本記事では宮島未奈さんの小説『成瀬は天下を取りにいく』を紹介します。
成瀬シリーズの一作目である。
成瀬は天下を取りにいく
著者:宮島未奈
出版社:新潮社
ページ数:208ページ
読了日:2023年6月21日
宮島未奈さんの『成瀬は天下を取りにいく』。
宮島未奈さんのデビュー作である。
成瀬シリーズの第一弾で、六篇収録の連作短編集。
「ありがとう西武大津店」で第20回「女による女のためのR-18文学賞」大賞、
読者賞、友近賞をトリプル受賞。
・ありがとう西武大津店
あらすじ
「島崎、わたしはこの夏を西武に捧げようと思う」
一学期の最終日である七月三十一日、下校中に成瀬がまた変なことを言い出した。
大津市唯一のデパート西武大津店は一か月後の八月三十一に営業終了する。
八月になったらぐるりんワイドで西武大津店から生中継するため、
それに毎日映ろうとする成瀬とテレビをチェックしてほしいと頼まれた島崎だったが。
登場人物
・成瀬あかり:中学二年生。
・島崎みゆき:中学二年生。成瀬と同じマンションに住んでいる。
ネタバレありの感想
西武大津店が閉店することになり地元のテレビで生放送するため、
成瀬がその放送に映ろうとする話。
言ってしまえばこれだけで大きな物語があるわけではないけれど、
読んでいて結構面白い。
成瀬は別に西武ライオンズのファンでもないのにユニフォームを着ていたため
おばさんから西武ライオンズの帽子を貰ったり、
島崎も一緒にユニフォームを着たりと。
・膳所から来ました
あらすじ
「島崎、わたしはお笑いの頂点を目指そうと思う」
成瀬は島崎とコンビを組んで、M-1グランプリに出ることに。
コンビ名は「ゼゼカラ」で成瀬がネタを全部考えるというが。
登場人物
・成瀬あかり:中学二年生。
・島崎みゆき:中学二年生。
ネタバレありの感想
時系列としては「ありがとう西武大津店」の直後の話。
成瀬と島崎がコンビを組んでM-1に挑戦するので当然漫才ネタがあるんだけれど、
お笑いって文章にすると伝わりにくい部分があるのを
比較的うまく笑えるように仕上げている。
・階段は走らない
あらすじ
西武大津店が来年八月に営業終了することを知った敬太は
幼なじみのマサルと西武を訪れる。
西武で小学校の同級生と再会して来年の七月に同窓会を開催することになったが。
登場人物
・稲枝敬太:Web会社勤務。
・吉峰マサル:弁護士。妻と二人の息子がいる。
・笹塚拓郎:敬太とマサルの小学校時代の同級生で六年生の冬休みに転校した。
ネタバレありの感想
この話だけは成瀬はほとんど関係なくて西武大津店絡みになっている。
西武大津店閉店絡みの話で成瀬はライオンズ女子として
ぐるりんワイドに映っているのを敬太に認識されている。
この話に登場する人物たちは四十一歳か二歳なので青春というよりは
小学生時代に置き忘れたものについてという感じかな。
最後に拓郎に再会するのはいいんだけれど、結構あっさり終わってる。
・線がつながる
あらすじ
高校デビューを目指していた大貫かえでは坊主頭の成瀬あかりを見て
飛び蹴りを食らわされたようだった。
仲良くなった大黒悠子とかるた班を見に行くとそこには成瀬がいて
成瀬はかるた班に入るつもりだと言う。
登場人物
・成瀬あかり:膳所高校一年生。かるた班。
・大貫かえで:膳所高校一年生。きらめき中学校で成瀬と同級生だった。
・大黒悠子:膳所高校一年生。かるた班。
・須田直也:膳所高校一年生。大貫かえでと同じクラス。
ネタバレありの感想
語り手が大貫に代わり成瀬たちが高校に入学した後の話。
大貫から見た成瀬の話でもあり、大貫の話でもある。
成瀬は掴みどころがないけれど、どちらかと言うと大貫に感情移入して読んだかな。
・レッツゴーミシガン
あらすじ
錦木高校に入学し、かるた部に入った西浦航一郎は二年生になり
第四十五回全国高等学校小倉百人一首かるた選手権大会団体戦への切符を掴み、
西浦は滋賀県代表膳所高校の五番席に座る彼女から目が離せなくなっていた。
登場人物
・成瀬あかり:膳所高校二年生。
・西浦航一郎:錦木高校二年生。かるた部。
・中橋結希人:錦木高校二年生。かるた部。
ネタバレありの感想
かるた選手権で成瀬に一目ぼれした西浦航一郎視点の話。
いきなりミシガンに西浦たちを誘う成瀬はぶっ飛びすぎだろうだけれど、
そこは大津市民憲章という理由付けはされてはいる。
成瀬のキャラもだけど、どんどん滋賀のネタ色が強くなってきている。
・ときめき江州音頭
あらすじ
成瀬と島崎はときめき夏祭りの司会を任されて今年で三年目を迎えていた。
夏祭りの打ち合わせの後に島崎が東京に引っ越すことを成瀬に告げる。
島崎の引っ越しを聞いた成瀬は不調になってしまう。
登場人物
・成瀬あかり:膳所高校三年生。ときめき夏祭りの実行委員。
・島崎みゆき:高校三年生。ときめき夏祭りの実行委員。
・吉峰マサル:ときめき夏祭りの実行委員長。
・稲枝敬太:ときめき夏祭りの実行委員。
ネタバレあり感想
最後は成瀬視点の話。
「階段は走らない」に登場した稲枝敬太や吉峰マサル、
「線がつながる」の大貫かえでも登場している。
「膳所から来ました」の終盤の島崎を成瀬視点から描いたような物語。
今までは掴みどころがなかった成瀬が等身大の人間に過ぎないように見えるのは、
良いことなのか悪いことなのかは分からない。
ゼゼカラは続くということなので読後感は良い。
総評
表紙の成瀬がライオンズの西武ライオンズのユニフォームを着てるから
埼玉が舞台かと思ったら滋賀の大津が舞台である。
裏表紙にはしっかりと西武大津店とあるし、かなりの滋賀ネタの話になっている。
正直滋賀のことを全く知らないけれど楽しめた。
成瀬に関してはよく分からない。
他人視点で成瀬を見てる分には掴みどころのない魅力的なキャラクターにも
思えるけれど、最後の成瀬視点の物語を読むと結構普通かなと。
青春小説であり滋賀小説としては十分面白いし、
読みやすいので気軽に読めるとは思う。