MENU

【宮部みゆき】『ステップファザー・ステップ』についての解説と感想

本記事では宮部みゆきさんの小説『ステップファザー・ステップ』を紹介します。

ステップファザー・ステップステップファザー・ステップ

出版社:講談社

ページ数:448ページ

読了日:2023年7月20日

 

宮部みゆきさんの『ステップファザー・ステップ』。

七篇収録の連作短編集。

2012年にTBSで連続テレビドラマ化されている。

 

ステップファザー・ステップ

あらすじ

遠縁の伯父から二億円近い遺産を受け継いだ井口雅子の家に

お金を盗みに入ろうとする「俺」。

雅子の家の上手の家の屋根からロープを渡して侵入しようとする「俺」だったが、

落雷により屋根から落ちてしまう。

双子の中学生が「俺」を助けるが、双子は両親が駆け落ちしたため、

「俺」にお父さんになって二人の面倒をみてほしいと提案し、

「俺」の指紋を採っていると言う。

体調が良くなった「俺」は双子の直と晢の協力もあり、

再び雅子の家に泥棒に入ろうとするが。

 

ネタバレありの感想

泥棒と双子の出会いの話。

井口雅子は耳が悪いってのはウォークマン

ドアの内側で何かがピカリと光ったってところで何となく分かったけど、

その後の入れ替わりまでは分からなかった。

この段階では双子に弱みを握られて脅されている泥棒という感じかな。

 

・トラベル・トラベラー

あらすじ

直と晢から春休みに倉敷に旅行に行くと手紙を受け取った「俺」だったが、

一週間ほどして双子から電報が届き、

置き引きにあったので駅前で待っているという内容だった。

「俺」は暮志木駅に双子を迎えに行き、

双子と小原美術館の『陽光の下の狂気』を見に行く。

そこで「俺」は双子の荷物を置き引きした〈画聖〉に会い、

荷物を返してもらおうと、美術館を出たところで銃声が轟く。

美術館にはまだ双子残っているのだったが。

 

ネタバレありの感想

双子が旅行した話。

冒頭の手紙を一行ずつ書いてる双子であるとか、

哲が人質にとられた時の直であるとか双子の魅力を感じられるようになっている。

双子が言うところのコピーの町にはコピーの名画がぴったりで

綺麗なオチになっているかな。

 

・ワンナイト・スタンド

あらすじ

双子から授業参観と父母会に来てほしいと言われた「俺」。

双子の「なにか」から胡散臭いものを感じ、

「脅迫」「警察」「警告」「殺人」の文字が切り抜かれた古新聞を見つけた

「俺」だったが、晢の授業参観に行くことになった。

父母会で学校への脅迫状の話を聞き、

双子が何を企んでいるのか独力で解き明かそうとする「俺」だったが。

 

ネタバレありの感想

双子の授業参観の話。

「俺」をわざわざ授業参観に呼んだり、双子の入れ替わり、

さらには伏線の使い方などかなり完成度は高い話。

もっとも、灘尾礼子に起きたことを考えると話そのものはかなり重いのだけれど。

 

ヘルター・スケルター

あらすじ

柳瀬の親父から直が盲腸で緊急入院したと聞かされた「俺」は、

すぐに病院に向かうことに。

直の手術は無事成功し、一週間ほどで元気になるとのことだった。

「俺」は翌日晢と双子の家に向かうと、

刑事から今出湖底に沈んでいた車から二体の白骨死体が見つかったと教えられる。

「俺」は男女二体の白骨死体は晢と直の両親のものではないか、と考えるが。

 

ネタバレありの感想

盲腸になった直と周章狼狽する「俺」の話。

私も白骨死体は最初双子の両親か?とは思ったけれど、

「俺」は双子と良い関係を築いていたと思ったので、「俺」の反応は予想外すぎた。

 

ロンリー・ハート

あらすじ

暮れも押しつまった十二月二十八日、柳瀬の親父から「俺」のもとに電話があった。

文通相手から脅迫された本田美智子が二百万円を脅迫男に渡した後に、

「俺」に取り返してほしいとのことだった。

依頼を受けた「俺」は夜、公園で美智子の二メートルほど後ろを歩いていると

前方から女の悲鳴が聞こえてきた。

美智子のすぐ脇に男が一人俯せに倒れていて、

美智子はその男が主人であると言うが。

 

ネタバレありの感想

夜の公園で亡くなった男性とその妻の話。

本田唯行の死の真相でミステリーを描いて、

本田美智子を通して「俺」の心境の変化と「俺」と双子の関係性を描いている。

唯行も美智子も車を運転してた男性も

 

・ハンド・クーラー

あらすじ

城が崎みやびの家に十日ほど前から、一日おきに一部ずつ、

玄関先に山形新聞の朝刊が投げ込まれるようになったという話を

双子から聞かされた「俺」。

それから数日後みやびの父親が何者かに襲われて、

瀕死の重傷を負ったという報せが飛び込んできた。

 

ネタバレありの感想

双子の友達の女の子の家に山形新聞が放り込まれる話。

「俺」と双子の話というよりも、どちらかというと純粋なミステリーの話。

かなりのこじつけで、

城が崎からしたらそんなこと分かるわけないだろとしか思えないんだよな

「分割話法」に対して「俺」がメタツッコミをしているけれど、

これぐらいのメタは面白い。

 

・ミルキー・ウェイ

あらすじ

双子の家を訪ねると、双子の父親がいたので、逃げ出してしまった「俺」。

深夜、双子の家の電話にかけてメッセージを残すが、

気になって録音確認をすると、

二人とも誘拐されていて、身代金要求のメッセージが残されていた。

 

ネタバレありの感想

双子の父親の登場と双子の誘拐事件。

まさかの父親登場で「俺」が意気消沈し、

双子の誘拐発覚から柳瀬の親父と画聖も再登場で双子を助け出す。

双子は混乱するとアイデンティティを見失うという設定は小説的にはうまいのと

柳瀬と画聖が活躍するのも良いのでラストに相応しいかな。

 

登場人物

・俺:主人公。プロの泥棒。一人称は俺。直と晢には本名を打ち明けている。

   以前は大野重工に勤務していた。直と晢にはお父さんと呼ばれている。

・宗野直(ただし):晢と双子の兄弟。右の頬にエクボが出る。文芸部。

・宗野哲(さとし):直と双子の兄弟。左の頬にエクボが出る。写真部。

          隣町の中学校に通っている。

・柳瀬:情報屋。元弁護士。「俺」は親父と呼んでいる。

・宗野正雄:直と晢の父親。秘書と駆け落ちした。

・井口雅子:三十四歳。双子の隣の家に住んでいる女性。

      「ステップファザー・ステップ」に登場。

・画聖:置き引き犯。札を描くのが趣味。

    「トラベル・トラベラー」「ミルキー・ウェイ」に登場。

・灘尾礼子:哲の通っている中学校のクラスの担任。

      「ワンナイト・スタンド」「ヘルター・スケルター

      「ハンド・クーラー」に登場。

・本田美智子:既婚者。三十五歳。文通相手から脅迫されている。

       「ロンリー・ハート」に登場。

・城が崎みやび:今出新町に三月に引っ越してきた。十二歳。

        「ハンド・クーラー」に登場。

 

総評

主人公の身にふりかかる様々な事件を描くユーモアミステリー。

1993年に単行本が発売されているのでちょうど30年前の作品。

話そのものは今でも十分面白く楽しめるけれど、

どうしても若干の古臭さは感じるかもしれない。

 

主人公である泥棒の「俺」と双子の直と哲の関係性やその変化が物語のメインかな。

最初は双子に脅迫されて仕方なくだったのが、

だんだん双子に対して情がうつっていくという感じ。

双子はキャラの違いを出すというよりは「分割話法」や手紙を一行ずつ書くなど、

双子の同質性を強調している。

エクボがどちらに出るかとか料理(家事)が得意(下手)などはあるけれど、

読んでいてどちらが直か哲かはおそらく分からないだろう。

 

人が死んだりする話もあるけれど、ミステリーとしてはライトな感じになっている。

 

テレビドラマでは双子は小学四年生という設定みたいだけれど、

本を読んでる感じだと小学四年生の方がイメージには近いかな。