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【伊坂幸太郎】『マリアビートル』についての解説と感想

本記事では伊坂幸太郎さんの小説『マリアビートル』を紹介します。

殺し屋シリーズの二作目です。

マリアビートルマリアビートル

著者:伊坂幸太郎

出版社:角川書店

ページ数:592ページ

読了日:2023年9月11日

 

伊坂幸太郎さんの『マリアビートル』。

殺し屋シリーズの第二弾で、『グラスホッパー』の続編にあたる。

ブラッド・ピット主演で『ブレット・トレイン』というタイトルで映画化されている。なおタイトルの『マリアビートル』とは天道虫を意味している。

文庫版には七尾の前日譚である「ついていないから笑う」が収録されてる。

 

あらすじ

元殺し屋の木村雄一は子供をデパートのビルから突き落とした

王子慧に復讐するために〈はやて〉に乗り込む。

王子慧は木村に狙われていることを知ったうえで、

木村をはめようとして〈はやて〉に乗る。

蜜柑と檸檬の殺し屋コンビは裏社会の大物峰岸の息子を助け出して、

峰岸のもとに息子を届けるために〈はやて〉に乗り込む。

ツキに見放された七尾は旅行荷物を奪うために〈はやて〉に乗り込む。

疾走する〈はやて〉の中で狙う者と狙われる者が交錯する・・・。

 

登場人物

・木村雄一:元殺し屋。      

      アルコール中毒だが渉が入院してからはアルコールを断っている。

・七尾:殺し屋。業界では天道虫と呼ばれている。

・蜜柑:殺し屋。檸檬とともに双子の殺し屋、兄弟の業者と呼ばれている。    

    小説が好き。性格は生真面目。

檸檬:殺し屋。電車とトーマスが大好き。大雑把な性格をしている。

・王子慧:中学生。     

     木村渉をデパートの屋上から突き落とし意識不明の状態にした。

・木村渉:木村雄一の息子。六歳。デパートの屋上から落ちて入院中。

木村茂:木村雄一の父親。

・木村晃子:木村雄一の母親。

・繁:木村茂のかつての仕事の後輩。

・鈴木:塾の講師。『グラスホッパー』の登場人物。

・峰岸良夫:裏社会の有力者。

・峰岸の息子:峰岸良夫の一人息子。二十五歳。

・真莉亜:仕事の依頼を受け、七尾に指示を出す女性。

・狼:七尾に恨みを持つ殺し屋。うそつき少年の寓話から狼と呼ばれている。

・槿:押し屋。

・桃:都内で書店を経営している女性。

・ススメバチ:寺原を殺した殺し屋。 

 

ネタバレなしの感想

グラスホッパー』の続編で、『グラスホッパー』に登場した人物やエピソードも

出てくるとはいえ『グラスホッパー』を読んでいなくても問題なく楽しめると思う。

ただ順番に読んだ方が無難ではあるかな。

 

元殺し屋で酒浸りの木村、優等生の仮面を被った中学生の王子、

腕の立つ殺し屋コンビの蜜柑と檸檬

そしてツキがない殺し屋の天道虫こと七尾が主人公の群像劇になっている。

東北新幹線の車内という密室というか限定された空間の物語なんだけど、

アクションやコメディ要素もあり

爽快感もあるエンターテインメント小説になっている。

ネタバレなしの感想でいうならとにかく文句なく楽しめた。

殺し屋コンビの檸檬機関車トーマス好きや一種のボケキャラで、

それに対する冷静なツッコミ役の蜜柑という組み合わせになっている。

私の中では蜜柑と檸檬のコンビの掛け合いは最高で伊坂作品の中でも上位に入りそうな

コンビかもしれない。

そしてツキに見放されている気弱な殺し屋の七尾と真莉亜のコンビも最高で、

七尾のキャラ的にコメディ要素が強くなっていて、

この二つのパートはものすごく楽しく読んだ。

元殺し屋の木村は直情径行のキャラで私としては好きなんだけど、

王子絡みの話がものすごく気分悪いから何とも言えない部分ではある。

王子のパートは当然最悪で、小説なんだけど、ここまで気分悪いのも久しぶりな感じがする。

別に話そのものが出来が悪いというわけではないんだけど。

出てくる登場人物が殺し屋ばっかりだけど、

それさえ気にならなければ読んで損はしないんじゃないかと思うので、

とにかくお薦めの一冊。

 

 

ネタバレありの感想

面白い部分はいっぱいありすぎて困るんだけれど、

とにかく展開が予想できなかったのが大きい。

木村雄一が物語的にあっさり退場するのが予想外すぎた。

てっきり主人公的扱いで最後大活躍するんだろうと思っていたので。

もっともタイトルの『マリアビートル』の意味を知ったら

天道虫なので七尾こそが主人公なのは分かるようになっている。

 

檸檬の最後のメッセージの『おまえの探し物は、鍵は、盛岡のコインロッカーにある』

で蜜柑が王子を倒すかと思いきや、ここは王子が一枚上手。

しかし、王子の着ているブレザーの衿に貼られた黒いディーゼルのシールで

王子も万事休すと思ったのに、七尾の登場で蜜柑の方があっさり退場してしまうと。

ただ、ここから木村の両親が新幹線に乗り込んで来て、

しかも、まさかまさかの元殺し屋だったという驚きの展開。

木村の両親のキャラクターもかなり良くて、

中学生の王子との対比にもなっていて

木村両親vs王子はクライマックスとして素晴らしいの一言。

しかも、最後は木村渉の復活まであるし、

死んだと思っていた木村雄一も一命を取りとめたらしく、

終わり方も良かった。

王子の最後は明確には語られていないけれど、

木村茂と王子のやり取りや最後の七尾と真莉亜のやり取りからしても、

王子は生きてないと思うけれど、ここはちゃんと書いて欲しかった気もするかな。

もっとも木村茂が語ってた通りの最後なら、書きようがないとは思うけれど。

 

最後の檸檬と蜜柑の復活で締めるのも若干強引とは思うけど、

笑える形の伏線回収にもなってるし最高だったな。

 

伏線の使い方もうまくて、

檸檬と蜜柑の伝言や暴発銃で王子が負けると思いきや、

そこを王子が上回るという展開になっているのも特徴的かな。

伊坂さんの本を読んでれば余計感じるんじゃないかな。

 

塾講師の鈴木が『グラスホッパー』の主人公の一人で、

グラスホッパー』の幻覚説が一応鈴木から語られているし、

グラスホッパー』に出てきた槿も登場して

昆虫が好きでカードを集めていた子供の話が出てくるけど、

健太郎と幸次郎のことだろう。

 

文庫版には七尾の前日譚である「ついていないから笑う」が収録されてるけど、

そこまで特筆すべきものはないかな。

 

今まで読んだ伊坂作品の中でもトップクラスの面白さだし、

伊坂作品に限らずかなりお気に入りの一冊になった。