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【米澤穂信】『黒牢城』についての解説と感想

本記事では米澤穂信さんの小説『黒牢城』を紹介します。

黒牢城

黒牢城

著者:米澤穂信

出版社:KADOKAWA

ページ数:448ページ

読了日:2023年6月28日

 

米澤穂信さんの『黒牢城』。

第166回直木賞受賞作。

第12回山田風太郎受賞作。

「ミステリが読みたい!2022年版」、「このミステリーがすごい!2022年版」、

週刊文春ミステリーベスト10」「2022本格ミステリ・ベスト10」の

国内部門でそれぞれ1位に選ばれている。

 

・序章 因

あらすじ

織田に謀反を起こした荒木村重のもとを黒田官兵衛が訪れるが。

 

・第一章 雪夜灯篭

あらすじ

大和田城の安部兄弟が戦いもせずに織田に降ってしまった。

降伏を決めたのは安倍兄弟の息子の二右衛門であった。

村重は人質として城中にいる安部二右衛門の息子の自念を牢に繋ぐことにするが、

牢ができるまでは屋敷に置くことにし、屋敷の奥の納戸に閉じ込めておくことにした。

納戸への往来を御前衆に警固させていたが、自念は死んでしまった。

村重は誰が、どのように安部自念を殺したのかを検めようとするが。

 

ネタバレありの感想

いわゆる密室状態の殺人事件を解き明かす話。

元々トリックを当てるのは苦手なのもあるけれど、

戦国時代という時代設定もあり全く分からなかった。

三間鑓を二つ合わせて灯篭の火袋を利用してというのは

理屈としては分かるんだけれど、

いまいちスッキリしないのは自念にバレるとしか思えないからか。

もっともこの真相は後で分かるわけですが。

 

・第二章 花影手柄

あらすじ

村重は鈴木孫六率いる雑賀衆と高山大慮率いる高槻衆と

有岡城の東に敷かれた陣に夜討ちをかけ、勝利する。

雑賀衆が取った首は年寄りのものが一つ、若者のものが一つ。

高槻衆の首も全く同じであった。

首実験のあとに雑賀衆の下針が言うには敵の大将である大津伝十郎長昌が

討ち死にしたとのことだった。

大手柄を挙げたのは雑賀衆か、高槻衆か。

 

ネタバレありの感想

敵の大将を討ち取ったのは誰か?という話。

村重が大将を討ち取ったのはなんとなく予想はついたけれど、

首が狂相へと変わったことの謎の方が気になって仕方なかった。

消化不良のまま第二章は終わってしまう。

 

・第三章 遠雷念仏

あらすじ

村重は織田家との和議を進めようとして、

無辺という僧を使者として明智光秀に仕える斎藤利三に口利きを頼んでいた。

斎藤は降伏の証として茶壷の〈寅申〉を要求してきて、

村重は〈寅申〉を無辺に明智の陣に届けさせようとする。

無辺は夜陰に紛れて城を出るために城の南の草庵で夜を待つことになり、

村重は有岡城の守りに不安を覚えたため、御前衆に庵を守らせることにした。

払暁、村重のもとに無辺が討たれたとの知らせが入り、

無辺と警固の秋岡四郎介が死んでいることが判明する。

 

ネタバレありの感想

これは戦国時代という時代設定が非常にうまく使われてる。

犯人は無辺と同じ僧形の能登入道で、

現代設定なら違和感をすぐ感じただろうけれど、

能登が僧形というのは特に気にせずに読んでいた。

 

・第四章 落日狐影

あらすじ

瓦林能登は落雷で死んだ時、

村重は能登の近くに鉛玉が撃ち込まれていたことに気づいていた。

能登の死から一か月半後、

村重は郡十右衛門に誰が鉄砲を撃ち、誰がそれを命じたかを調べさせる。

十右衛門は当日に本曲輪に鉄砲を持ち込んだ者は一人もいないこと、

鉄砲放が潜んでいたのは松の木の上か天守の二階、御屋敷の屋根に絞られると言うが。

 

ネタバレありの感想

三章の最後で能登が落雷に死んだ時に実は鉄砲が打たれて、

その犯人が誰か?と、一連の事件の真相が明らかになっている。

黒幕が千代保というのは想像通りかな、

というかそれ以外特に候補になりそうな人がいないかな。

 

・終章 果

あらすじ

有岡城を抜け出た村重だったが・・・。

 

登場人物

荒木村重:摂津守。有岡城主。織田信長に対して反旗を翻して有岡城に籠る。

・千代保:村重の側室。「おだし様」や「だしの方さま」と呼ばれている。

 

黒田官兵衛:現在は小寺姓を名乗っている。村重により有岡城の土牢に捕らわれる。

 

・野村丹後:荒木家家臣。村重の妹を娶っている。鵯塚砦を任されている。

・荒木久左衛門:荒木家家臣。国衆池田家の流れを汲んでいる。

・中西新八郎:荒木家家臣。新参者。

・池田和泉:荒木家家臣。城内の武具兵糧の差配と見回りを任されている。

・北河原与作金勝:荒木家家臣。村重の先妻の縁者。

・瓦林能登入道:荒木家家臣。

 

・高山大慮:高山右近の父親。南蛮宗に帰依している。

鈴木孫六有岡城にいる雑賀衆の将。

・下針:下針は二つ名。雑賀衆

 

・安部自念:織田に降った安部二右衛門の息子。

 

・郡十右衛門:御前衆の組頭。荒木御前衆の五本鑓の一人。

・秋岡四郎介:荒木御前衆の五本鑓の一人。刀法に長けている。

・伊丹一郎左衛門:荒木御前衆の五本鑓の一人。痩身。

・乾助三郎:荒木御前衆の五本鑓の一人。大力。

・森可兵衛:荒木御前衆の五本鑓の一人。大柄で髭を伸ばしている。

 

・無辺:廻国の僧。

栗山善助:黒田家家臣。

 

総評

事前の情報で戦国時代ものということは知っていたけれど、

読んでみたら結構しっかりした戦国時代もので驚いた。

ただ、普段の米澤さんの文章は読みやすいけれど、

本作は文体が固く、かなり読みにくかったというのが本音。

 

ミステリーとしてはフェアではあるけれど、

そこまで迂遠な方法をとるのかという疑問や肝心の部分は最後に解き明かすので

読んでる途中はモヤモヤする部分がある。

またミステリーを期待して読むと、章によっては謎が提示されるまでが長い。

 

安楽椅子探偵役の黒田官兵衛も村重から聞いて、

それだけで真相を当てるのはあまりに超人すぎて魅力を感じなかった。

 

歴史小説として読んだ場合は宗教であるとか

長期の籠城によるそれぞれの人物の心理描写は良い部分もあるけれど、

こちらをメインで楽しめるとまではいかないかな。

私にはいまいち合わなかったかな。