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【佐々木譲】『笑う警官』についての解説と感想

本記事では佐々木譲さんの小説『笑う警官』を紹介します。

北海道警察シリーズの一作目である。

笑う警官

笑う警官

著者:佐々木譲

出版社:角川春樹事務所(ハルキ文庫)

ページ数:448ページ

読了日:2023年7月1日

 

佐々木譲さんの『笑う警官』。

北海道警察を舞台に描かれるシリーズ第一弾。

単行本発売時のタイトルは『うたう警官』であったが、

文庫化にあたり『笑う警官』と改題。

このミステリーがすごい!2005年版」10位。

2009年に映画化、2013年に『北海道警察2 笑う警官』としてテレビドラマ化された。

 

あらすじ

札幌市内のアパートで女性の死体が発見される。

被害者の女性は北海道警察本部生活安全部の水村朝美巡査と判明する。

そして、容疑者は水村朝美と交際相手だった津久井卓巡査部長と断定される。

津久井は拳銃を持った危険な覚せい剤中毒者であるという発表がなされ、

射殺命令が下されるのだった。

かつて津久井とおとり捜査でコンビを組んだことがある佐伯宏一は

津久井の無実を証明するために、

有志たちと極秘裏に捜査をはじめたのだったが。

 

登場人物

・佐伯宏一:札幌大通署刑事課盗犯係。警部補。今年四十四歳になる。離婚歴あり。

      釧路署の地域課員だった時に旭川中央署の地域課に勤務していた津久井と   

      組んでおとり捜査をした経験がある。

津久井卓:北海道警察本部生活安全部銃器薬物対策課。巡査部長。

      水村朝美殺害容疑で本部内手配される。

・新宮昌樹:札幌大通署刑事課盗犯係。

・植村辰夫:札幌大通署刑事課盗犯係。巡査部長。

・小島百合:札幌大通署生活安全課総務係。三十五歳前後。離婚歴あり。

町田光芳:大通署刑事課強行犯係。警部補。

・岩井:大通署刑事課強行犯係。

・諸橋大梧:千歳署総務課。警部補。

・大森久雄:大通署交通課。

・長正寺武史:北海道警察本部機動捜査隊。警部。

 

・水村朝美:事件の被害者。北海道警察本部生活安全部防犯総務課。巡査。

笠井寛司:羽幌署焼尻駐在所勤務。                           

     「私はうたっていない」という言葉を残し自殺する。

・石岡正純:北海道警察本部生活安全部部長。警視長。

 

・安田:JAZZ&BAR BLACK BIRDのマスター。元警察官。

 

ネタバレなしの感想

殺人事件が起きて、犯人であるとか謎を解き明かす要素もあるけれど、

それよりも警察組織の不祥事と隠蔽体質に対して主人公の佐伯たちが

ある種の正義を守るために向かい合い真相を明らかにする物語というところか。

もっとも殺人事件の真相であるとか謎もしっかりして、

こちら側も十分面白くなっている。

 

作中では郡司事件という刑事の不祥事絡みの話が物語の背景にあって、

これが話の骨格をなしている。

津久井に対する射殺命令もそうだし、

佐伯たちがなぜ本部の指示に背いてでも津久井を守ろうとするのかが、

この郡司事件とその後の組織の対応に関係している。

 

郡司事件が無ければ津久井に対する射殺命令も初期の段階では

流石に無理があると思うけれど、郡司事件があるからこそ、

もしかしたら組織防衛上あり得るかもと思わせることに成功している。

郡司事件は実際に起きた不祥事をモデルにしているだけあってリアリティがある。

 

タイトルに関しては単行本刊行時の『うたう警官」の方が

私としてはしっくりくるかな。

「うたう」の意味がわかりにくいってのも分かるんだけれど、

『笑う警官』も分かるようで分からないんじゃないかと思う。

そして実際に本を読めば『うたう警官』はピッタリだし、

『笑う警官」だと分からないという感じ。

もっとも実際に本を読んでもらうことを考えると『うたう警官』だと

いまいちだというのもわかるけれど。

 

警察小説が好きならば読む価値はある一冊だと思う。

 

 

ネタバレありの感想

笠井の自殺と

佐伯たちによる前島の逮捕シーン、

冒頭から物語に引き込まれていく。

そして本作のメインストーリーである水村朝美の事件と

以前北海道警察で起きた郡司事件の説明があって、津久井射殺命令に繋がっていくと。

 

警察小説ではあっても謎解きはメインではないと思うけれど、

それでも謎はしっかりとあって、しっかりと伏線は張られていて回収されている。

 

今作では実際に活躍するのは主人公の佐伯宏一と小島百合、

それに以前は盗犯係で十五年のキャリアがある諸橋大梧ぐらいで、

他の有志のメンバーの活躍はあまり描かれていないのが物足りないかな。

シリーズものらしいのでこの後どうなるのか期待しておくけれど。

 

津久井が百条委員会に証人として出席するために津久井を守り通すこと、

そして水村朝美殺しの真犯人を探すこと。

津久井を隠すことも最初はそこまで難しくないんじゃないか?と思ったけれど、

佐伯たちのチームにどうやらコウモリが混じっている可能性が高くなり、

このコウモリが誰か?という謎も生まれる。

水村朝美殺しの事件もタイムリミットが無ければ、

そこまで捜査が難しくはないかもしれないけれど、

時間の区切りがあるために読んでいて緊迫感がある。

 

そして最後のシーンである津久井が安全な形で北海道議会ビルに入るために、

佐伯がコウモリを騙すのは物語のクライマックスに相応しいかな。

 

若干のツッコミどころとしては植村の駄洒落があまりにもつまらないことかな。

結構な回数駄洒落を言ってると思うけれど、

一回も面白いとかうまいと思うことが無かった。