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【宮部みゆき】『淋しい狩人』についての解説と感想

本記事では宮部みゆきさんの小説『淋しい狩人』を紹介します。

淋しい狩人

淋しい狩人

著者:宮部みゆき

出版社:新潮社

ページ数:329ページ

読了日:2023年11月12日

 

宮部みゆきさんの『淋しい狩人』。

古書店を舞台にした六編収録の連作短編集。

表題作の「淋しい狩人」が映像化されている。

 

・六月は名ばかりの月

あらすじ

東京の下町、荒川の土手下にある古本屋田辺書店の店主のイワさんこと岩永幸吉と

それを手伝う孫の稔。

田辺書店を訪れた佐々木鞠子は、

二か月ほど前に妙な男に尾けられたところをイワさんと稔に助けられていた。

鞠子はその時の男の顔を覚えているかとイワさんに訊ねるが。

 

ネタバレありの感想

本絡みの殺人事件ということである意味正統派ミステリーとも言えるかもしれない。

正直そこまで語るほどの話ではなくて、

冒頭と途中の宗教団体の教祖が著した自叙伝の方が印象に残った。

歯が叩きつぶされていたのに無駄だってのはちょっと納得できないけど、

そういうものなんだろうか。

 

・黙って逝った

あらすじ

永山路也の父親の武男が急死した。

路也は社員寮に入り、武男は下町のアパートで独り暮らしをしていた。

路也が武男のアパートを訪れると、部屋には全く同じ本が三百二冊もあって。

 

ネタバレありの感想

かなりツッコミどころがあった。

自費出版で時代が時代とはいえ、車のナンバーをわざわざ書くのか?とか、

そもそも覚えてるのかが疑問。

あと本を置いておくだけで毎月三万円。

話そのものとしては凡庸だと思ってた父親に謎が?っていうのは、

好きだし面白かった。

 

・詫びない年月

あらすじ

荒物屋の柿崎家には幽霊が出るという噂が昨年の夏の頃から近所で囁かれていた。

その柿崎家の地下から遺骨が発見されて。

 

ネタバレありの感想

戦争ものというか空襲で亡くなった人の遺骨が発見される話。

敗戦から四十七年前の当時なら結構書かれた話かもしれないけど、

今はかなり少なくなったので、ある意味では珍しいかな。

過去の話と現在の子供の話を絡めている。

 

・うそつき喇叭

あらすじ

ある日小学二、三年生ぐらいの小さな子供が本を万引きしようとしてたのを

常連客の一人が捕まえる。

その子は『うそつき喇叭』という童話の本を万引きしようとしていた。

子供の異変を感じたイワさんは子供の背中や脇腹に痣を発見するが。

 

ネタバレありの感想

児童虐待の話。

これは誰が児童虐待をしているのか?というミステリー要素もあるけれど、

話そのものが陰惨なのでやりきれなさが上回る。

最初に疑われる母親ではなく、

実際には学校の先生というのはミステリーとしては面白いけど。

 

・歪んだ鏡

あらすじ

久永由紀子は電車の網棚の上に置き忘れられた文庫本を拾う。

その本の中から名刺を発見した由紀子は名刺の主に会おうとするが。

 

ネタバレありの感想

電車で本を拾うということで『人質カノン』の「過去のない手帳」を思い出せる話。

拾った本に名刺が挟まっていて、意を決して名刺の主に会いに行くも、

名刺が挟んであった理由は営業の宣伝方法としてやっていたというかなり現実的な話。

ただこの現実的な話から出される結論が否定的なわけではなく、

肯定的なオチになっているのもあって、私は好き。

これは九十年代よりさらに複雑になった時代の今でも十分通用するんじゃないかな。

 

・淋しい狩人

あらすじ

行方不明になった父親の蔵書を整理を頼んだ足立明子が田辺書店を再び訪れる。

父足立和郎が行方不明になった後に未完のまま自費出版された『淋しい狩人』。

この『淋しい狩人』の結末を推測して

現実世界に移して活かすことを考えたという手紙が明子のもとに届く。

明子はイワさんの朝刊を見せて実際に殺人事件があったことを告げるが・・・

 

ネタバレありの感想

表題作、失踪した作家の未完の『淋しい狩人』を現実世界で実現させる犯人の話。

書かれたのは後になるけれど、宮部みゆきさんの『模倣犯』を思い出した。

お爺さんと少年のコンビが事件に立ち向かうという構図も含めてかなり似てる。

失踪していた作家が現れて犯人を模倣犯扱いするこちらの方が、

タイトル的には『模倣犯』に相応しいんじゃないかな。

「淋しい狩人」とは関係ないけれど、

模倣犯』のラストはかなり強引だった気がする。

 

登場人物

・岩永幸吉:田辺書店の雇われ店主。四十年間材木問屋に勤めていた。通称イワさん。

・岩永稔:岩永幸吉の孫。高校生。

・樺野俊明:警視庁刑事部捜査一課の刑事。田辺書店の名目上の経営者。

      通称カバさん。

・樺野裕次郎:故人。田辺書店の元経営者。

・稔の母親:インテリアデザイナー

・稔の父親:機械メーカーの販売部長。

 

六月は名ばかりの月に登場

・佐々木鞠子:都市銀行勤務。二十四歳。

・佐々木祐介:佐々木鞠子の夫。フリーライター

・樋口美佐子:佐々木鞠子の姉。三十四歳。

・井口節子:都市銀行勤務。佐々木鞠子の同僚。

・本橋行雄:ホテルの事故調査係。

・鈴木洋次:弁当屋の店員。

 

黙って逝ったに登場

・永山路也:清涼飲料の販売会社勤務。

・永山武男:故人。永山路也の父親。

・長良義文:『旗振りおじさんの日記』の著者。

・長良義彦:長良義文の息子。

 

詫びない年月に登場

・三好淑恵:ヘルパー。

・柿崎文雄:中古車販売会社と保険の代理店の経営者。

・柿崎のご隠居:柿崎文雄の母親。八十歳。

 

うそつき喇叭に登場

・紺野信子:警察官。少年課の相談員。

石田豊:小学四年生。

・石田次郎:石田豊の父親。大手金融会社勤務。

・石田良子:石田次郎の妻。

・宮永敦史:石田豊の担任。小学校の先生。

 

歪んだ鏡

・久永由紀子:商事会社勤務。

・昭島司郎:高野工務店勤務。営業部。

・能勢しずえ:高野工務店勤務。営業部次長。

 

淋しい狩人

・安達明子:デパート勤務。

・安達和郎:十二年前から行方不明になっている。作家。『淋しい狩人』の作者。

・室田淑美:クラブのホステス。劇団の研究生。

 

総評

古書店が舞台になっていて、それぞれ本に纏わる物語になっている。

一応連作短編集だけど、話の繋がりは希薄で、稔の恋人の話が少しあるぐらい。

お爺さんと孫のコンビが主人公的ポジションになっていて、

宮部みゆきさんらしいかなと思う。

それぞれの話は内容的には児童虐待や主人公が容姿に劣等感を持っていたりと、

かなり現実的になっている。

もっとも読後感が良いので、そう感じさせないのは流石だと思う。