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【伊坂幸太郎】『AX アックス』についての解説と感想

本記事では伊坂幸太郎さんの小説『AX アックス』を紹介します。

殺し屋シリーズの三作目です。

AX アックス

AX アックス

著者:伊坂幸太郎

出版社:KADOKAWA

ページ数:384ページ

読了日:2023年9月16日

 

伊坂幸太郎さんの『AX アックス』。

殺し屋シリーズの第三弾。

『AX アックス』は基本的には兜が主人公の連作短編集になってる。

 

・AX

あらすじ

兜は表の顔は文房具メーカー勤務の正社員で、裏の顔は超一流の殺し屋。

一方で家では妻に頭が上がらない恐妻家。

兜は息子の克己が生まれた頃から殺し屋の仕事を辞めたいと考えていたが、

今でも仕事を続けている。

兜の裏の仕事の仲介はオフィス街の診療所の医師が行っている。

医師から緊急の「手術」として爆破事件の実行犯を始末する依頼を受けた兜だったが、

その日は克己の進路相談がある日で。

 

ネタバレありの感想

いきなり『マリアビートル』に登場した檸檬と蜜柑も少しだけど登場する「AX」。

冒頭から殺し屋なのに恐妻家という兜の魅力が発揮されている。

息子の克己の学校での美人教師の話と爆破事件の話がリンクして収斂していく。

兜の哲学である「できるだけフェアでいろ」というのが記憶に残る。

 

・BEE

あらすじ

スズメバチと呼ばれる業者から命を狙われていると医師から聞かされた兜。

そこに妻から庭の木に蜂が巣を作っていると告げられる。

妻からは絶対に自分ではやらないでと強く言われたにも関わらず

兜はネット上に投稿された動画を見て自分にもできるんじゃないか?と思い、

スズメバチの巣を退治しようとする。

 

ネタバレありの感想

基本的には殺し屋の話ではなく、兜の日常的な話になっている。

家の庭の蜂の巣を駆除する話だけど、

母親と子供のエピソードで何とかまとめたって感じかな。

殺し屋シリーズとしてはスズメバチと回想だけど岩西がちょっと登場するのが

印象に残るくらいかな。

 

・Crayon

あらすじ

ボルダリングジムに通い始めた兜は同じ時期に通い始めた松田と知り合う。

松田は兜同様恐妻家で、子供が同じ高校に通っていることから親しくなり、

兜と友達になった。

親しくなった松田から一杯やっていきませんかと誘われ、

松田のよく行く店に向かうが。

 

ネタバレありの感想

またも日常的な話。

恐妻家同士松田と仲良くなっていくのは良いんだけど、ラストがあまりに切なすぎる。

グラスホッパー』に出てきた蝉が名前だけ登場している。

 

・EXIT

あらすじ

兜は百貨店に配置されている警備会社の社員の奈野村と親しくなった。

奈野村の子供が深夜の店内巡回を見学したいと言っていることを

奈野村から相談された兜。

奈野村は他にも気になることがあると言ってくるが。

 

ネタバレありの感想

今まで同様日常的な話かと思いきや、奈野村の正体が実は殺し屋。

それどころか兜同様殺し屋を辞めようとしている男だった。

兜と奈野村の戦いは引き分けというか、

兜が勇気を出して逃げることに成功するが、

一週間後ビルの屋上から落下し、死亡したとあっさりしたあっけない幕切れ。

 

・FINE

あらすじ

克己は母親から父親に会いたいと突然やってきた若い男の話を聞かされる。

田辺亮二と会った克己は

自殺した父親に助けられた話を聞かされ、父親の診察券を返される。

克己は父は自殺ではなかったのではないかと疑念が大きくなり、診療所を訪れる。

克己は医師から父親が息子に残したいものがあると言っていた話を聞かされ、

父の部屋を調べると鍵を見つけるが。

 

ネタバレありの感想

中編ぐらいの長さで物語のしめくくり。

克己視点で「FINE」から十年後と

兜視点の「FINE」の奈野村との出来事から二日後からの話が描かれている。

今までの伏線を回収していくのとクリーニング店の主人がまさかの奈野村。

兜の最後はあっさりはしてるんだけど、

兜は胸に暖かい空気が満ちていくとあるので決して悪くはないかな。

「蟷螂の斧」が見事に回収されてボウガンの仕掛けで医師が死亡。

最後は兜と妻の出会いが描かれているラスト。

過去の殺し屋シリーズからは桃と槿が登場する。

 

登場人物

・兜:超一流の殺し屋。文房具メーカーの営業社員。四十代半ば。

・妻:兜の妻。

・克己:兜の息子。初登場時は高校生。

檸檬:トーマス好き。乱暴で軽薄な言動が多い。『マリアビートル』の登場人物。

・蜜柑:檸檬の仕事仲間。背格好は似ているが、性格については反対。

    『マリアビートル』の登場人物。

・医師:仲介者。都内のオフィス街の一角で内科診療所の医者。

    兜の裏の仕事を二十年近く仲介してきた。

・岩西:仲介者。『グラスホッパー』の登場人物。

スズメバチ:毒針を用いて標的を殺害する殺し屋。

       以前は男女のペアだったが女は亡くなっている。

       『マリアビートル』の登場人物。

・松田:会社員。恐妻家。

・奈野村:警備会社の社員。中学生の息子がいる。

・茉優:克己の妻。

・大輝:克己の息子。三歳。

・田辺亮二:スポーツジムのトレーナー。

・桃:桃というポルノ雑誌屋の主人。

・布藤:不動産屋。

・槿:押し屋。

 

総評

文庫本の解説にもあるけど収録作の頭文字を並べるとABCEFとなっている。

本来は「Drive」という一遍が予定されていたらしい。

 

殺し屋シリーズとはいっても、

グラスホッパー』や『マリアビートル』とはかなり違う作風に感じた。

家族ものといった方が相応しいかな。

なので『グラスホッパー』や『マリアビートル』のようなものを期待して読むと

拍子抜けする可能性もある。

シリーズものとしては過去作の登場キャラが少しだけど

出てくるので楽しめるようにはなっている。

 

とにかく兜というキャラクターを気に入るかどうかなんじゃないかな。

超一流の殺し屋だけど家では恐妻家で、このギャップが面白い。

あとはとにかくフェアであるという信念や

克己が生まれたのをきっかけに殺し屋をやめようとしてるなど

人間くさい部分があって、私は兜が非常に気に入った。

 

話としては「EXIT」と「FINE」が特に良かった。

『マリアビートル』みたいなものを期待したので、

期待とは違ったけれど十分楽しめた。