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【東野圭吾】『虚像の道化師』についての解説と感想

本記事では東野圭吾さんの小説『虚像の道化師』を紹介します。
ガリレオシリーズの七作目である。

虚像の道化師

虚像の道化師

著者:東野圭吾

出版社:文藝春秋

ページ数:475ページ

読了日:2023年12月23日

 

東野圭吾さんの『虚像の道化師』。

ガリレオシリーズの第七弾で、七篇収録の短編集になっている。

単行本『虚像の道化師 ガリレオ7』に、

単行本『禁断の魔術 ガリレオ8』に収録されていた「透視す」「曲球る」「念波る」の

三作を追加収録して『虚像の道化師』のタイトルで刊行された。

福山雅治さん主演で映像化されている。

 

第一章 幻惑す(まどわす)

あらすじ

宗教法人『クアイの会』の本部ビルから、信者の男が転落死した。

横領を問い詰められた男が自ら飛び降りたように見えたが、

教祖の連崎至光は自分が念を送って落としたと自首してきた。

対応に困った所轄の依頼で草薙は事件を担当することになり、

湯川学のもとを訪れる。

 

ネタバレありの感想

ガリレオシリーズの短編なので、

送念の正体が科学的なものが使われているのは誰でも分かるけれど、

それを東野さんも分かった上で物語性も重視しているのがうまい。

連崎の妻の佐代子や真島たちは宗教ビジネスをする一方で、

教祖の連崎至光は自分の能力を本物と思い込んでいる

なので、タイトルの幻惑す(まどわす)は読み終わった後だとまた違う意味に感じる。

そして何より最後の草薙の姉が湯川に占いのチケットを贈るのは面白い。

 

第二章 透視す(みとおす)

あらすじ

草薙に誘われて銀座のクラブ『ハープ』を訪れた湯川。

ホステスのアイは湯川が出した名刺を見ることなく、

湯川の名字を言い当てる芸を披露する。

一度はコートの内側に刺繍してある名前を推理して納得した湯川だったが、

帰り際に湯川の下の名前や職業を言い当てられたため呆然とする。

それから四か月後、アイは荒川沿いの草むらで遺体で発見された。

 

ネタバレありの感想
湯川はアイの透視のトリックは、

アイが生物クラブでモモンガの生態を観察していたので、

超小型赤外線カメラと赤外線ランプの組み合わせで透視していたと推理する。

この話はアイは継母の恵里子をお手本にしていたという

人情的な話も含めて綺麗にまとまっているので私は結構好き。

 

第三章 心聴る(きこえる)

あらすじ

『ペンマックス』の営業部長の早見達郎がマンションのベランダから飛び降りて

死亡する事件が発生した。

自殺にしては不審な点が多いため、草薙と内海は捜査にあたることになった。

捜査の結果は、不可解な点はあるが自殺という結論で捜査は終了する。

それから二か月後、風邪をひいた草薙は病院へ行き、そこで暴れまわる男と遭遇する。

草薙は男を取り押さえたが、ナイフで刺されて入院してしまう。

警察学校の同期の北原信二から

草薙を刺した男・加山幸広が幻聴に悩まされていたこと、

早見達郎と同じ会社の同じ営業部であったことを聞く。

 

ネタバレありの感想

幻聴ネタなんだけど、

最後にあるように2012年時点では脳内音声装置は

実用化されていないということもあって、何とも評価しにくい話。

私には電磁波を使って音を伝えるというのは読んでも正直全く理解できなかった。

草薙と警察学校同期の北原の視点も含めて読めば、

シリーズものとしては悪くはないかな。

 

第四章 曲球る(まがる)

あらすじ

プロ野球選手の柳沢忠正の妻・妙子がスポーツクラブの駐車場で

撲殺される事件が発生した。

捜査の結果、スポーツクラブの元警備員が逮捕され、事件は無事解決した。

しかし、妙子は殺される直前に置時計を購入しており、

その購入目的には柳沢も心当たりがなく、謎のままだった。

草薙が置時計を柳沢に返却した際に、

野球選手としての限界を感じていた柳沢は、湯川を紹介され湯川のもとを訪れる。

 

ネタバレありの感想

この話に関しては謎は添え物という感じかな、

一応車の塗装も、時計も湯川が解き明かす理屈付けはしっかりしてるとは思うけれど。

プロ野球選手の柳沢に湯川が協力をして、

精神が大きく影響していると物理学者の湯川に言わせる

ベタといえばベタなラストだけど、悪くはない話。

七篇あるうちの一篇だと考えればアリかな。

 

第五章 念波る(おくる)

あらすじ

都内に住む磯谷若菜が帰宅時に襲われ、意識不明の重体になった。

事件発覚のきっかけは若菜の双子の妹の御厨春菜が

姉からのテレパシーで男性が姉を襲ったのを知ったということだった。

草薙と内海は湯川のもとに御厨春菜を連れて行くことに。

 

ネタバレありの感想

ガリレオシリーズ初期のオカルト要素が濃厚にあって、双子のテレパシーの話。

実際には御厨春菜は過去の件もあって磯谷知宏を疑っていて、

姉との関係もあって、テレパシーを感じると嘘をついたというオチ。

警察に隠す理由はかなり弱い気がするのと、

湯川の協力がなければ話がややこしくなった可能性が高い気がするかな。

ただラストで双子のテレパシーのようなものを示唆する終わり方は好き。

 

第六章 偽装う(よそおう)

あらすじ

湯川と草薙は大学のバドミントン部の友人の結婚式に向かう途中で、

車のタイヤがパンクしてしまい、タイヤ交換をすることになった。

雨の中でタイヤ交換をすることになった湯川と草薙にある女性が傘を貸してくれた。

その女性の両親が結婚式が行われたホテル近くの別荘で殺される事件が発生した。

雨による土砂崩れで一本道が封鎖されたため、

草薙は初動捜査に協力することになった。

 

ネタバレありの感想

話そのものは結構面白いんだけれど、ガリレオシリーズである必然性はあまりなくて、

普通のミステリー小説という感じ。

刑事の草薙でも解き明かせる謎なんじゃないかというのが本音ではあるけれど、

ガリレオシリーズ初期の草薙が帰ってきたと思えば懐かしくもあるか。

これの読後感は素晴らしい。

 

第七章 演技る(えんじる)

あらすじ

劇団『青狐』主宰の駒井良介が自宅で

サバイバルナイフで殺されているのが発見された。

発見者は同劇団の神原敦子と安部由美子。

凶器が劇団の小道具であることから

 

ネタバレありの感想

この話は珍しく草薙が刑事らしい推理を見せるも、真犯人は別人というオチ。

凶器を残したメリットについては納得するも、

この前の話「偽装う」で警察は偽装工作を見抜けると湯川が言っていて、

少なくとも私には、どうしても間抜けな話にしか思えないのが難点。

最後の花火はテレビドラマ化を想定して書いてるのかなと想像してしまった。

 

登場人物

・湯川学:帝都大学物理学准教授。理工学部物理学科第十三研究室所属。

     学生時代にバドミントン部に所属していた。

・草薙俊平:警視庁捜査一課の刑事。

      帝都大社会学部出身。大学時代はバドミントン部に所属。

・内海薫:警視庁捜査一課の刑事。草薙の後輩。

・間宮:警視庁捜査一課の係長。階級は警部。草薙たちの上司。

 

第一章 幻惑すに登場

・連崎至光:宗教法人『クアイの会』の教祖。本名は石本一雄。

・佐代子:連崎至光の妻。

・真島:『クアイの会』の第一部長。

・守屋肇:『クアイの会』の第二部長。

・中上正和:事件の被害者。『クアイの会』の第五部長で経理を担当していた。

里山奈美:『週刊トライ』の記者。

・田中:『週刊トライ』のカメラマン。

・藤岡:所轄の刑事。

・百合:草薙の姉。

 

第二章 透視すに登場

・相本美香:事件の被害者。銀座のクラブ『ハープ』のホステス。源氏名はアイ。

・レイカ:銀座のクラブ『ハープ』のホステス。

・相本勝茂:相本美香の父親。青果店経営者。

・相本恵里子:相本勝茂の妻。相本美香の継母。

・藤沢智久:ペットショップ勤務。相本美香とは高校の生物クラブで一緒だった。

・沼田雅夫:印刷会社の営業部長。

・西畑卓治:印刷会社の経理部長。

 

第三章 心聴るに登場

・北原信二:所轄の刑事。草薙とは警察学校の同期。

・脇坂睦美:『ペンマックス』の営業部。

・長倉一恵:脇坂睦美の同僚。『ペンマックス』勤務。

・早見達郎:事件の被害者。『ペンマックス』の営業部長。

・加山幸広:草薙を刺した犯人。『ペンマックス』の営業部。

・村木:『ペンマックス』勤務。加山幸広の直属の上司。

・小中行秀:『ペンマックス』の営業部。

 

第四章 曲球るに登場

・柳沢忠正:『東京エンジェルス』の投手。

・柳沢妙子:事件の被害者。柳沢忠正の妻。

・宗田:柳沢忠正の個人トレーナー。

・ヤン:中華料理店の経営者。

 

第五章 念波るに登場

・磯谷若菜:事件の被害者。アンティークショップ経営者。

・御厨春菜:童話作家。磯谷若菜の妹。

・御厨籐子:磯谷若菜と御厨春菜の叔母。

      長野県にある家で春菜と二人暮らしをしている。

・磯谷知宏:磯谷若菜の夫。ストリート・スポーツ専門店『クールX』の経営者。

・山下:『クールX』のスタッフ。

・後藤剛:『バロット』の常連客。

 

第六章 偽装うに登場

・桂木多英:湯川と草薙に傘を貸してくれた女性。赤いアウディに乗っている。

・桂木武久:事件の被害者。桂木多英の父親。作詞家。ペンネームは竹脇桂。

・桂木亜紀子:事件の被害者。桂木多英の母親。

・谷内祐介:町長。湯川と草薙と大学のバドミントン部で同期。

・古賀:湯川と草薙と大学のバドミントン部で同期だった男性。

・熊倉:警察署長。

 

第七章 演技るに登場

・駒井良介:事件の被害者。劇団『青狐』主宰。テレビドラマの脚本家。

・神原敦子:『青狐』所属で役者兼脚本家。駒井良介の元恋人。

・工藤聡美:駒井良介の恋人。劇団『青狐』所属。

・安部由美子:『青狐』所属で役者兼衣装係。

・吉村理沙:『青狐』所属で夜は銀座のクラブでホステスをしている。

 

総評

『聖女の救済』と『真夏の方程式』と長編が続いたガリレオシリーズが、

三作ぶりに短編集と刊行されたのが本作の『虚像の道化師』。

今作は文庫本に関しては七篇収録で475ページとボリューム満点になっている。

ガリレオシリーズ特有のオカルトめいた話は、

「幻惑す」「透視す」「心聴る」「念波る」の四篇になっている。

「曲球る」は野球と科学、「偽装う」と「演技る」は普通のミステリーというところ。

私にとってはガリレオシリーズは短編でオカルトめいた話が好きなので、

今作はかなり楽しめた。

さすがにネタ切れ感がある話も多少あるけれど、

それでもシリーズもので湯川たちが活躍すると考えたら読む価値はある。

私のお気に入りは「幻惑す」と「透視す」。