本記事では宮部みゆきさんの小説『人質カノン』を紹介します。
人質カノン
著者:宮部みゆき
出版社:文藝春秋
ページ数:317ページ
読了日:2023年6月11日
宮部みゆきさんの『人質カノン』。
七編収録の短編集。
・人質カノン
あらすじ
遠山逸子は忘年会の帰りにコンビニエンス・ストア『QアンドA』に立ち寄る。
店内には店員と眼鏡をかけた中学生と中間管理職風の男性がいた。
逸子が買い物をしていると、
フルフェイスのヘルメットをかぶった男が店内に入ってきて。
登場人物
・遠山逸子:OL。
・眼鏡君:強盗事件に居合わせた中学一年か二年生の男の子。
・中間管理職:強盗事件に居合わせた酔った男性。
ネタバレありの感想
コンビニが舞台の匿名性や人間関係の希薄さを描きたいんだろうと思うけれど、
私にはピンと来なかった。
九十五年の作品なんだけれど、たぶん九十五年に読んでもピンと来ないかな。
そもそも強盗事件の犯人を誰かに押し付けるというのが
かなり無理がある話にしか思えないからな。
・十年計画
あらすじ
人から聞いた話である。
人をひとり殺してやろうと思って運転免許を
とろうとした話をある人から聞かされて。
登場人物
・わたし:主人公。タクシーの客。
・あたし:女性のタクシー運転手。
ネタバレありの感想
タクシー運転手が元彼を殺すための計画を客に喋る話。
これ途中までは面白くなりそうと思ったけれど、そうでもなかった。
結婚した時点で計画忘れてたってそりゃそうだよなとしか思えないオチ。
・過去のない手帳
あらすじ
大学生の和也は電車の中で網棚にある雑誌をもらおうとしたら、
雑誌にはビジネス手帳がはさまれていた。
新品の手帳には「吉屋静子」という名前と住所と電話番号が書かれていた。
和也はその「吉屋静子」の名前を新聞記事のなかで見つけることになるが。
登場人物
・和也:大学生。清掃会社でアルバイトをしている。
・都子:和也の妹。高校三年生。
・吉谷静子:和也が拾った手帳に書かれていた女性。
ネタバレありの感想
電車で拾った新品の手帳に書かれていた人を探す話。
佐原静子として独りでしっかり人生をやり直すことができた時、
吉屋静子を好きになれるかどうか見てみるために
アドレス帳に名前を書いたっていうのが全く理解できなかった。
和也が最後前向きになるのだけが救い。
・八月の雪
あらすじ
中学生の石野充はいじめグループから逃げる時に交通事故にあって右足を失った。
充の祖父が亡くなって、
祖父の部屋の古い文箱から遺書らしきものが書かれた古い手紙が見つかる。
充はこの手紙に興味を持つが。
登場人物
・石野充:中学一年生。
・飯田浩司:故人。充のクラスメイトだった。
・石野勝一郎:充の祖父。
・柴田源次:勝一郎の知り合い。
ネタバレありの感想
亡くなった祖父の遺品から古い遺書のようなものが見つかった話。
充が祖父の若き日のことを知って前向きになるのは良いんだけれど、
充は右足を失っていて、浩司は自殺していることを考えると
どうも帳尻が合ってないように思えるのがな。
・過ぎたこと
あらすじ
瀬田が勤める調査事務所では五年ほど前に一般人向けのボディガードを行っていた。
このサービスを希望している中学三年生の男の子が事務所にやってきて。
登場人物
・瀬田:調査事務所勤務。以前は警官。
・僕:中学三年生。エスコートサービスを希望して事務所を訪れる。
ネタバレありの感想
中学生が同級生から守ってほしいと調査事務所を訪れた話。
瀬田と巡査部長の話が当たっているんだろうけれど、
具体的に何かが語られるわけではないのでどうも納得しにくい。
一応瀬田は現在の青年の状況から青年の求めていたものを
提供できたと結論付けているけれど、結構強引な感じがするかな。
・生者の特権
あらすじ
田坂明子は結婚を考えていた井口信彦から別れを告げられた。
深夜に飛び降り自殺をしようとビルやマンションを探して町をうろうろしていると、
小学校の門をよじ登ろうとしている子供を見つけて声をかける。
子どもに話を聞くと宿題を教室に隠されたので、
宿題をとりに行こうとしていたと言われて。
登場人物
・田坂明子:会社員。
・島田健太郎:小学三年生。
ネタバレありの感想
深夜に飛び降り自殺しようとしたOLが小学校に忍び込もうとした少年に出会う話。
これまた自殺であり、いじめの話である。
いじめや失恋に立ち向かえない二人が深夜の学校に忍び込んで
新しいエネルギーを得るという話。
・漏れる心
あらすじ
夫の利之が四国の松山に転勤することになったため、
東京のマンションを売ることになった照井和子。
買い手がなかなか現れないのでオープン・ルームをすることになったが、
オープン・ルーム当日に天井から漏水があって。
登場人物
・照井和子:七〇三号室の住人。
・照井利之:和子の夫。光学機器メーカーのエンジニア。
ネタバレありの感想
夫の転勤のためマンションを売ろうとしてたら上階から水漏れがあった話。
実際は上階に大学生の浅井英司は存在しなくて、
母親はいもしない息子をいると思い生き続けているということ。
主人公の和子はかなり卑屈な感じなのもあって、あまり読後感も良くはない。
総評
とにかく私には合わなかった。
大仰に言えば社会派ともいえるのかもしれないけど、
テーマの割には正直そこまで心揺さぶられるものは感じなかったかな。
そうすると暗く重く陰鬱な話が多かったという感想にしかならない。
私としてはおすすめはしにくいかな。