MENU

【伊坂幸太郎】『フーガはユーガ』についての解説と感想

本記事では伊坂幸太郎さんの小説『フーガはユーガ』を紹介します。

フーガはユーガ

フーガはユーガ

著者:伊坂幸太郎

出版社:実業之日本社

ページ数:352ページ

読了日:2023年7月5日

 

伊坂幸太郎さんの『フーガはユーガ』。

2019年本屋大賞ノミネート作品。

双子の兄弟が織りなす、「闘いと再生」の物語。

あらすじ

双子の常盤優我と常盤風我。

兄の優我は制作プロダクションのディレクターの高杉から、

不思議な動画について教えてほしいと言われて、

ファミリーレストランで会うことになった。

その動画には優我が映っていたが、座っていたはずが、立ち上がっていて、

さらには無かったはずの絆創膏がついている不思議な動画だった。

優我は高杉に子どものころからの出来事を喋ることになった。

優我と風我の誕生日にだけ起きる不思議な現象のことを。

 

登場人物

・常盤優我:双子の兄。勉強が得意。

・常盤風我:双子の弟。運動が得意。

・父親:優我と風我の父親。優我視点では「あの男」と呼ばれることが多い。

・高杉:制作プロダクションのディレクター。

・小玉:風我の彼女。

・岩窟おばさん:リサイクルショップの店主。

・少女:優我と風我とワタボコリが中学生時代に出会った少女。

・ワタボコリ:優我と風我の小中時代の同級生。ワタボコリはあだ名。

・広尾智也:優我と風我の小中時代の同級生。

      学級内カーストにおけるバラモン的ポジション。

      ワタボコリをいじめている。

ハルタ:優我が大学生の時にバイトしてたコンビニで出会った少年。

・ハルコ:ハルタの母親。

 

ネタバレなしの感想

本の表紙に「TWINS TELEPORT TALE」とあることからも分かるように、

双子のテレポーテーションの話。

主人公である常盤優我と風我がこのテレポーテーション能力を活用して

過酷な現実に立ち向かっていく。

この現実がかなり過酷すぎるけれど、

語り手である優我のちょっととぼけた語り口調もあり、

そこまでシリアスになっていないのが救いか。

 

私の中では伊坂作品といえば登場人物たちによる

会話のやりとりの面白さがあるけれど、それは今作でも非常に面白かった。

 

描かれている内容が内容なので無条件でおすすめはしないけれど、

私は読んで良かったと思えた一冊です。

 

 

ネタバレありの感想

優我と風我への虐待やワタボコリへのいじめ、

家出した少女の轢き逃げ事件、小玉への虐待、

優我たちの父親によるハルコとハルタへの事件など

子供たちが悲惨な目に遭う事件が描かれている。

文庫本の巻末の解説によるとかなり配慮されてるそうだけれど、

読んでいても何となく察するものはあったかな。

また単行本と文庫本でも大幅な変更はされてはいないけれど、

多少の手は入っているらしい。

 

物語開始早々明らかになる、

優我と風我は誕生日限定で二時間おきに場所が入れ替わるという能力が

あるわけだけれど、最初読んだ時はあまりにも微妙すぎるとしか思わなかった。

しかし、この微妙な能力がうまく物語の中で使われているので

読み進めるうちには能力そのものの微妙さについてはあまり気にならなくなってきた。

というかあまりにも万能な能力ならそれはそれで小説としては

つまらないだろうというのもある。

 

物語の方は、

優我と風我への虐待からはじまるのもあり、とにかく重い話というのがある。

高校生になって多少状況も好転してきたと思ったら、

風我の彼女の小玉の叔父の虐待があって、

優我とハルコとハルタの話から多少明るくなるかなと思ったら、

あっさりこの期待も裏切られてしまう。

 

そして優我が過去を語り終えた後に明らかになる真相が、

高杉こそが風我がシロクマのぬいぐるみをあげた少女轢き逃げの犯人であるという。

その高杉に優我はあまりにもあっさり襲われてしまう。

ここで登場するのが優我たちの小中時代の同級生だったワタボコリ。

ワタボコリの妻のワタヤサトミが妊娠中なのを見て、

巻き込んでいてはいけないと判断した優我の優しさは素晴らしいんだけれど、

読者としては既に優我が高杉に襲われることを知っているので複雑ではある。

ワタボコリが高杉の車を追うも、

これハッピーエンドにはならないんじゃないか?と思ったら、

ワタボコリも優我同様にあっさり高杉にやられてしまうという予想通りの展開。

しかし、そのあとは想定外の外で、

「俺の弟は、俺よりも結構、元気だよ」でやられてしまった。

死んだと思っていた風我が実は生きていて、

その風我がテレポーテーションしてきて高杉をボウリングボールで倒すことで

溜飲が下がる展開。

何よりもこれを風我視点でもなく、ワタボコリ視点でもなく、

優我視点で語られるのが良い。

 

登場人物にワタヤサトルとワタヤサトミを載せなかったのは、

ネタバレまではいかないだろうけれど、一応配慮しておくということで。

 

ラストでハルタが風我と会い、会話する場面で、

もしかしたら優我がテレポーテーションしてくるのかと思ったけれど、

それは無かった。

もっともこのラストも死んだ優我が語り手であるのが泣けるし、

多少の救いがあるかな。