・立石善己:システムエンジニア

・立石秋江:立石善己の妻。

・立石速人:善己と秋江の息子。五歳。

 

「黒い網」に登場

・滝山正治電気屋に入社したが体を壊して退職。二十四歳。

・河崎一典:タクシー運転手。三十五歳。

・河崎由美子:河崎一典の妻。二十九歳。車の排気ガスを嫌っている。

・上谷景都:趣味はアマチュア無線

 

「白い仏」に登場

・長塚昭夫:蓑石に来る前は横浜の部品メーカーに勤務。五十四歳。

・若田一郎:二十七歳。

・若田公子:若田一郎の妻。

 

総評

読み始めて最初の頃はかなり不思議な感覚で

米澤さんなのでミステリーということは分かるんだけれど、

これは物語全体がどういう方向で進むのかが分からなかった。

ただ、第四章で、もしかしたらこれは・・・と気づいて、

あとは予想通りのオチだったかな。

終章の「Iの喜劇」で全体のネタ晴らしされるという構成になっているけれど、

正直、各篇の感想の短さでも分かるだろうけれど、

一篇一遍は話としてはかなり弱いかなというのが率直なところ。

連作短編集なのであくまで一冊の本として読むべきだろう。

 

よかったのは万願寺と観山の掛け合いで、

学生ではない二人の掛け合いは新鮮であった。

結末的にはシリーズ化はされないだろうけれど、

二人のキャラクターはまた読みたくなる部分があった。

 

謎そのものに関してはかなり軽いので、謎は期待しない方がいいかもしれない。

 

地方の実情ともいえるけれど、

日本のこれからでもあると思うのでかなり考えさせられる話になっている。