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【横山秀夫】『影踏み』についての解説と感想

本記事では横山秀夫さんの小説『影踏み』を紹介します。

影踏み

影踏み

著者:横山秀夫

出版社:祥伝社

ページ数:395ページ

読了日:2023年9月30日

 

横山秀夫さんの『影踏み』。

「ノビ師」と呼ばれる忍び込みのプロ真壁修一が主人公の七篇収録の連作短編集。

山崎まさよしさん主演で2019年に映画化されている。

 

・消息

あらすじ

「ノビ師」と呼ばれる忍び込みのプロの真壁修一が二年間の服役から出所した。

真壁には双子の弟の啓二がいたが空き巣を重ねて警察に追われる身となったことから

悲観した母親が発作的に家に火を放って啓二を道連れに無理心中をしていた。

また二人を助け出そうとした父親も炎に呑まれて死亡。

それ以降真壁は啓二の後を追い泥棒の道へ。

そして真壁の中耳には死んだはずの啓二の声が聞こえることになった。

逮捕される直前に侵入した家で女から殺意を感じた真壁は侵入した家・

稲村家について調べ始めるが、夫婦は離婚し、事件は何も起こっていなかった。

真壁の思い過ごしだったのか・・・。

 

ネタバレありの感想

真壁が逮捕されるきっかけになった稲村葉子絡みの話。

当直予定表や吉川聡介も稲村葉子のことを知りえたことなどが

最後に綺麗にまとまっている。

ただ過去の事件なので伏線というよりは読んでたらなんとなく終わってたというのが

率直な感想になる。

 

・刻印

あらすじ

雁屋署刑事一課の盗犯係長・吉川聡介が変死した。

雁屋本町の歓楽街を貫くドブ川に浮いた。

死因は溺死で、頭部に外傷があった。

警察から吉川殺しの疑いをかけられた真壁は真相を探るが。

 

ネタバレありの感想

「消息」に出てきた吉川聡介殺しの犯人探し。

稲村葉子のうなじから肩口の傷がポイントなのは分かったけど

それが大室誠の歯形ってのは全く想像できなかった。

また真壁のノビ師としての活躍も描かれている。

 

・抱擁

あらすじ

安西久子が勤める保育園で現金二十五万円が盗まれた。

久子の幼なじみの三沢玲子から

久子に疑いがかかっていることを聞いた真壁は事件の真相を調べようとするが。

 

ネタバレありの感想

久子が疑いの目が向けられたので盗難事件の真相を探る話。

これまた泥棒の能力を使い事件の真相を暴くわけだけど、

確かにわざわざ三沢玲子が真壁を探すのも不自然といえば不自然か。

実際探偵が女(三沢玲子)から前金を頂いたってのをちゃんと喋ってるからな。

 

・業火

あらすじ

真壁は同業者の三崎から雁屋界隈で盗っ人狩りが行われている話を聞いた。

泥棒が襲われる理由は盗んではならない物を盗んだ奴がいるから。

その後、昔住んでいた家の近くの一妙寺近くで二人組に襲われてしまうが。

 

ネタバレありの感想

いわゆるWhy done it(なぜ犯行を行なかったか)もの。

ジゴロなので当然男だろうと思ったら刑法二五六条からジゴロというオチ。

 

使徒

あらすじ

真壁はY刑務所時代に大野からクリスマスに山内恵美という子の家に忍び込んで、

サンタクロースをやってほしいと頼まれていた。

ネタバレありの感想

『影踏み』の中で一番好きな話。

真壁のノビ師としての能力も発揮されているし、

大野が裏切ったのか?と思いきやそうではなかったりと話に起伏がしっかりとある。

山内恵美も里見三郎も良い人でこの話は文句ないかな。

 

・遺言

あらすじ

盗っ人狩りにあって入院中だった黛明夫がうわ言で真壁の名前を呼んでいるという噂を

聞いた真壁が病院に見舞いに行った途端、黛明夫が死んだ。

黛は真壁にナカヌキやバンカハズシなどのスリ用語が入ったメッセージと

『父ちゃん、行っちゃやだよ、父ちゃん』の言葉を残していた。

 

ネタバレありの感想

タイトルからも推測できるようにダイイングメッセージもの。

御影征一のところに乗り込んでお金を取り立てるのは、

ただの泥棒の真壁にしてはかっこよすぎるかな。

最後のオチは真壁の推測が正しいとしたらかなり悲しい話。

 

・行方

あらすじ

真壁が宿泊する「旅館いたみ」に安西久子が訪ねてきた。

ストーカーに追われているという久子が

「旅館いたみ」に泊まった夜に火事が起きて・・・。

 

ネタバレありの感想

失踪人探し。

最後の最後が双子ネタで、

真壁が店で会って久能次郎だと思ったのが、実際は久能新一郎だったというオチ。

そして啓二が死んだ火事の真相を語り、啓二は消えてラストを迎える。

かなり哀しいラストではあるけど、決してバッドエンドではないかな。

 

登場人物

・真壁修一:「ノビ師」と呼ばれる忍び込みのプロ。綽名はノビカベ。

      母親たちの無理心中を境に傷害事件を起こし、泥棒の道へ。

・真壁啓二:故人。真壁修一の一卵性双生児の弟。

      十五年前に十九歳で母親の無理心中によって火事で死亡。

      それ以来、真壁修一の頭の中にすみついている。

・安西久子:保母。真壁の大学時代の恋人。

・稲村葉子:二年前真壁が空き巣に入った家の住人。

・吉川聡介:雁屋署刑事一課盗犯係長。警部補。

      真壁修一と啓二の小中学校の同級生。

・馬淵昭信:雁屋署の刑事一課盗犯係長。警部補。

・黛明夫:宵空き(宵に紛れて空き巣を働く職業泥棒)。

・大室誠:競売師見習い。

・猪瀬:雁屋署強行犯係。

驫木初男:雁屋地方裁判所の執行官。

・三沢玲子:安西久子の幼なじみ。父親は三郷署の署長。

・清太郎:真壁と一年間同じ房にいた。異名は割らずの清太郎。

・御影征一:博滋会の若頭。

・大野芳夫:ノビ師。Y刑務所で真壁修一と一緒だった。

・山内恵美:両親が亡くなり遠縁の夫婦に引き取られた。

・市野ヤス子:旅館いたみの女将。

・久能次郎:文具店経営者。安西久子の見合い相手。

・久能新一郎:久能次郎の双子の兄。

 

総評

警察小説が多い横山秀夫さんが泥棒を主人公に描いた小説。

久しぶりに読んだのもあるけど伏線であるとかどんでん返しは流石の一言。

 

真壁の脳にすみついている啓二は真壁が勝手に生み出したものではなく、

本当に啓二という人格がすみついている感じになっている。

十九歳で亡くなっているからか喋り方も真壁と比べたら若い。

 

横山さんの文体は重さや暗さがあると思うけど、

これが犯罪者を主人公にした場合は妙に合っているので、

異色作ではあると思うけど、これはこれで有りなんじゃないかと思う一冊。