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【奥田英朗】『町長選挙』についての解説と感想

本記事では奥田英朗さんの小説『町長選挙』を紹介します。

精神科医伊良部シリーズの三作目である。

町長選挙

町長選挙

著者:奥田英朗

出版社:文藝春秋

ページ数:269ページ

読了日:2023年6月18日

 

奥田英朗さんの『町長選挙』。

精神科医伊良部シリーズの第三弾。

四篇収録の短編集。

空中ブランコ』のタイトルでアニメ化されている。

 

・オーナー

あらすじ

田辺満雄は日本一の発行部数を誇る「大日本新聞」の社長であり、

プロ野球の人気球団「東京グレート・パワーズ」のオーナーである。

満雄は死への不安から暗闇が怖くなってしまう。

主治医に話をすると伊良部総合病院の神経科を紹介される。

往診を頼んだが拒否された満雄は伊良部総合病院を訪れるが、

ぞんざいな扱いをうけることになってしまった。

満雄はプロ野球の再編問題で週刊誌のインタビューを受けるが、

パニック障害になり再び伊良部のもとを訪れるが・・・。

 

ネタバレありの感想

死を怖がる新聞社の会長の話。

モデルは読売新聞の渡辺恒雄ナベツネ)さん。

プロ野球のリーグ再編問題の時に書かれただろう話。

生前葬とそのあとの若い記者たちの話と綺麗にまとまっている。

 

・アンポンマン

あらすじ

安保貴明は東大の学生時代にインターネットによる

ホームページ作成サービスの会社を設立した。

会社は企業買収を重ねて成長を続け

IT業界のみならず経済界全体からも注目される存在になった。

そんな貴明はサイン会で平仮名を忘れるという事態になり、

心配した秘書によって伊良部総合病院の神経科を受診するが、

貴明の症状はさらに悪化していって。

 

ネタバレありの感想

平仮名を忘れてしまったIT社長の話。

モデルは当時のライブドア社長の堀江貴文ホリエモン)さん。

幼稚園での伊良部と貴明の傍若無人ぶりとそれにツッコミを入れるマユミが見所。

小説の方では大人になった貴明によって周囲の反応が変わっていい話になっている。

 

・カリスマ稼業

あらすじ

白木カオルは女優で若い頃から美貌が売りだったが、

最近はそれが一気にエスカレートしたと感じている。

カオルが主役の二時間枠の恋愛ドラマの台本読みの時に、

同年代の女優への対抗意識から仕出し弁当を完食してしまう。

消費カロリーが気になりだしたカオルは付き人の久美の案内で

久美の友達のマユミが働く伊良部の診察室を訪れる。

伊良部から一度太ってみたらというアドバイスを受けるが、

カオルの症状はさらに悪化していくことに。

 

ネタバレありの感想

アンチエイジングにとりつかれた女優の話。

モデルはおそらく黒木瞳さん。

この話は伊良部よりマユミの友達の久美が登場することもあって、

マユミのツッコミが冴えわたっている。

マユミと久美のバンドのライブで終わるけど、

他の話と違ってマユミの問題は特に解決してないかな。

 

町長選挙

あらすじ

宮崎公平は離島研修で千寿町役場の総務課に出向中。

その千寿島で四年に一度の町長選挙が告示された。

毎回島を二分し、前町長と現町長が熾烈な戦いを繰り広げるのだ。

公平はこの町長選挙に巻き込まれて疲弊してしまう。

そんな時に派遣されてきた伊良部とマユミを港に迎えに行くことになる。

 

ネタバレありの感想

町長選挙に巻き込まれた公務員の話。

モデルがあるのか分からないけど、あるとしたら鹿児島の島かな。

これは他の話より長めで主人公の公平の話というより

とにかく離島で繰り広げられる町長選挙が物語の中心になっている。

途中までは伊良部も無責任にお金貰ってとやりたい方だけど、

最後には責任の重さに耐えられなくなってしまう。

最後にはまさかの棒倒しで決めるというオチ。

面白いけれど、伊良部シリーズとしての評価は難しい話。

 

登場人物

・伊良部一郎:伊良部総合病院神経科の医師。三十七歳。注射フェチ。

       黄緑色のポルシェに乗っている。父親が日本医師会の理事。

・マユミ:伊良部総合病院神経科の看護師。露出好き。

     「カリスマ稼業」に登場する久美とパンクロックのバンドをやっている。

     

・田辺満雄:「オーナー」の主人公。あだ名はナベマン。

      「大日本新聞」の代表取締役社長で

      「東京グレート・パワーズ」のオーナー。七十八歳。

      暗闇が怖く不眠症になってしまったため主治医に神経科医を紹介され、

      伊良部のもとを訪れることになる。

 

・安保貴明:「アンポンマン」の主人公。「ライブファスト」の社長。三十二歳。

      サイン会でひらがなを忘れたため、

      心配した秘書が探した伊良部総合病院神経科を受診することになる。

 

・白木カオル:「カリスマ稼業」。女優。東京歌劇団出身。四十四歳。

       ドラマの台本読みの時に見栄を張って仕出し弁当を食べてしまい、

       カロリー消費が気になりだして、

       運動をするために伊良部のもとを訪れることになった。

 

・宮崎良平:「町長選挙」の主人公。東京都職員。

      離島研修で千寿町役場の総務課に出向している。二十四歳。

      伊良部総合病院から派遣されてきた

      伊良部とマユミを出迎えることになる。

 

総評

前二作と比べると大きく変わっているのは今作はモデルがいること。

新聞社の社長とIT企業の社長と女優と有名人になっていて、

症状に関しては前二作と比べると感情移入はしにくくなっているんじゃないかな。

その分キャラクターは強烈にはなっているけれど。

 

もうひとつ前二作と変わっているのはマユミがかなり喋るようになっていること。

これはどちらが好みかは人によるだろうけど、

私としてはシリーズものでもキャラの変化はアリかなと思う。

 

ある程度短期間で読んだ影響もあるだろうけど、

前二作と比べると若干落ちるかなというのが正直なところ。

それでも十分面白い一冊になっている。