【松村栄子】『雨にもまけず粗茶一服』についての解説と感想

雨にもまけず粗茶一服

本記事では松村栄子さんの小説『雨にもまけず粗茶一服』を紹介します。
『粗茶一服』シリーズの第一弾。

雨にもまけず粗茶一服

著者:松村栄子

出版社:ジャイブ

ページ数:上巻:282ページ

     下巻:251ページ

読了日:上巻:2025年8月24日

    下巻:2025年8月27日

満足度:★★★★☆


松村栄子さんの『雨にもまけず粗茶一服』

『粗茶一服』シリーズの第一作目。

 

あらすじ

弓道、剣道、茶道を伝える武家茶道坂東巴流の嫡男である友衛遊馬。

あることから父親・秀馬の逆鱗に触れてしまい、

比叡山の天鏡院に行かされることになってしまった。

しかし、寺に行きたくない遊馬は出奔してしまう。

そして、ひょんなことから、

大嫌いなはずの茶道の本場である京都に向かうことになった。

お茶が嫌いだったはずが、個性的な茶人たちと交流するうちに。

 

主な登場人物

・友衛遊馬:坂東巴流の嫡男。浪人生。「アズマ」と名乗っている。

 

・友衛行馬:友衛遊馬の弟。小学六年生。十二歳。

・友衛秀馬:友衛遊馬の父親。坂東巴流の十代目家元。

・友衛公子:友衛秀馬の妻。

・友衛風馬:友衛遊馬の祖父。坂東巴流の九代目家元。

・弥一:坂東巴流の内弟子。友衛遊馬の教育係。

・カンナ:弥一の孫。坂東巴流の内弟子。友衛行馬の教育係。

 

・萩田:友衛遊馬の友達。高校時代のクラスメイト。

・久美:萩田の彼女。

・高田翠:久美の友達。音楽学校でエクレトーンを中心に勉強している。

・高田:高田翠の父親。「高田畳店」の親方。

・高田志乃:高田翠の祖母。巴流の先生。

 

・坊城哲哉:高田翠の幼なじみ。不動産屋で働いている。

・不穏:「長命寺」のお坊さん。「六角坊」とも呼ばれている。

    妻と「ナオちゃん」という息子がいる。

・今出川幸麿:本名は「幸夫」。京都学院高等部の先生。実家は「古美術今出川」。

・桂木佐保:京都学院高等部の三年生。弓道部。

 

・氷心斎巴朱鶴:巴流の家元。

・巴奈彌子:氷心斎巴朱鶴の長女。

・巴比呂希:故人。氷心斎巴朱鶴の息子。

・巴眞由子:氷心斎巴朱鶴の次女。小学五年生。

・鶴了:巴奈彌子の恋人。巴流の内弟子。

 

・伊織:本名は「宮本一郎」。友衛遊馬の弟子。

 

ネタバレなしの感想

本書『雨にもまけず粗茶一服』は、

茶道の家元を継ぐことを嫌がり家出した友衛遊馬が、

ひょんなことから辿り着いた京都で、

茶人たちと交流することによって成長する青春エンターテイメント小説になっている。

 

物語自体はよくあるもので、

家業を継ぐことを嫌う主人公の青年・遊馬が、

色々な人たちと交流することによって成長していくというもの。

 

そして本書の特徴であり、モチーフになっているのが茶道

主人公は茶道の家元の嫡男で、登場人物の多くも茶道をしているということで、

当然ながら物語の至る所に茶道や茶道に纏わる話が出てくる

なので茶道を知らないと楽しめないと思う方もいるかもしれないけれど、

主人公の遊馬は茶道の家元を継ぐことを嫌がり、

茶道の楽しさを理解できないというキャラクターなので、

読者は遊馬視点で遊馬に共感しながら読むことが可能なので、

茶道に詳しくなくても本書は十分楽しめるものになっている

(当然ながら茶道に詳しい方であれば、また違う楽しみ方もできる)

そして本書を読むと茶道に対して興味を持つこと必至。

下巻の巻末には茶道辞典として用語解説が掲載されている。

 

また主人公の遊馬はモラトリアムの青年ではあるが、

読んでいて共感しやすいキャラクターなので、物語自体も非常に読みやすい

さらに登場するキャラクターたちもユニークな人物が多く

不快感などはないので読んでいて楽しく、笑えて、幸せな気分になってくる

青春娯楽小説が読みたい方にはおすすめの一冊になっています

 

 

ネタバレありの感想

物語序盤の主人公の友衛遊馬は、

高田翠への発言などを読んでいる時はあまり共感しにくい人物に感じられた。

しかし読み進めていくと、一見ちゃらんぽらんに見えながらも、

どこからしら生真面目で憎めない部分があり、応援したくなってくる

托鉢は最終的に不穏にお金を没収されているオチも含めれば笑い話になっているし、

畳屋の仕事を手伝ったり、新聞配達をしたりと肉体労働に精を出すというのも良い

 

遊馬の境遇自体はともかくとして、

敷かれたレールに対する反発や古くからあるものへの疑問など、

若いときであれば多くの人が持つ感情が描かれているので、

茶道が扱われていても違和感なく読める。

家元を継ぐことが嫌で家出をしてきたのに、

京都では高田志乃、今出川幸麿、坊城哲哉、不穏など茶道好きな人物たちと

出会うなど、遊馬は茶道から不思議と逃れられないのも物語としては面白い

 

また子供とは思えない機転が利く弟の行馬、

袴姿で武道に明け暮れている内弟子のカンナなど

遊馬とは対照的なしっかりした人物たちが身近にいて、

彼らの対比として遊馬のちゃらんぽらんさが際立つことになっているのも巧い

不登校の伊織に弟子入りされたり、女子高生の桂木佐保に惚れられたりと

遊馬の不思議な魅力も作中でしっかりと描かれているのも良い

巴流の後継者問題ぐらいで、あとは大きな物語があるわけではないけれど、

青春娯楽小説としてはかなり面白く読むことができた

 

ラストでは遊馬が天鏡院を訪れているので、

次作では天鏡院での物語になるのかな。

 

readover5.hatenablog.com