MENU

【奥田英朗】『コメンテーター』についての解説と感想

本記事では奥田英朗さんの小説『コメンテーター』を紹介します。

精神科医伊良部シリーズの四作目である。

コメンテーター

コメンテーター

著者:奥田英朗

出版社:文藝春秋

ページ数:272ページ

読了日:2023年6月23日

 

奥田英朗さんの『コメンテーター』。

十七年ぶりに復活の精神科医伊良部シリーズの第四弾。

五篇収録の短編集。

 

・コメンテーター

あらすじ

畑山圭介は中央テレビに入局依頼ドキュメンタリー番組に携わってきたが

、今年の春に突然ワイドショー『グッタイム』への異動を命じられた。

圭介はプロデューサーの宮下からコメンテーターに美人精神科医

連れて来いと命令される。

大学時代の同級生に連絡すると伊良部総合病院の伊良部一郎を紹介される。

宮下と一回限りの約束で伊良部をコメンテーターとして出演させることになったが。

 

ネタバレありの感想

主人公である畑山圭介は特に症状などは無いパターンで

伊良部とマユミがコメンテーターとして活躍する話。

伊良部のキャラクターは特に変わってないように思えるけれど、

マユミは結構変わった感じがするな。

話としては完全に伊良部とマユミのキャラ頼みだけれど、

最後の宮下と伊良部のやりとりとそれを横で見ている圭介は悪くはない。

 

・ラジオ体操第2

あらすじ

福本克己は煽り運転の被害に遭い、

頭の中で復讐を考えていると過呼吸発作で呼吸困難になってしまった。

さらに犬の散歩中に公園でスケボーで遊んでいる若者を見かけると、

若者たちを説教する想像をしていると過呼吸発作の症状があらわれる。

克己は伊良部総合病院を訪れると、

伊良部からアンガー・マネジメントができていないと言われるが。

 

ネタバレありの感想

ちゃんと怒れない男性の話。

伊良部シリーズはなんだかんだで笑える話が多いんだけれど、

これはあんまり笑えなかったかな。

煽り運転とかスケボーによる騒音とか身近にあるトラブルだからかな。

伊良部がゴロゴロ転がっているところは笑えたんだけれど。

空中ブランコ』の「ハリネズミ」の主人公である猪野が登場している。

 

・うっかり億万長者

あらすじ

デイトレードで資産十億円を有している河合保彦

近所の公園で特選幕の内弁当を食べていると大型の洋犬が寄ってきたので

ソーセージを目の前で振りからかうと犬に指を齧られてしまった。

保彦は飼い主の初老の婦人に連れられて伊良部総合病院を

訪れる途中で意識を失ってしまう。

パニック障害と診断された保彦は伊良部に往診をお願いすることになるが。

 

ネタバレありの感想

パニック障害そのものよりもデイトレードで億万長者になった若い男性の話。

オチは全財産寄付して保彦スッキリして笑うのは良いんだけれど、

これから先どうするんだろうか?という現実的な疑問の方が先に来る。

あとマユミのキャラがかなり変わってしまって、伊良部に近くなってる気がするな。

 

ピアノ・レッスン

あらすじ

ピアニストの藤原友香は新幹線で東京から大阪に向かう途中、

不安になり新横浜で降りてしまい、各駅停車のこだまを利用することに。

音大の先輩ピアニストの演奏会に招待されると座席が列の中央だったが、

ずっとその席でじっとしないといけないというプレッシャーに耐えられずに

二曲目で退席してしまう。

事務所の社長に相談すると伊良部総合病院を紹介され病院を訪れる。

伊良部から広場恐怖症と診断され、もっと我儘になり、

まずは遅刻をすることだとアドバイスされるが。

 

ネタバレありの感想

広場恐怖症のピアニストの話。

私が好きな伊良部シリーズが帰ってきたかのような話になっている。

主人公は不安障害があり神経科に通う理由があり、

それを伊良部のぶっ飛んだ治療方法により問題を解決していくという展開。

友香はピアニストということもあり、

マユミのバンドに参加することによって治療成功というオチ。

 

・パレード

あらすじ

山形生まれの北野裕也は地元の高校を卒業後に東京の私大の人間科学部に進学した。

二年半前に入学に合わせて上京したものの新型コロナウイルスの影響で

大学の授業はリモートで行われることになった。

二年生になり少しずつ対面授業が増え、

クラスに気の合う者同士でグループができる中で

裕也はどのグループにも属することができなかった。

裕也は三年生になり授業で教授から指名された時に頭に血が上り、

顔が真っ赤になって一言も喋れなくなってしまった。

ゼミのタスクチームのミーティングに参加した時に緊張してしまい、

気分が悪くなり途中で帰ってしまった。

伊良部総合病院をの神経科を訪ねると社交不安障害と診断されるが。

 

ネタバレありの感想

社交不安障害の大学生の話で、

これも初期の伊良部シリーズのような出来になっている。

真面目な主人公の裕也が伊良部に翻弄され、中学生のマサルにいじられまくる。

最終的には裕也はゼミの女子にも社交不安障害を打ち明けて前向きな終わり方になり、

さらにはハロウィンで仮想パレードをすることによって、

伊良部シリーズらしく笑えるオチになっている。

 

登場人物

・伊良部一郎:伊良部総合病院神経科の医師。注射フェチ。

       ポルシェに乗っている。母親が日本医師会の理事。

・マユミ:伊良部総合病院神経科の看護師。露出好き。

     ブラック・ヴァンパイアというパンクロックのバンドをやっている。

 

・畑山圭介:「コメンテーター」の主人公。中央テレビ勤務。

      午後のワイドショー『グッタイム』のスタッフ。

      大学時代の同級生に紹介されて伊良部のもとを訪れる。

 

・福本克己:「ラジオ体操第2」の主人公。オフィス機器メーカー勤務。三十五歳。

      過呼吸発作の症状があり伊良部総合病院を訪れる。

 

河合保彦:「うっかり億万長者」の主人公。無職。

      デイトレードで十億円の資産がある。

      伊良部の母親が飼っている犬に噛まれ伊良部総合病院に行くことになる。

 

・藤原友香:「ピアノ・レッスン」の主人公。ピアニスト。二十七歳。

      先輩の演奏会で緊張から途中退席してしまい、

      事務所の社長が探しくれた伊良部病院の神経科を受診することになった。 

 

・北野裕也:「パレード」の主人公。W大の三年生。

      ゼミのミーティングで緊張し気分が悪くなったので

      伊良部総合病院を訪れる。

 

総評

最初の二篇を読んだ時はいまいちかなと思ったけれど、

その後の三篇を読んだら十分面白かった。

特に最後の二篇は私はかなり面白かった。

 

表題作の「コメンテーター」は伊良部とマユミの

キャラクター頼りという感じだけれど、

最後の二篇は伊良部シリーズの初期のような面白さになっている。

 

十七年ぶりの新作ということなので、

内容的にも前作を覚えている必要もない本だし、

久しぶりに読む価値はあるかなと思う。