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【伊坂幸太郎】『死神の精度』についての解説と感想

本記事では伊坂幸太郎さんの小説『死神の精度』を紹介します。

死神シリーズの一作目です。

死神の精度

死神の精度

著者:伊坂幸太郎

出版社:文藝春秋

ページ数:345ページ

読了日:2023年12月18日

 

伊坂幸太郎さんの『死神の精度』。

六篇収録の連作短編集で、死神・千葉が出会う六つの人生が描かれている。

このミステリーがすごい!2006年版」の12位、

「2005「週刊文春」ミステリベスト10」の4位。

 

・死神の精度

あらすじ

死神は調査を行い、「死」を実行するのに適しているかどうかを判断し、報告する。

一週間前に相手に接触し、二、三度話を聞き、

「可」もしくは「見送り」と書くだけで、

よほどのことがない限りは「可」の報告をすることになっている。

死神の千葉はミュージックをこよなく愛していて、仕事をする時は天候に恵まれない。

今回、千葉が調査するのは、藤木一恵という若い女性で、

あるきっかけから二人でレストランに行くことになった。

藤木一恵は毎日毎日クレームの電話ばかり受けていて、死にたいと言うが。

 

登場人物

・千葉:死神。外見はファッション雑誌の男性としても通用する二十代前半の青年。

藤木一恵:千葉の調査対象者。大手電機メーカーの本社勤務。苦情処理の部署。

      二十二歳。

・クレーマー:藤木一恵を指名してクレームしてくる男性。

 

ネタバレありの感想

表題作であり、シリーズ最初の話。

最初は千葉と藤木一恵の恋愛の話なのかと思ったけれど、

クレーマーが音楽プロデューサーということで、

全く想像できなかったのもあってかなり楽しめた。

ミュージック好きの死神の千葉らしく、最後は判断が「見送り」になるというオチ。

後の話を読むとより分かるけれど、

この話の段階で千葉のキャラクターや設定はほぼ完成されているのに驚く。

 

・死神と藤田

あらすじ

千葉が調査するのはやくざの藤田で、

藤田は弱気を助け、強気をくじく、任侠の人だったが、周りからは疎まれていた。

藤田は兄貴分を栗木というやくざに殺されたので、

栗木を殺そうとして千葉から栗木の居場所を聞き出そうとするが。

 

登場人物

・千葉:死神。外見は四十代の中年男。

・藤田:千葉の調査対象者。やくざ。四十五歳。

・阿久津:やくざ。藤田と同じ組に所属している。

・栗木:やくざ。藤田の兄貴分を殺した。

 

ネタバレありの感想

死神の調査期間中には死なないという設定が活かされていて、

ご都合主義といえばご都合主義なんだけれど、不思議とそうは感じなかった。

藤田と阿久津の関係性が良いのと、

物語の終わり方が読者の想像を掻き立てるようになっているのが素晴らしい。

 

・吹雪に死神

あらすじ

千葉は吹雪が吹き荒れるなか、調査対象の田村聡江がいる洋館を訪れる。

洋館には宿泊客がいて、「可」の報告が出ているため、何人か死ぬことになったいた。

 

登場人物

・千葉:死神。外見は姿勢の良い好青年。

・田村聡江:千葉の調査対象者。

・田村幹夫:開業医。田村聡江の夫。

・権藤:初老の男性。警察に定年まで勤めていた・

・英一:権藤の息子。旅行会社勤務。三十五歳。

・真由子:女優の卵のようなことをやっている女性。二十代後半。

・料理人:童顔の料理人。

・蒲田:医療器具の営業。三十代後半。正体は死神で千葉の同僚。

・秋田:真由子の恋人。正体は死神で千葉の同僚。

 

ネタバレありの感想

雪の中の洋館で次々に人が死んでいくというミステリーらしい話。

これまた死神の毒では死なないという設定が、

最初の犠牲者である田村幹夫の死の発端になっている。

オチを知った後に読み返すと真由子に対して英一や権頭のあたりがきついのも

納得はできるけど、初見ではなかなか分からないんじゃないかな。

 

・恋愛で死神

あらすじ

調査対象者の荻原は向かいのマンションに住む女性を気にしているようだった。

千葉が調査二日目に荻原が働いているブティックを訪れると、

荻原から古川朝美の話を聞かされる。

 

登場人物

・千葉:死神。外見は二十五歳の青年。

・荻原:千葉の調査対象者。ブティック勤務。二十三歳。

・古川朝美:映画配給会社勤務。二十一歳。

 

ネタバレありの感想

物語冒頭で千葉の調査結果が「可」であるのと荻原が死ぬことは分かっているので、

荻原と古川朝美が親しくなればなるほど、

なぜ千葉は「見送り」にしないのか?と思うことになる。

ただ、最後に荻原ががんであり、「最善じゃないけど、最悪でもない」と千葉に言って

死んだのを見ると、決して悪くはないのかなと思う。

 

・旅路を死神

あらすじ

調査対象者の森岡は母親を刺し、さらには若者を刺し殺していた。

その森岡は千葉が運転する車に乗り込んで来て、二人は北を目指すことになるが。

 

登場人物

・千葉:死神。外見は中肉中背の、ごく普通の会社員。

森岡耕介:千葉の調査対象者。渋谷で人を刺し殺して逃亡している若者。

・深津:森岡が誘拐された時に監視していた男。足が悪く松葉杖をついていた。

 

ネタバレありの感想

調査対象者の森岡耕介は殺人者で直情径行型ではあるけれど、

千葉の存在もあってか憎めないキャラクターになっている。

奥入瀬渓流で出会う老夫婦を見て千葉と森岡の会話や

最後の森岡が深津と再会するシーンは感動する。

国道沿いのラーメン屋が良い伏線になっているのも見逃せない。

解説によると、途中に出てくる塀に落書きする青年は『重力ピエロ』の春。

 

・死神対老女

あらすじ

千葉は調査対象の老女が営む美容院を訪れる。

老女は千葉の髪を切った直後に「人間じゃないでしょ」と言いだす。

 

登場人物

・千葉:死神。二十五歳の容貌をしている。

・新田:千葉の調査対象者。高台から海を見下ろせる美容院の経営者。年齢は七十代。

・少年:美容院の客。グッチという犬を飼っている。

・竹子:美容院の客。

 

ネタバレありの感想

老女は千葉を普通の人間ではなく、死の予感を漂わせていることを理解しているのが、

他の話との大きな違い。

老女は多くの人の死を経験してるけれど、悲壮感はない。

この老女の新田は「恋愛で死神」に登場した古川朝美。

孫には会えたことで満足する老女とはじめて青天を見る千葉という、

清々しいラストになっている。

 

総評

主人公は死神で当然死を扱っているわけだけれど、

それほど悲壮感や暗さはほとんどないので、安心して読むことはできる。

死神の千葉は人間を一週間にわたって観察して、

死を「可」か「見送り」とするか報告し、「可」の場合は八日目の死を見届ける、

主にこの一週間を描いている。

千葉は言葉をしっかりとは理解していないので、

「雨男」と「雪男」を同じようなものだと思っているぐらいで、

なので、どうしてもズレた会話になってそれが面白さになっている。

読む前にはミステリー要素があるとは思っていなかったのもあって、

ミステリー要素も含めてかなり楽しめた。

物語の構成の巧さも含めて素晴らしい一冊でした。