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【伊坂幸太郎】『ジャイロスコープ』についての解説と感想

本記事では伊坂幸太郎さんの小説『ジャイロスコープ』を紹介します。

ジャイロスコープ

ジャイロスコープ

著者:伊坂幸太郎

出版社:新潮社

ページ数:302ページ

読了日:2023年8月12日

 

伊坂幸太郎さんの『ジャイロスコープ』。

七篇収録の短編集。

巻末に十五年を振り返っての伊坂幸太郎さんのインタビューも収録されている。

 

・浜田青年ホントスカ

あらすじ

蝦蟇倉市にやってきた浜田青年は

〈スーパーホイホイ〉の駐車場で相談屋を営む稲垣さんから

相談屋のアシスタントをやらないか誘われる。

一週間はあまり外に出ない、

携帯電話を稲垣さんに預けるという条件を提示されるが、浜田青年はその条件を呑む。

一週間後、稲垣さんの役を浜田青年がやることになるが。

 

登場人物

・浜田:蝦蟇倉市にやってきた青年。

・稲垣:相談屋をやっている三十代ぐらいの男性。頭と体がアンバランス。

 

ネタバレありの感想

東京創元社のアンソロジーに収録された作品。

相談屋の稲垣と、その稲垣に誘われる浜田の話なんだけれど、

途中まではどういう話なのかが全く分からない。

一週間経って稲垣からの相談という形で全て明らかになる。

読み返すと確かに伏線はかなり張られていて、見事な回収にはなっている。

ただ、どちらかというと浜田と稲垣のキャラと会話の話かな。

何だかんだで伊坂さんらしい作品かな。

 

・ギア

あらすじ

荒野を走るワゴン。

ワゴンには運転手、携帯ゲーム機を持った少年、

詩集を読むスキンヘッドの男などが乗っている。

乗客の夫人が宇宙人に襲われたことがあると言い出して。

 

登場人物

・蓬田:主人公。

 

ネタバレありの感想

私にはかなり難解な話だった。

セミンゴという謎の生物とさらにスパムメールを絡めた話なんだけれど、

このセミンゴの設定もそんなに興味を惹かれず、

そして物語としても微妙かなと。

スキンヘッドがつぶやく「もっと光を」が「もっと気がかりを」への変化だったり、

スパムメール絡みは結構面白いんだけど。

 

・二月下旬から三月上旬

あらすじ

子どもの頃の坂本滋郎は自暴自棄になり、

家の中や学校で、不満を爆発させてもおかしくなかった。

しかし、そうならなかったのは小学四年の時に坂本ジョンと会ったから。

 

登場人物

・坂本滋郎:主人公。学生時代に塾講師のアルバイトをしていた。

・坂本ジョン:滋郎と小学四年生の時に出会った。

 

ネタバレありの感想

これまた難しい話で最初は坂本ジョンは幻覚なのかと思ったら、

巻末によるとどうも多重人格らしい。

あとは、

二月二十七日、二月二十八日、二月二十九日、三月一日とあるので連続した話

と思わせておいて、実際にはそれぞれ十二年経っているという話。(たぶん)

どこが事実でどこが事実じゃないのかを考えながら

読む必要があるので理解するのが難しいかな。

坂本ジョンのキャラは伊坂さんらしいが。

 

・if

あらすじ

門場駅まで徒歩で三十分はかかる住宅街に住む山本。

山本が乗ったバスで男が刃物を持って女性を人質にとって。

 

登場人物

・山本:主人公。会社員。

 

ネタバレありの感想

「if」というタイトルやAとBの表記含めて騙された作品で

最初はパラレルものなのかと思った。

バスジャックに対して山本だけではなく

山本以外の男たちも含めて犯人を押さえつけているのは好き。

あと地味に老女も助けているのもポイントか。

20ページも無い短編だけれど、かなり完成度は高い。

 

・一人では無理がある

あらすじ

林衿子は電話の音で目が覚めた。

電話は娘の梨央からで、梨央がある男に付け回されてるという内容で、

その男が今から来るというメールを送ってきたというが。

 

登場人物

・林衿子:茨城に住んでいる。

・梨央:林衿子の娘。

・松田陽一:エリアリーダー。

・野村:整備部の部長。

・御子柴:アンカー。

 

ネタバレありの感想

松田たちはサンタクロースのシステムを担っている会社に勤務している人たちで

要はファンタジー的な感じかな。

一方で梨央と隣の部屋の子どもの置かれた環境は極めて現実的で

それが最後に繋がって終わる。

 

・彗星さんたち

あらすじ

新幹線清掃の仕事をする二村は

主任の鶴田、一緒に研修を受けた六郎などと働いていたが、

主任の鶴田が脳溢血で倒れてしまい。

 

登場人物

・二村:新幹線清掃の仕事をしている。理央という娘がいる。

・鶴田:主任。

・六郎:二村と同時期にパート採用された五十歳の男性。

 

ネタバレありの感想

新幹線清掃を舞台に、

倒れた鶴田の人生が新幹線でやってきたという繋がっているような、

繋がっていない話。

個人的には一番好きな話で、パウエル国務長官の言葉を使って

 

・後ろの声がうるさい

あらすじ

東京行きの新幹線〈はやぶさ〉。

後ろの座席から、女優の佐藤三条子が乗っているという会話が聞こえてきて。

 

登場人物

・私:主人公。

 

ネタバレありの感想

短編集用に書き下ろされた、

各篇に出てきた人物やエピソードが登場するエピローグ的な話。

終わりよければ全てよしではないけれど、

読後感は良いので本の評価も比較的良くはなるかな。

 

総評

悪くはないけれど、手放しで面白かったと褒めることも難しいかなと。

短編集でかなり雑多なものが集められている、

よく言えばバラエティに富んでいるとも言えるのだろうけど。

少なくとも伊坂さんの本の中で最初に読む本としては薦めないかな。

何冊も読んでいて『ジャイロスコープ』を手に取るという感じであれば、

そこまでは悪くないかなという感じ。

 

巻末に伊坂さんのインタビューがあり、

短編の解説と十五年を振り返っているけれど、これが結構面白かった。